僕が口に出さないでいることをポッと言葉に出してくる…『Ryuichi Sakamoto: Diaries』田中泯さんを迎え舞台挨拶付特別先行試写会開催!

2023年3月に逝去した坂本龍一さんの、最後の3年半をたどったドキュメンタリー『Ryuichi Sakamoto: Diaries』が11月28日(金)より全国の劇場で公開される。9月19日(金)には、大阪・梅田のVS.(ヴイエス)で田中泯さんが登壇する舞台挨拶付特別先行試写会が開催された。
映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』は、2023年3月に他界した世界的音楽家である坂本龍一さんの最後の3年半の軌跡をたどったドキュメンタリー。2024年にNHKで放送され大きな反響を呼んだドキュメンタリー番組「Last Days 坂本龍一 最期の日々」をベースに、未完成の音楽や映像など新たな要素を加えて映画として公開。音楽のみならずアート・映像・文学など多様なメディアを横断し、多彩な表現活動を続けてきた坂本龍一さん。目にしたものや耳にした音を様々な形式で記録し続けた本人の日記を軸に、遺族の全面協力により提供された貴重なプライベート映像やポートレートも盛り込みながら、ガンに罹患して亡くなるまでの闘病生活と、その中で行われた創作活動を振り返る。日記に綴られた日々の何気ないつぶやきから、自身の死に対する苦悩や葛藤、音楽を深く思考する言葉の数々を通し、希代の音楽家である坂本さんが命の終わりとどのように向き合い、何を残そうとしたのかに迫る。人生をかけて追い求めてきた理想の音を生み出すべく情熱を貫いた坂本さんの最後の日々を、晩年の彼が魅せられた美しい自然の音や風景と共にスクリーンに映し出す。生前の坂本さんと親交のあったダンサー・俳優の田中泯さんが日記の朗読を担当した。
上映後、田中泯さんが登壇。作品を観ていた田中さんは「色々思い出しちゃって…今ちょっと言葉ないですね」と放心状態になりながらも「どなたかとこの映画の話をしていただきたい。 それを永遠に続けるぐらいの気持ちがあっていいんじゃないかな、なんて思っています。それが、坂本龍一という人を特別にヨイショしないでいける唯一の方法のような気がします」と来場者に呼びかけた。
生前から坂本さんと親交があった田中さんは「一緒に呑んで、気がつくと朝になっている。 こんな経験を何回かさせていただいた」と振り返りながら「お医者さんに行ったり来たりしているあの時期、実は、京都までE9での公演を観に来ているんです。一番後ろの隅っこで座って観ていただいたんです」と明かす。その後に坂本さんと話をしたく「大きな丸い月のようなものを作って、その中に明かりが灯るんです。明るくなったり暗くなったりする線香花火みたいなのなんです。それが上がったり下りたりしている中で踊った会だったんですよね。 その時、月の話を少ししました」と語った。
2023年に発売された坂本さんのアルバム『12』を聴いた田中さんは「船が宇宙を飛んでいるんですよ。その中で賑やかな音楽が聞こえた。それは、坂本さんの音楽のようだ。船が突然大きくなったり、小さくなったりするんですね。僕の幻だったのか分かりませんが、音楽を聞きながら、そんな思いになったことがあった。亡くなった後、小さな船を天井近くで動かしてやっていたんです。30cm程度の幅の足場がだんだん上に登っていくようにして、それだけを舞台にして踊っていたんですね」と思い返す。
アーティスト・グループ「ダムタイプ」のコアメンバーとして活躍した高谷史郎さんは、坂本さんと田中さんの深い繋がりについて説いているが、田中さんは「深さは、自覚できることじゃない。 自分がどのくらいの深さにいるのか。水に潜っていくと深さは分かるけど、実は、自分の中もなかなか潜り込めないのが人間なわけですからね。 深みというのは、簡単に言葉にはできないものなんだろう」と語る。坂本さんと高谷さんによるコラボレーション公演「TIME」の際には、坂本さんから「今回、泯さん、人類を踊ってくれ」と言われことがあり「世間話みたいなもんですよ。僕は、坂本さんが人類と言った時、”噂話とか、自分とは無縁なものなんです。 世の中にないとは思うんですが。そんなに好奇心を動かしていないような会社に対してお金を動かすのは時間がもったいないから飛ばしちゃおう、みたいな。その時の好奇心が飛び石のように、石けりをやっているような感じかな。 ポンポン飛んでいくようにして会話をするんですね。 かなり延々とそんな感じで喋っちゃう。それが許される相手だったんですね」と坂本さんの人柄が伺えるエピソードを語った。
坂本龍一さんの魅力について、田中さんは「僕が言葉にしないでいることが体の中にあるんだけど、言葉にして出していないことを彼はどんどんやってきたわけですよね。 それは、森の問題だったり、原発の問題だったりと様々」と例を挙げながら「 坂本さんは、ある時に”このままいくと、人類みんな気狂いになっちゃうね” というような言い方をするんですね。多分、僕が口に出さないでいることをポッと言葉に出してくるんですよね。 僕の方が年上なので、本来ならば、そういうことをもっと僕の方からもガンガン刺激しておきたかったな、という気はするんです。僕は、とにかくダンスに惚れちゃったものですから、言葉を信じなくなっている部分が結構あったんですね。 今でもそうなんですけど、自分の中では、言葉を純粋に使っています」と説く。坂本さんの好奇心を動かすものについて「人間、そのものなんだろう」と思いながら「彼の音楽は、彼の中に元々あったのか…ある大きな刺激で宇宙船のようにバーンと飛び込んできたのか分かりませんが、音楽を考え続ける、あるいは、音楽にふれ続けることが、人間に対する好奇心と一緒に育ち続けているんじゃないかな」と受けとめている。そういった点については自身と似ているように感じ「踊りを考えることが、僕にとっては人間であることを考えること」と捉えていた。
今回、坂本さん本人が書かれた日記の朗読を担った田中さんは「言葉を喋る常識、というのをむしろ疑ってみよう、というか…感情と言葉をなるべく距離をとっていられるようにして喋ろう、とかね。思い出せば沢山あるんでしょうけど、必死でした。彼の日記でもあるし、携帯電話にも書いたりとか。手書きのものが圧倒的に多いんですけど、鉛筆で書いてある。走り書きのような日記がいっぱいあるんです」と明かしながら「でも、日記とはいいながら、不特定多数の人間に向かって、彼は言葉を吐いていると思います。つぶやいていないんです。つぶやいているかのように見せかけて、読まれることを知っている。彼の口から出る言葉は、基本的に相手だけじゃないんですよね。そこに1人しかいないんだけど、大勢の人がそこにいるというのが彼の思想だ」と理解している。そして、改めて坂本さんについて「子どもの中の子どもです。大人っぽいことを言っても、自分が無理したことを言っている時は照れちゃいますよね」と指摘し「初めて一緒に飲んだ時、思ったんですよね。 この人、”本当”で生きていきたいんだ。本当の気持ちとか、本当のことをやりたいとか、本当に一緒にいたいとか」と思い返す。そして「今、嘘だと分かっていたら通り過ぎていきますよね。適当に答えている時がありますよね。僕もあります。なぜ、それでやり通しちゃっているんだろうか、という疑問を大人は持っちゃいけないんですか?社会はそういうもんだよ、と言うじゃないですか?」と投げかけ「坂本さんはそれに疑問を持っているんですよね。僕もそうですけど。実は、そういう大人は沢山いますよ。でも、大人の社会は、よくよく見れば嘘ばっかりじゃないですか。子供っぽい話をして笑われるかもしれないけど、笑っていられるかな」と提言していく。そんな現代における坂本さんについて「ずっと辞めずに最後の最後まで音楽をやっていたわけですね。多くの場合、ピアノに向かうことの繰り返し。同じ指仕事で音を出すことを繰り返し毎日やっていたとしても、深い感性にその手が見合わけですね。そういうようなことをずっと続けてきた」と解説し「これは、子供が同じ遊びを毎日飽きもせずやるなぁ、と同じこと。子供は同じことをやっていないんです。毎日新しい何かが見つかるんですよね。見つかるからこそ、やめずにやっている。大人は、同じことをやっている、と決めつけちゃうわけですよね」と指摘する。同時に「時間はない、とも言いますよね。今、僕は80歳と何ヶ月の時間を生きているわけです。でも、今、こうやって話していて、私の新しい体験がやってくるわけじゃないですか。 生きてる間、ずっ~と僕は新しいですよね。新しい瞬間に付き合って生きてるわけです。 ”そうか、また1日経ったんだ”ということですよ。それを前倒しにして、”来い来い、来い来い、俺は生きているんだぞ”というような遊びもできちゃう。双六だってそうですよね。遊びは、生きていることと関係しているわけです」と説いた。
命というものを扱った本作について、田中さんは「坂本さんが抱えた体、あるいは、引きずっていた身体と私たちは全く違うコンディションの中に生きているわけですよね。それが、彼が喋ったこと、彼がやってくれたことを一旦置いて”見よう!”、”分かる!、”聞こうという風にして生きているわけです。 これは、ひょっとしたら無理なことかもしれないし、失礼なことかもしれない。 でも、最期の最後まで彼を見せるわけですよね。 これは奇跡に近いです。最期の最後に見せていることすら知らない最期の方が圧倒的に世の中多いわけですから、死ぬ瞬間まで映像に残っていると思います。 とんでもないことだと思いますよ」と断言し「でも、これは本を正せば、子供のような好奇心を絶対に捨てずに大事に持っていた、ということの証拠だ」と理解していた。そして、本作の鑑賞について「子供を一緒に連れて行って見せるのもいいかもしれない。おとなしくしているおじいちゃんやおばあちゃんに”一緒に見に行こうよ”ということもいいかもしれない。素晴らしすぎる例題だ、と僕は思います。そのことは、彼の意識の中に絶対あったはずです。”なるほど、特別じゃないんだ”ということだと思うんです」と幅広いお客さんが鑑賞することをお薦めした。
映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』は、11月28日(金)より全国の劇場で公開。なお、現在、坂本龍一さんの大阪で初となる大規模企画展「sakamotocommon OSAKA 1970/2025/大阪/坂本龍一」が大阪・梅田のグラングリーン大阪 うめきた公園 ノースパークにあるVS.で開催中。

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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