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水道橋博士の姿勢は、苦しんでいる方が抱える重い肩の荷を軽くするものになるんじゃないか…『選挙と鬱』青柳拓監督に聞く!

2025年7月3日

2022年の参議院選挙に出馬し、当選を果たした水道橋博士の選挙活動に密着したドキュメンタリー『選挙と鬱』が7月4日(金)より関西の劇場でも公開される。今回、青柳拓監督にインタビューを行った。

 

映画『選挙と鬱』は、2022年の参議院議員選挙に立候補した水道橋博士の選挙活動に密着し、奇跡的な当選から鬱病による議員辞任とその後を追ったドキュメンタリー。2022年6月、お笑いタレントの水道橋博士は、参議院議員選挙にれいわ新選組から急きょ立候補することになった。弟子や元マネージャー、仲間の芸人たちで構成された素人チームは、手探りでドタバタな選挙活動に奔走。モハメド・アリの名言「Me We(私はあなたたちだ。あなたたちは私だ)」から民主主義の根幹としての政策を打ち出した水道橋博士は、比例代表候補として全国を飛び回り、奇跡的に当選を勝ち取る。しかし国会初登院からわずか3ヶ月後、水道橋博士は鬱病を発症し、休職と辞任を余儀なくされる。監督は『東京自転車節』『フジヤマコットントン』の青柳拓さん。持ち前の人懐こい性格を生かして選挙活動チームの一員となった青柳監督が、内側から選挙活動のディテールを映し出すとともに、うつ病による辞任とその後まで追い続けることで、個人視点から社会を浮かびあがらせていく。

 

2021年、TBSラジオ「たまむすび」内のコーナー”町山智浩の『アメリカ流れ者』にて『東京自転車節』が紹介されて以降、町山さんとのつながりが出来た青柳監督。水道橋博士が参議院議員選挙に立候補したことを受け「撮ってみないか」と連絡を頂いた。監督自身は、選挙について関心があったわけではないが「これは撮ることができるかな。思い切って一歩踏み出してみよう」と決心。「自由に撮らせてもらえなかったら、諦めたらいいか」といった余裕を以て、興味を示してみることに。そして、水道橋博士への挨拶に伺ってみると「24時間いつでも撮っていいですし、編集には一切口出ししません」と仰ってもらった。「政治は、どんな人にとっても自分事になる。素人なりにも発見の過程を見つけられたら、おもしろい作品になるんじゃないか」と気づき「 選挙戦のラストは当選か落選。1ヶ月に及ぶ撮影でどれだけやれるか」と勇んで撮影に臨んだ。

 

とはいえ、水道橋博士に密着して撮影するにあたり、最初は距離感や関係性の構築が難しかった。どんな人にも同じアプローチをしている方、と事前に伺っていたが「撮り手である個人をしっかりと見てくれている感じがせず、無表情だった」と困惑。「博士は、みんなのために戦うために選挙に出ている。みんなの思いを背負っていて、その態度はどうなの? 本気なの?」と尋ねてしまった程で「負けるんじゃないかな…とにかく博士の選挙の本気だけでも見られたらいいかな」と負の境地にすら至ってしまった。それは、映画『レスラー』の如く「過去の栄光があった人だけど、家族や身内もボロボロになり、孤独になったあげく、選挙に出馬して負ける」と想定し「本気になっている部分が一つでも撮ることが出来れば、お客さんに勇気を与えられる映画になるんじゃないか。 とにかく頑張ろう」と意気込んだ。その後、関係性を深めていく中で、監督自身について理解してもらえるようになり、コミュニケーションが出来るようになり、人間性も垣間見せてくれるようになった。皆で共闘しているような感覚にもなり、自身の提案も受け入れ、おもしろがってもらい「内側からコミットしていくようになり、博士と共に帯同する選挙戦スタイルが出来ていくんじゃないか」と次第に腑に落ちていく境地に至っている。

 

また、映画としてのおもしろさやダイナミズムを作り込んでいく必要があり「博士には、もっともっと周囲の人間と関わっていってほしいな」と望んだ。撮影の裏側では、町山さんとも「博士が持っている、人間としての躍動感をどのようにして表現できるのか」と相談していた。そんな渦中、世の中では大きな事件が起こり「民主主義における選挙が壊される、と感じた。選挙戦自体もどうなるか分からない」と困惑の境地に達してしまう。「実際の世の中は、何もなかったかのような空気感が漂っていた。これが良いことか悪いことかも分からない」と揺さぶられたが「それを打ち砕くかのように、三又又三さんが次の日には壊していく。 心配になる程に唖然としながら撮っていた。彼はイデオロギーが一切なく、 自分の好きなことを舞台で披露する。結果的に博士を支え、盛り上げている。こんな人は貴重だな」と安堵した。なお、撮影中は手元を空けるために、機材一式はUber Eatsのバックに入れた上で移動しており、体力的にも大変だったようだ。

 

選挙の勝算については、SNS上での動向が日々変化しており、容易に安堵できなかった。そして、当選の第一報を受けた際には「まさか、本当に勝つとは…」と思ってしまう始末。周囲の人達も喜びが分からなかった状態だった。水道橋博士自身も、当選するとは思っていなかったようで「戸惑いながらも、自分を応援してくれた人達、支えてくれたボランティアの思いを背負い、どのようにして国会で反映していこうか、という考えにシフトしていたのかな」と監督自身は受けとめている。そして、国会に初登院する日を迎え、”これから博士はどんな国会活動をしてくれるのか”という期待の中で作品の公開に向けて準備を進めていった。だが、鬱病を患い休職し、後に辞職するに至り「このままの映画では公開できない」と察し「選挙戦を終えて見事当選、博士のこれからの国会活動に期待するワクワクハッピーエンドの映画を、鬱病で辞職されている博士がいる現実の状況で、観客はどのように観ていいか分からない」と認識。映画の公開を一度は諦めた。しかし、れいわ新選組 党代表の山本太郎さんによる「休みたい時に休める社会を、辛い時に辛いと言える社会を目指したい」という会見での言葉を受け「公の舞台に立つ国会議員という人間が、率先して病気を開示して、悩みながらも休職という形でとどまる、という表明は、鬱で苦しまれている人たちにとって、理解の促進にもなるし、重い肩の荷を軽くするものになるんじゃないか」と受けとめていく。これは「博士を撮る時、どのように向き合えばいいか」という姿勢の指針にもなり「 鬱は常に隣同士にあるもの、共にあるもので付き合っていくもの。撮影を再開する時は心配だったけれど、博士自身も、病気を公にして、鬱で苦しまれている方、周りの家族、支えている人達の助けになる存在になれるんじゃないか、と言っていた。選挙戦の続きを描くための道筋になりましたね」と思い返す。なお、編集は2022年9月から始め、既存のドキュメンタリーには独特の作風が施されており「映画が持っている要素は、音楽でもコミカルに表現できる。全体的なトーンでもコレしかない。お客さんには是非楽しんで観てもらいたい」と期待している。タイトルに関しては、当初は別の案があったが、完成後には、水道橋博士から「シンプルに『選挙と鬱』が良いんじゃないか」という提案があり、全会一致に至った。

 

完成後、マスコミ試写が行われた際には、拍手が起こる程に肯定的に受けとめてくれる人が多く「これ青春映画の娯楽作品だね」「裏・三又又三ムービー、影の主役は三又さんだ」といった声や、「自分が鬱で経験していたことを踏まえて刺さった」といった自分事として受け入れた方もいたようだ。監督自身も「ジェットコースターのようで、ずっとドタバタな珍道中。三又さんが加わってからは様子がおかしい。博士はとにかく不器用でまっすぐ。様々な人の側面から、色々な見方をさせてくれる映画だな」と実感している。なお、水道橋博士は、完成前に関係者の方々と一緒に鑑賞し「本当良かった。もし1人で観ていたら、辛くて見られなかった。 皆が周りで笑ってくれていたから 安心した」という感想を届けてもらった。

 

映画『選挙と鬱』は、関西では、7月4日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、7月5日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、7月12日(土)より神戸・元町の元町映画館、7月18日(金)より兵庫・豊岡の豊岡劇場で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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