森沢明夫さんの優しくてあたたかい作品を全て映画化したい…『おいしくて泣くとき』横尾初喜監督に聞く!

孤独な少年と少女の初恋と突然の別れ、30年の時を超えて明かされる少女の秘密を描く『おいしくて泣くとき』が4月4日(金)より全国の劇場で公開される。今回、横尾初喜監督にインタビューを行った。
映画『おいしくて泣くとき』は、なにわ男子の長尾謙杜さんが劇場映画初主演を務め、人気小説家である森沢明夫さんの長編小説を映画化したラブストーリー。同じく森沢明夫さん原作の映画『大事なことほど小声でささやく』も手がけた横尾初喜監督がメガホンをとり、男女の突然の別れに隠された秘密をめぐる物語を描く。幼い頃に母を亡くした心也と、家に居場所がない同級生の夕花。学級新聞の編集委員を任された2人は、最初はぎくしゃくするも次第に打ち解け、2人だけで”ひま部”を結成する。それぞれ孤独を抱える心也と夕花は距離を縮めていくが、ある事件をきっかけに夕花は姿を消し、心也は行き場のない思いを抱えたまま、交わした約束を胸に彼女を待つ。突然の別れから30年が経ったある日、夕花の秘密が明かされる。アニメ映画『かがみの孤城』で主人公の声優を務めた當真あみさんがヒロインを務め、子ども食堂を切り盛りする心也の父である耕平を安田顕さん、心也の亡き母である南を美村里江さん、父の想いを受け継いで子ども食堂を守る30年後の心也をディーン・フジオカさんが演じた。
長崎県佐世保市出身の横尾監督は、2019年製作の『こはく』公開後に「長崎で継続して映画を撮っていく」と約束。次作の準備をしていた。だが、コロナ禍となり、現地でクランクインすることすら出来ずじまいに。また、当時、森沢明夫さんとつながりのある方が監督の知り合いにいることが分かり、そこで、森沢さんの小説を読んでみて「『大事なことほど小声でささやく』と『おいしくて泣くとき』を是非とも映画化したい」と願望。まずは、予算の関係から、『大事なことほど小声でささやく』の映画化を手掛けることにした。その際、森沢さんとお会いする機会があり「せっかく皆さんに本を読んでいただくなら、読み終わった後は、あたたかい気持ちになってもらいたい。希望を持ってもらいたい」という思いを伺い、監督自身も共鳴。「すごく素敵な方だな」と印象に残った。なお、『大事なことほど小声でささやく』製作時、森沢さんは台本のチェックは行わず、初号試写の際には横尾監督は同席することが出来ず。試写を終えた後に、大号泣した森沢さんの姿を見て安堵することができた。
ヒューマンドラマを多く手掛けている横尾監督は、『大事なことほど小声でささやく』では家族の物語にフォーカスして手掛けたが、『おいしくて泣くとき』については「家族や恋人ではなくとも、それらを超える愛を以て行動した結果によって人が救われていくことに感動してしまった」と明かし、他にはあまりないタイプの物語について映画化を強く希望していく。5年前頃からTVドラマの仕事を共にしてきたプロデューサーの星野恵さんに「ちょっと読んでくれ。感動したならば、やってください」と伝えて『おいしくて泣くとき』を読んでもらい「感動しました!やりましょう」と意気投合し、現在に至っている。
こども食堂を題材にしている本作。森沢さん自身が、こども食堂に関心があり資料を集めていた時に、角川春樹さんから「こども食堂を題材にした作品を書いてほしい」と依頼を受けた、とのこと。また、横尾監督の幼馴染が佐世保でこども食堂に携わる仕事をしており、ドキュメンタリーの撮影もしていた。かつては、子どもが無料でまたは低額で食事ができる場所であったが「今は、コミュニティが出来上がっていることが大切。こども達が暗い顔で食べているのではなく、笑顔で集まっている。子どもだけではなく、高齢の方も一緒に作るようになっており、それが楽しみになっている空間を作っているんだな」という印象が大きく、本作においては「過去の回想シーンでは、ご飯が食べられないことを描いているけれども、現代のシーンは、決してそんな風には描かない」と意識している。
キャスティングにあたり、企画段階から、心也役には長尾謙杜さん、夕花役には當真あみさんの名前が挙がっていたという。横尾監督と星野プロデューサーにとっては念願のフレッシュなキャスティングとなった。脇を固める俳優らのキャスティングも若手からベテランまで万全の布陣であり「特に、安田顕さんは、本当にずっとご一緒したかった方。このタイミングでお父さん役を演じていただけるのは嬉しかったな」と横尾監督は感慨深げだ。また、子役のキャスティングに関しては、初監督作『ゆらり』の頃から秀でており「映画と演劇では、少しずつ違ってくる。できるだけ癖のないお子さんをチョイスさせて頂いているかもしれないですね。事務所でのレッスンを受けている子どもを起用している方がほとんどである中では、自然体の演技ができる子どもは突出している。自分で演技をコントロールが出来そうな子だと気づけば選んでいることがけっこう多いですね」と説く。
撮影は愛知県の豊橋市、豊川市、蒲郡市や静岡県の掛川市、浜松市など各地で行われた。特に、現在の心也が営む“カフェレストラン・ミナミ”のロケ地探しには苦労している。「30年前と現在で同じ場所にしないといけない、という縛りがあった。とはいえ、そんな場所が見つかるのか?」と困惑しながらロケハンをしており、諦めぎみになってしまう。すると「豊川で見つかりました」という連絡を受け、現地に伺うと「全くの想像通りじゃないですか」と驚くばかり。ロケ地となったCAFE MOOD TOYOKAWAは、実際に子どもにソフトドリンクやうどんを無料で提供されているカフェで「2階建てのカフェで、お母さんがゆっくりできるように、2階は子供が遊べる場所に設計されているんです。すごく素敵な場所で、パンケーキがめちゃくちゃ美味しいです」と横尾監督もお気に入り。店主さんから「何をやって頂いても大丈夫ですよ」と快く承諾いただき「全面ガラス張りだったので、それを外させて頂いた。1ヶ月に及ぶ撮影期間中は、お店をお休みにして頂いた。とてもありがたかった」と述べ、感謝しきれない気持ちだ。蒲郡市にある西浦園地がロケ地となって、クローバー畑の撮影をしているが、実際はクローバーが生えていない。蒲郡市が管理している公園であるため「本当にクローバーを植えてしまってはいけない。植えて生えてしまうと、クローバーの繁殖力は凄まじいらしい。とはいえ、撮影時には馴染ませておく必要があり、美術さんには物凄く苦労してくださいました」と明かした。
クランクイン後、撮影現場で横尾監督は「穏やかな現場にしよう」と心がけており「絶対に役者さんに寄り添う」と決めている。スタッフの方々へのリスペクトを込めており「編集を手掛けた方も素晴らしい方。その方の視点を取り入れさせていただきながら作っている」と話す。自身の作家性については念頭になく「結果的に、やさしくてあたたかい、と言って頂けていることは嬉しい。確かに、やわらかくて、あたたかいテイストのある映像が好きなんだろうな」と語る。
かつて、『こはく』の劇場公開当時、主演の井浦新さんと沢山の映画館を共に周り、ティーチイン等も開催してきた。井浦さんから様々なことを教わると同時に「やはり、映画は、お客さんに観てもらった時に、ようやく飛び立っていきますね」と言われたが印象に残っており「沢山の感想を頂いた時にこそ、初めて映画が完成するんだな」と実感。本作に関しても、先日開催された完成披露試写会の際には「今までないぐらい泣いた」「過去一番に泣いた」といった感想を伺い「映画が完成したんだな」と手応えを感じている。
劇場ロードショー公開が目前となった現在、横尾監督は「森沢さんの小説はほんとうにあたたかく、全部好きなんです。全ての作品を映画化したい」と願っており「商業映画として製作する際には分かりやすさも求められますが、原作の構成をさわることはあんまりしたくない。作品の規模にも依りますが、色々と手掛けたい作品が沢山あります」と話す。最近出版された作品の中では「桜が散っても」を挙げ「社会派の話であり、少し年齢層も高めでありますが、家族ものの作品なので、どうにかして映画にしたいな」と考えており「思いがあたたかく優しさがある森沢先生の小説を原作にした映像化のお仕事は、ライフワークにしたい」と今後を楽しみにしながら語ってもらった。
映画『おいしくて泣くとき』は、4月4日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマや難波のなんばパークスシネマ、京都・二条のTOHOシネマズ二条や三条のMOVIX京都や七条のT・ジョイ京都、神戸・三宮のkino cinema 神戸国際等で公開。

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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