Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

  • facebook

声を挙げられず誰の目も行き届いていない場所は、世の中の至る所にあるんじゃないか…『月』石井裕也監督を迎え舞台挨拶開催!

2023年10月22日

山奥の障害者施設で働く元作家の女性が、入所者と関わっていく中で、職員が暴力を振るっているという現実に直面する『』が全国の劇場で公開中。10月22日(日)には、大阪・九条のシネ・ヌーヴォに石井裕也監督を迎え舞台挨拶が開催された。

 

映画『』…

夫と2人で慎ましく暮らす元有名作家の堂島洋子は、森の奥深くにある重度障害者施設で働きはじめる。そこで彼女は、作家志望の陽子や絵の好きな青年さとくんといった同僚たち、そして光の届かない部屋でベッドに横たわったまま動かない、きーちゃんと呼ばれる入所者と出会う。洋子は自分と生年月日が一緒のきーちゃんのことをどこか他人だと思えず親身に接するようになるが、その一方で他の職員による入所者へのひどい扱いや暴力を目の当たりにする。そんな理不尽な状況に憤るさとくんは、正義感や使命感を徐々に増幅させていき…
『舟を編む』の石井裕也監督が宮沢りえさんを主演に迎え、実際に起きた障害者殺傷事件をモチーフにした辺見庸さんの小説を映画化。洋子の夫である昌平をオダギリジョーさん、同僚のさとくんを磯村勇斗さん、陽子を二階堂ふみさんが演じる。

 

上映後に石井裕也監督が登壇。大阪芸術大学出身であることから、親しみを込めながら真摯な姿勢が伝わってくる舞台挨拶が繰り広げられた。

 

映画化される前に辺見庸さんによる小説『月』の文庫版にて石井監督は解説を執筆している。石井監督は「原作者である辺見庸さんのファンで、18歳の時から全著作を読んでいる。だからこそ、何故、障害者施設殺傷事件を題材にして書いたのか、僕には分かるんですよね」と真摯な姿勢で話し「辺見さんが長年問題にしていた、社会の欺瞞やずるさ、闇。遂に、その問題の本丸に切り込んだな」といった印象を受けていた。また、辺見さんの作品が好きであることを公言していると、珍しがられ解説の執筆依頼を受けることになり、プレッシャーもあったようだ。だが、解説文を読んだ河村光庸プロデューサーから映画化のオファーを受け、本作の制作に至っている。

 

原作では、きーちゃんにが主人公として書かれており、映画を観たお客さんにとっては驚きの設定だ。石井監督としては「ある意味では、この映画の主人公はきーちゃんとも言える。きーちゃんの分身のような存在が洋子ですね」と解説し「重度障害者の中に入り込むことが原作のテーマだったはず。どういうキャラクターが出来上がろうと、そこだけは押さえなきゃいけない」と認識している。

 

キャストにとっても、本作への出演は覚悟が必要だ。「最終的に、出演を決めた主要となる4人の方々は勇敢な方なんだと思うんです。表現をする価値とリスクを天秤にかけ、前者を取った。自分の言葉を持ち、しっかりと責任を引き受けられる人達。この作品の意義に賛同し出演してもらった」と敬意を表す。なお、さとくんを演じた磯村勇斗さんに対して「実際の事件の犯人を描くつもりはない。彼を掘り下げても何も出てこない」と事前に話していたが「それでも磯村君は、最初は犯人に接近していった。でも、それは危険で何のメリットもない。そのことを確信して引き返してきた。今回、さとくんをどのように描くか。実際の犯人を模すのではなく、きわめて普通の人間にしたかった。犯人が言ったことの中には、今の世の中そのものがある。このことを描く方が重要だと思った」と説く。

 

実際、現在でも障害者施設で虐待などの事件は起きており「誰の目も行き届かない場所で、ある条件さえ整えば、人はなんでもする、というのは事実だと思う。だから、そういう状況を社会が作り出すことが危険なんだと思います」と捉えていた。なお、本作を描く際に協力して頂いた障害者施設の方から「アウシュヴィッツ収容所でさえ、解放後に告発があった。今でも事実関係などの真相究明が続いている。でも、重度障害者施設の問題や虐待等は告発がほとんどないんです」と聞き「告発が出来ない。声を挙げられない。言葉を持っていない入所者の方々がいますから。これは問題。そういう状況だからこそ様々な虐待や問題が起こる」と考察している。だが「声を挙げられない状況、誰の目も行き届いていない場所は、障害者施設だけとは限らない。世の中の至る所にあるんじゃないか。学校や会社、昨今巷を賑わせている性加害の問題もきっと底の方で繋がっている」とも気づいていた。

 

最後に「この映画を観て『言葉にならない』という反応をする方が沢山いらっしゃる。でも、『言葉にならない』という言葉も重要なのかな」と受けとめており「この作品に関して『何かを発言したら危ないかもな』とか『人に言っちゃいけないんだろうな』という抑制がかかるとしたら、そこにこそあらゆる問題の萌芽があるような気がするんですよね。思ったことを仰って頂ければ」と伝え、舞台挨拶は締め括られた。

 

映画『』は、全国の劇場で公開中。関西では、大阪・梅田の T・ジョイ梅田や九条のシネ・ヌーヴォ、京都・九条のT・ジョイ京都や烏丸の京都シネマ、神戸・三宮のkino cinéma神戸国際等で公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

Popular Posts