爪痕が残るような”一生に一本”となる作品を制作したい…『四人姉妹』大森亜璃紗監督と鈴木つく詩さんに聞く!
久しぶりに集まった四人姉妹が掘り起こす家族の記憶を描いた『四人姉妹』が、「田辺・弁慶映画祭セレクション2023」の一作として9月6日(水)に大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で公開される。今回、大森亜璃紗監督と鈴木つく詩さんにインタビューを行った。
映画『四人姉妹』は、母親の死をきっかけに、それぞれの葛藤を抱えた4人の姉妹が集まり、隠されていた家族の秘密が明らかになっていく様を描く。死んだ母親が住んでいた家を手放すため、8年ぶりに集まった4人姉妹。国際結婚をしてフランスに暮らしているが情緒不安定気味な長女ひかる。どこかつかめないところがあり、姉妹の中でも浮いた存在の次女じゅん。頭はいいが男を見る目がなく、とあるトラウマを抱えながら専業主婦をしている三女いおり。明るい性格で自立心もあり、母親の面倒を最後まで見ていたが、家族に対して複雑な思いを抱く四女うり。同じ家で育ったのにバラバラな姉妹が久々に集まったことで、埋もれていた家族の記憶が掘り起こされていく。映画「もうひとつのこと」「あの日々の話」などに出演してきた俳優の大森亜璃紗さん(旧芸名・菊池真琴)が初監督を務め、脚本・プロデューサーも担い、三女いおり役を自ら演じ、第16回田辺・弁慶映画祭で俳優賞を受賞した。
10年程度、俳優をやっていた大森さん。大学1年生の時、大学で自主映画の方にスカウトして頂いたことがきっかけとなり、俳優への入り口になった。当時18歳だったが、自主映画を作る時に様々な意見を聞いて頂く機会があり「私が実際に書いた手紙を劇中に使ってもらった経験があり、映画作りに参加をさせて下さった。皆で作った自主映画になった。その経験から、自分で物語を作ってみたい」と野望を抱いていた。だが、自身の若さを鑑み、知り合いの映画監督に相談してみると「お前はすぐやめると思うから、遠回りした方がいい」とアドバイスを頂く。そこで「まずは、俳優業を遠回りしてみよう」と決め、俳優として熱中し、気づけば10年も経っていた。コロナ禍を迎え、時間の余裕があり、様々な映画を観る時間を作ったり、小説読む時間を作ったりしながら、助成金制度も知り「撮るなら今だ。自分が出演できる作品を撮ろう」と決意し、脚本を書き始めることに。大森監督自身が三姉妹であり「中途半端に分からないことを描くより、よく分かることを描いた方が良い」と思い『四人姉妹』を制作することにした。
なお、学生時代は所属していた映画ゼミの卒業制作として短編映画を制作しているが「皆が映画業界を目指しているような人達の集まりではなかったが、皆で映像を撮っていた。卒業制作では、何も分からない中でカメラを回し録音した経験が活きているかもしれない。作品は誰にも見せられないレベルの恥ずかしい作品」と謙遜。「今とは全くレベルが違っていた。今思えば、よくあの時に、映画監督をやりたい、なんて思っていたな」と冷静になりながら「俳優として10年間で様々な現場に立ち、様々な演出家や監督さんや脚本家等とお会いしたことを通して学んだことが今に活きている。遠回りして良かったな」と現在は受けとめている。
脚本執筆にあたり、本作の舞台となった洋館を撮影で使えるようになったことが大きく「私の得意なことは、決められた条件の中で作ること。料理を作る時も、買い物で具材を買うよりは、家にあるもので何を作るかことの方が得意です。今回は、ロケーションありき」と説き「物語を作ろうと思った時、様々なアイデアはあったんですが、各階に違う人種の移民達が住んでいる話から始めた。姉妹の話だったら書きやすいな、と思ったら、すんなりと書けた」と思い返す。「ワンシチュエーションでも飾り込むのは大変だな」と気づき「空き家で作ることが出来る話はなんだろう、と考え書いている。ワンシチュエーションの会話劇にして、中にモノがなくても成立する」という条件の下で書き上げた。
キャスティングにあたり、出演者が姉妹に見えないと困るので、雰囲気が合いそうな人達が知り合いの女優達におり、頭に浮かんだ。長女役の三枝奈都紀さんに関しては、ニューヨークにいた時に伺った映画祭「JAPANCUTS」で、映画『天然生活』に出演していた。「凄く良いな。怖さと共に独特な雰囲気がある方だな」と発見し、興味を持ち始め「彼女と一緒にまたいろんな海外の映画祭とか行きたいな」思い「なんか一緒にやりましょう」と声をかけていた。次女役の小野ゆり子さんは友達で「コロナ禍や出産によってスケジュールも空いていた。相談したら直ぐに『是非やりたいです』と言ってくださった。台本もない状態でキャスティングを受けてくれた」と助けられている。三女を大森監督自身で演じることを決まっていた。「四女はどうしよう」と考えていく中で、以前に共演したことがある女優さんの中に、雰囲気が自身と似ていなくもないポップな演技をする方を検討。実は、別の女優が決まっていたが、スケジュールが突然合わなくなってしまうことに。「初見の人とやるより、雰囲気が分かる人とやりたかった。自分のLINEを遡っていって出てきたのが、鈴木つく詩さん。アイコンが良かった」と偶然にも見つけ「彼女のリールを拝見して、こういう演技ができるんだったら、この子だ」と直感し、オファーした。鈴木さんにとっては有難いオファーとなり「コメディみたいにしたい、と聞いていた。台本を読んだ時、どうやったらコメディにできるのか、ビジョンが見えなかった。私なりに役と向き合い、思い描いた役で臨んだ」と急ピッチで役作りしていく。大森監督も「時間がない中で頑張っていただいた」と感謝しており「結果的に、彼女の雰囲気や演技で、自分が思い描いていたものと全く違った意味で作品が良くなっていき締まった。運命的な出会いだったな」と感慨深い。
四人姉妹の幼少期も描いており、子役については、制作手伝いのスタッフからのお勧めで写真を見ながら選んでいる。特に、(四女うりの幼少期を演じた)太田結乃さんについて「写真の中で一番恥ずかしそうにしていた。様々な人がいる中で、集合写真の中で、子役の中で一番恥ずかしそうにしていた」と興味を持った。「子役はハキハキした大人、頭のいい子供というイメージがあります。そういう子より、子供らしい、本当に恥ずかしそうな子がいいな。人間らしいな」という視点を以て選んでおり「現場に来たら、誰よりもうるさくて楽しそうにしていた。無邪気な子で、撮影現場を楽しんでいた」と大森監督自身も嬉しかった。なお、オーディションは実施しておらず「コミュニケーションをしっかりと行った。台詞は作らず、シチュエーションだけを渡した。例えば、お姉ちゃん役に耳元で『折り紙を折る時は、妹に折り紙を渡さないで意地悪して』とか『変なことをやって』とか。すると、彼女が『えー』と生の反応をしてくれた。姉妹がいる子には『喧嘩する時はどっちの方が強いか』と聞いて、『私の方が強い』と言ってくれたら『じゃあ負けないで』とかって言って演出していた」と所謂”是枝メソッド”を用いており「やりやすかった。緊張させないように心がけましたね。友達みたいな感じを心がけていました」と振り返る。
クランクインを迎え、まずは、ロケとなった洋館の中でリハーサルを2日間しっかりと行った。『四人姉妹』は、1日で起こるシチュエーションであり、日が沈んだら撮影が出来ないので、毎日の撮影は夕方頃には終わりキャストは帰ってもらうことに。その後は、スタッフと翌日の撮影について終電間際まで打ち合わせをしており「これは、なかなかできることじゃない。他の現場では、限られた時間でカット割りも決まっていて時間内に撮らなきゃいけない」と気づかされる。基本的に順撮りで撮る予定だったが「初日に雨が降ってしまい、皆で話し合い、天気が良い方がいいということになり、初日と2日目で撮るシーンを入れ替えた。役者さんもセリフが頭に入っていますし、信頼できる現場だった」と皆に助けられた。
とはいえ、俳優と監督を担う大森さんは「最初は、どうやってやるんだろう」と困惑。「撮影が始まるまで自分でも分かっていなかったんです」と告白し「様々なスタッフさんに支えられて作った作品です。私1人では、出演しながら監督することは不可能だった。無謀なことをしたな」と懺悔しながらも「キャストも2日間でしっかりとリハーサルをさせて頂き、協力的だったので、完成することができたかな」と感慨深げだ。「リハーサル時に伝えたいことは伝えられていた。役者さんも自分のものにして羽ばたいていった」と興味深くなりながら「私が監督としての仕事は終わって、役者として入り込んでいく作業があった。皆さんが完成していた中で、私が加わっていくのがプレッシャーになった」と漏らす。撮影日の朝まで自身が書いたセリフを覚えており「なんで自分が書いたセリフを覚えられないんだろう」と後悔。「皆についていくのが大変だった。自分が作品の雰囲気や、自分がしたいことを一番分かっているはず」と自らを信じ「率先して、自由にこうやっていいんだよ、とふざけることも率先してやるようにしていた。皆がそれを受け取ってくれたらいいな、と意識したところは実際あります」と正直に話す。
他のキャストより後から参加した鈴木さんは「順調でした。苦労はなかった」と振り返りながらも「皆が完成している中で、空気に馴染むのは試行錯誤しましたね」と話す。「既に3人のキャラクターは出来上がっていた。撮影リハーサルの時は、どうしたらいいんだろうな」と困惑しながらも「撮影始まってからは、姉妹に慣れてきたかな。最後は、この人達全員がこの4人じゃなきゃダメだろう」と信頼していた。なお、四女のうり役について、台本を読んだ段階では「これは私にぴったりじゃないか」と直感。「うりは真っすぐな性格。人に流されない強いところがある。思ったことズバッと言っちゃう。そういうところは自分でもあるかな」とやりがいがある役として演じられた。
撮影が進行していく中で、大森監督は「自分が描いていたことや脚本で書いてきたことが、台本から文字達がリアルになった瞬間があった。役者が渡井の思った以上のことをカメラの前でやってくれた瞬間が、絶対に毎日1回はあった。それを見ると、良いものが撮れた」と鳥肌が立っていく。「これを見たかった、これを見られて良かった」と思う瞬間が毎日あり「特にラストシーンが終わった時に、これはもう絶対良い作品になる」と確信。その後、編集作業を経て完パケし、様々な映画祭に出品したけど、半年程度は1つも引っかからなかった。「私の感覚がおかしいのかな、あんなに自信があったのに」と不安になる日々が続いたが「時間をかけて魅力が伝わっていったのかな」と前向きに捉えている。映画祭では様々な反応があった。『四人姉妹』のテーマを掴みきれない方も沢山いることを理解し「単純に『会話が面白かった』と喜んでくれる人もいるし、実際に四人姉妹の方が『本当に凄くリアルなリアルでびっくりしたわ』と言われると、嬉しい。皆さんが悩んだ上で話してくれているんだな」と実感している。「『四人姉妹』は何度も観ると、次第におもしろくなってくる。細かい箇所に仕込んでいるので、一回目では気づかない人の楽しみ方があることが実は良いんじゃないか」とリピート鑑賞もお薦めしている。
現在の鈴木さんは、出産を終えた直後の時期で子育てがメインとなっており「お芝居や撮影現場は好きなので、様子を見ながら、何かしらずっと続けたい」と展望。これを受け、大森監督は「彼女が四人姉妹の気持ちを一番分かっている、と思う。大変な状況だけど、素敵な女優さんだから、またいつか。私が撮るタイミングが合えば、また一緒にやりたい」と願っている。監督自身は「自分の撮りたい作品を長編で撮ってみたい」と野望を抱いており「時間をかけて、お金も集めて、これだ!と脚本も納得した段階で作るまでは、作るのはお休みしようかな」と検討中。「消費されていく作品を作る意味ってなんなんだろう」と考えており「短期間で作った作品は皆すぐ忘れる。爪痕が残るような、一生に一本みたいな作品を作ってみたい。役者も大好きなので、様々なクリエイターさんと出会って刺激をもらいたい。役者としても、これから次々に好きな作品にいっぱい出たいな」と今後も様々な作品で活躍している姿を見かけそうだ。
映画『四人姉妹』と撮り下ろし新作として併映される映画『TOKYO BHUTAN』は、「田辺・弁慶映画祭セレクション2023」の一作として9月6日(火)に大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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