想像以上に音と音楽が作品に厚みを持たせていいんじゃないか!『PLASTIC』宮崎大祐監督に聞く!
幻のミュージシャンであるエクスネ・ケディの音楽を通して出会った男女の恋愛と成長を描く『PLASTIC』が7月21日(金)より全国の劇場で公開される。今回、宮崎大祐監督にインタビューを行った。
映画『PLASTIC』は、『大和(カリフォルニア)』『TOURISM』等で国内外から注目を集める宮崎大祐監督が、幻のアーティスト「エクスネ・ケディ」による1974年ライブ音源アルバム「StrollingPlanet’74」をモチーフに撮りあげた青春映画。2018年、名古屋。1970年代に世界を席巻するも瞬く間に解散したアーティスト「エクスネ」の音楽を愛するイブキは、同じくエクスネのファンでミュージシャンとして東京進出を夢見るジュンと出会い、恋に落ちる。2人の出会いから、その4年後に東京で開催されるエクスネ再結成ライブまでの日々を描く。『あいが、そいで、こい』の小川あんさんがイブキ、俳優のほかミュージシャンとしても活動する藤江琢磨さんがジュンを演じ、小泉今日子さん、鈴木慶一さん、とよた真帆さん、尾野真千子さんらが脇を固める。「エクスネ・ケディ」こと井手健介さんが本作のために結成した「PLASTIC KEDY BAND」が音楽を担当。
映画監督業の仕事とは関係なく、個人的に井手健介さんの作品が好きで聴いていた宮崎監督。今回、boidと作品制作をすることになった時、boidが音源の権利を持っていたので「本当に使えるんですか!?」と驚きながらも「凄く好きなんですよ。何か出来ないかな」と検討。同時に、名古屋学芸大学が製作に携わる案件もあり、プロダクションがまとまっていく。なお、ストーリーのベースに関しては、映画美学校に通っていた頃、古澤健監督によるアメリカンハイスクールゼミを受講し作っていたものを取り入れた。そこに井手さんが手掛ける楽曲の歌詞にある要素を取り込み調整し、名古屋の魅力場ある場所を盛り込んだ。
ロケ地に関しては、名古屋学芸大学の学生が探し回り、沢山の候補地の中から宮崎監督自身が見て回った上で決定している。「どの映画でもそうですが、ギリギリまで粘った方が良いロケ地が見つかる。特に、名古屋は中心部のごちゃごちゃした東京っぽい感じと中心部から少し離れたエリアにある廃墟のようなディストピアっぽい感じのミックスを狙いました」と説き「ミリオン座さんは製作でも協力して下さった。僕自身も好きな映画館だから有難かった。KDハポンは形が特殊で、ニコラス・レイが手掛けた映画のような西部劇っぽい雰囲気がありながら、その上を電車が通っている」と気に入った。
ストーリーに関しては、時間経過のテンポが特殊であり「普通の青春映画が念入りに描くような、話の柱になるところを飛ばしている。紆余曲折の理由については排除している」と話す。「自分が年を取ったせいか『あれだけ重要だと思っていた時間は今となってはそうではなかった』と思ったからかもしれない。普通の日本の青春映画だったらこうやる、という正攻法の逆をやっているから、そういうタイム感だったかもしれない」と振り返りながら「観客の想像力に委ねる比率が後半にかけて増えていく中で、さらに時間の感覚が分からなくなり、場所の距離感も分からなくなってくる。それぞれが認識した現実に辿り着いた」と解説。特に、コロナ禍で実感しており「自分がコロナ禍の世界で1人で存在している。いつの間にか宇宙に放出されて、自分が認識した世界の中にいる。その中に一人一人のお客さんを届けるために、こんな構成にした」と述べる。
作中では、コロナ禍についても描いているが「映画にコロナ禍の要素を入れることを嫌がる人が多い。ネガティブで思い出したくない人もいる」という意見があることも認識したうえで「映画は思い出したくない過去こそほじくり返して思い出すべき」と検討。「映画はその時代の記録だ」という意識が強く「コロナ禍の要素が入っていないと、嘘もいいところ。僕の人生にとっても近年で一番重要な事件。嘘もなく入れたい。我々の生活の中心はコロナ禍だった」と断言する。廃墟の駅前で電話をするシーンがあり「コロナ禍の中で、LINE電話を使っているとブチブチ音が切れる。相手が本当にいるのか、宇宙で無線で話しているような気分になる」と監督自身の経験を取り入れており「最初はディストピア要素が軽め。次第にコロナ禍と共に個人が独立し断絶されるイメージだった。宇宙からの視点では、人類の歴史においてコロナ禍は大したことない。宇宙の時間の中では極小のウイルスが人間に入っていくことに立ち会った記録でしかない」と捉えていた。あくまで本作は青春映画にしておきたく「新しいお客さんにも開いておきたかった。哲学的な思想の要素は少なく、話の軸は青春映画」と語る。
名古屋での撮影については、ロケ地側が協力的であり順調に進められた。「街を撮るのが好きですが、ゲリラ撮影が好き」だと明かし「ゲリラ撮影が難しい制作体制もある。大阪で撮る時よりは苦労した。名古屋は許可を得て撮っている。大きな事件もなく順調に撮れた」と振り返る。撮る度に毎回反省はあるが「この映画は、全て正解だった」と満足していた。だが、撮影終了後にラッシュで見た時は「どうなのかなぁ」と漏らしてしまう。編集の平田竜馬さんと「構成やリズムをどうするか」と議論を重ねた上で作業してもらったが「寄りやカバレッジの説明ショットが上手くいっていない。ベタなカット割りや編集だとわかりやすく話を追えるけど、映画的興奮がない」と指摘。「台湾映画っぽいタイム感やフレーム感で映画全体を揃えてみてくれ」と依頼した結果、本作のテイストが仕上がっている。音響の黄永昌とレコーディングスタジオに入り、映画用のスクリーンでエクスネ・ケディの音入れ作業を行った際に「音と音楽が想像以上に作品に厚みを持たせてくれて、これはいいんじゃないか」と確信し、スタッフ皆も満足感に満たされた。なお、本作の終わり方について、自身でも「相当変な終わりです」と評しながらも「ラストの音楽によって腑に落ちちゃう。納得させられる。最後のカウントダウンのタイミングは、ぎりぎりまで皆で粘った。カウントしている声の間に信号の変わる前の音を入れている。シンクロして気持ち良く終わるように拘りました。物語の最大出力は小さくとも、じんわり広がってきて、最後にスカッと終わる」と解説する。
完成した作品について、初号試写で観た時は「追い込まれた人による憂鬱な悲しい映画だな」と思い「この世界の延長で生きていけるのか、というような気持ちになり、不安になってしまった」と告白。だが、試写を重ねる毎にポジティブな気持ちになっていく。試写で観た人達からの反応としては、7,8割は爽やかさを感じ、感動の声があったと同時に、1,2割の方は、ネガティブな可能性を想像しており「自分の電波が誰にも届かない。一度別れた運命の人とは二度と出会えない、と考えてしまって悲しい気持ちになった」という声を聞き「逆だと思っていた。重くて辛い悲しい話だけど、光明があるという解釈かと思いきや、意外なことにポジティブが大多数。僕の思った反応は少なかった。語りがいのある作品、ああでもないこうでもない、と言い合ってほしい」と望んでいる。
現在、新たな作品のオファーをいくつかもらっており、「いただいたお仕事は基本的に断らない。同時にやっている方がうまくいくタイプ。いくつかのタブとウィンドウをあけて進めるイメージ。1本だけにのめり込んで失敗しちゃうと落ち込んでしばらく何も出来なくなる」と自身について述べ「いつも同時に数本やっていたい。理想は毎年長編を2、3本ぐらいやりたい。『もう映画は無理だ』と思わないうちに出来ることはやっておきたい。そのうち本数だけは三池崇史監督に追いつきたい」と今後の展望を語った。
映画『PLASTIC』は、7月21日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、京都・烏丸御池のアップリンク京都、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。7月23日(日)には、シネ・リーブル梅田とアップリンク京都で宮崎監督を迎え舞台挨拶を開催予定。なお、8月25日(金)より宮崎監督作品『#ミトヤマネ』が全国の劇場で公開予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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