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どこに現実があるのか、現実とは何なのか、素晴らしいアートとして見せられる…『彼女のいない部屋』マチュー・アマルリック監督を迎えティーチイン開催!

2022年9月20日

家出をした女性の秘めた胸の内が、断片的な映像の連なりによって徐々に明かされていく『彼女のいない部屋』が全国の劇場で公開中。9月20日(火)には、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田にマチュー・アマルリック監督を迎え、ティーチインが開催された。

 

映画『彼女のいない部屋』は、本国フランスでの劇場公開前に明かされたストーリーは「家出をした女性の物語、のようである」という1文のみで、物語の詳細は伏せらており、主人公の女性クラリスを軸に、一見するとバラバラのピースがつなぎ合わさることで、ある真実にたどり着く…
『007 慰めの報酬』等への出演で国際的に知られ、『さすらいの女神たち』など監督としても活躍するフランスの俳優マチュー・アマルリックが監督・脚本を手がけた長編第4作。2021年の第74回カンヌ国際映画祭の「カンヌ・プレミア部門」に選出された。『ファントム・スレッド』『ベルイマン島にて』のビッキー・クリープスが主人公クラリスを演じ、『Girl ガール』のアリエ・ワルトアルテが共演している。

 

上映後に、マチュー・アマルリック監督が登壇。今回、台風が日本を縦断しようとしている中で関西へと無事に来ており「台風より少しだけ早めに来られたので実現しました。行けないよ、って周りに言われたんですけど、来ました」と明かしながら御挨拶。今回はティーチイン形式の舞台挨拶となり、次々に手が挙がり、作品の理解に繋がる良い機会となった。

 

本作について「台風のようなもので、どちらからどういう風にどのような流れでやって来るか分からないもの」と表し「現実もそういうものではないか、と思うんです。順番に物事が進んでいく秩序があればいいかもしれないが、実際は希望があったり悩んだり記憶が戻ってきたり。様々な方向に向かいながら人生は進んでいく」と説く。独特な作品の構成について「想像の部分がとても多く、想像しようとする仕草がキーとなっている」と述べ「現実から出ていく為に想像しようとしている彼女を映していく」と表現する。原作であるクロディーヌ・ガレア執筆による戯曲『Je reviens de loin(私は遠くから戻ってきた)』は、実際に上演されることが無かったが「とてもシンプルでありながら本当に力強い物語。最初に想像したものが現実と交換し合っていく作りになっている」と読み解き「本当に身を切るような辛い思いを味わった時、人間は現実の辛い思いから抜け出すために想像力を働かせようとするならば、真実もまやかしの区別が無くなる。錯乱するような瞬間は誰にでもあるんじゃないだろうか。その時をクラリスは生きている」と理解していった。

 

俳優だけでなく、映画監督も生業としていることについては「ミュージシャンにもなれなく、素晴らしい恋人にもなれなく、素晴らしい絵描きにもなれなく、凄い医者にもなれないけれども、セカンドチャンスとして映画を撮ることも可能だ」と前向きに考えており「様々なものをスポンジのように受けとめ、反響を受けとめた上で、人工的なものに対して信じる気持ちを以て映画を作っていく作業」だと捉えている。原作である戯曲について「想像しようとする身振りや所作が書かれている」と興味を持ち「とても短い戯曲には、死者と生者のパラレルワールドが描かれている。自分の姉や妹がいるかのようだ」と感じられた。「日本では死者を感じたり、死者と共に生きたりする文化がある」と見聞きしており「西洋、フランスでは、死んでしまった人は別の場所にいて、脇に置いて生きる」と比較し「だけど、そうじゃない在り方もあることが描かれている」と気づき、映画化に着手。「隔たりのないメロドラマが描ける。そして、亡霊について映画にもなる」と2つのジャンルの映画を実現しようと試みており「どこに現実があるのか。現実とは何なのか分からない。分かっていそうで分からない。このことを映画は一つの素晴らしいアートの方法として見せられる」と取り組んでいる。

 

なお、本作の原題は『SEREE MOI FORT』(私を強く抱いて)。フランスの歌手、エティエンヌ・ダオによる楽曲「La Nage indienne」の一節からの引用である。邦題とは違うが「其々の国の文化が、違う視点を以てアプローチして、異なる扉を開けてくれるのは、素晴らしいことだ」と気に入っており、配給会社の方に感謝している。また、黒沢清監督の『スパイの妻』を例に挙げ、フランスでは溝口健二監督『近松物語』の仏題にほぼ近い命名をしており、繋がりを感じさせるようにしており「其々の国の扉の開け方があって良いのではないか」と感じていた。なお、原題に関しては、感情的だと捉えており、邦題に対しては「”彼女”と”部屋”の二重性が含まれている」と興味深く感じている。

 

エンディングテーマには、J・J・ケイルの楽曲「Cherry」が用いられた。皆で朝食のクレープを作っているシーンを挙げ「クラリスが想像の世界で子供達を成長させていく中で、次第に想像力が増して、彼女がいなくとも存在しているようなシーンになっており、彼女は夫を再び誘惑しようとした時、この歌を唄い始めた」と紐解く。本作の撮影にあたり、雪の季節を跨いで三度の機会があり、インターバルがある中で「楽曲を唄ってもらいテーマ曲にまでなりました」と明かす。なお、クロディーヌ・ガレアの戯曲にはピアノが大事な要素で「クラリスと娘のコミュニケーションツールになっており、娘はピアノと共に成長していく」と確認しており、監督自身も幼い頃にピアノを弾いていたことを添えていく。ベートーヴェンのソナタや俊連符を弾いていたが、或る日辞めてしまって後悔しており「ピアノのシーンは、自分がピアノを続けていたら、こんな風に弾いていたんじゃないか」という思いを以て撮っており「リュシーを演じた2人はピアニスト。LIVE演奏を収録しており、彼女達の感情が表現されている。ジャン=フィリップ・ラモーの楽曲『ガヴォット』がバリエーションを以って響いていくように取り入れている」と述べた。

 

映画『彼女のいない部屋』は、関西では、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や京都・烏丸の京都シネマや神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開中。また、10月15日(土)より、大阪・十三のシアターセブンや、兵庫・尼崎の塚口サンサン劇場、10月22日(土)より京都・出町柳の出町座でも公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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