周囲を表現することで、人間の生き死にという点が存在することを分かってもらえたら…『静謐と夕暮』梅村和史監督に聞く!
“生きる事とは”をテーマに、川辺の街とそこに暮らす人々を静かに映しだした『静謐と夕暮』が関西の劇場でも3月12日(土)から公開。今回、梅村和史監督にインタビューを行った。
映画『静謐と夕暮』は、京都造形芸術大学映画学科(現: 京都芸術大学)2019年度の卒業制作として、梅村和史監督が制作したヒューマンドラマ。写真家の男が川辺を歩いていると、川のほとりで衰弱している老人に、何やら原稿の束を渡している女性の姿を目にする。翌日、再び男がその場所に行くと、その原稿を読んでいる人々がいた。そこには、原稿を老人に渡した女性が書いたと思われる、この川辺の街での日常がしたためられていた。一方、ある日いつものように川辺にやってきた女は、見知らぬ黄色い自転車と川辺に座る男の姿を見る。数日後、男がアパートの隣室に引っ越してきて、女の部屋に夜な夜な男が弾いているらしいピアノの音が聞こえてくるようになる。男の生態が気になった女は、黄色の自転車に乗っていく彼の後をつけていくことにするが…
主人公の女性カゲ役を新人の山本真莉さんが演じ、キーパーソンとなる老人役を入江崇史さんが務めた。
梅村監督とプロデューサーの唯野 浩平さんと主演の山本真莉さんによる3人が主だって制作した本作。当初、手前と向こう側岸で様子が違う場所を京都でロケハンしたが見当たらず、東京で撮ろうとしたが、予算が足らなかった。そこで探しだしたのが、淀川の川辺。ロケハンをしながらシーンが思い浮かび「あの世とこの世の間のような雰囲気を作りたい。どちらかが現実ということでもない。結局は、あの世でもこの世でもない場所にいる人達の物語。黄色い自転車に乗る男が徐々にどの世の者でもなくなっていくストーリーにしよう」と着想していく。
京都造形芸術大学に入学した際、梅村さんは、とある先輩に影響を受けた。しかし、その先輩が在学中に命を絶たれた。学内での関係性は希薄ではあったが、それでもその存在を忘れまいと心に誓ったはずだった。卒業制作を前にして改めて先輩のことを思い出した時、その存在を忘れていた自分に気がついてモヤついた。それでも「今の自分があるのは、先輩が制作した作品に刺激を受けたから。先輩に対して4年間に思ったことがあり、先輩に捧げる作品を作ろう」と思いを抱き「人が死んだことを描くのではなく、人が生きていることを描く。亡くなった、という点を映画で捉えるのではなく、点以外をどのように表現するか。出来事のその周囲を表現することで、点が存在することを分かってもらえたら」と願っている。
静かな雰囲気が漂う本作だが、脚本には動きから全て書いている梅村監督。登場人物達の意図は全て口頭で伝えており「思い描いていたものと少しでも違うとテイクを重ねていきました。そうでない部分もありますが、できるだけ意図的に偶発性を表現しています。地理形成的には、(十三と京都の街並みをつなげるなど)場所が不明瞭なものにしたかった」と緻密に制作している。先にキャラクターが出来上がり過ぎて、キャスティングがなかなか決まらなかったが「老人役を演じて頂いた入江さんには初稿段階から脚本を読んで頂いており、キャスティングについて相談に乗って頂いたり、ご紹介頂いたりしました」と助けられた。表情ではない部分の演技を求めており「当初、(演じて頂く側と)お互いが求めることに違いがあったが、何もしないようにしてもらった。表情があると、生気を感じるように見える。鉛筆の持ち方一つ撮っても生活感が出る」と拘っている。
淀川での撮影にあたり、3人で制作していく中で、「淀川に家のセットを作っているが、置いたままには出来ず、軽バンを1台借りて、毎晩全て撤収していた」と大変な日々だった。キャストの方々も精力的に協力して頂いており「皆のおかげで出来上がりました。山本さんは主演と制作を担い、内側と外側から無心でやって頂いた。疲弊していただろうが、その中でも次第に山本真莉という役者が現れていったと思います」と労っている。
出来上がった作品について「静かな印象より、穏やかな空間という印象を受ける。ノイズで満たされた空間のほうが、(我々は)静謐だと感じる。音がなくなった瞬間に風が流れる」と拘っており、録音はプロデューサーの唯野さんが手掛け「静寂といえるシーンをなくし(「静謐」さを追求し)ている」と説く。「観客の方々がスクリーンと対峙して2時間16分終わった後の自身と世界との在り方を見つめて頂ければ」と願っている。次回作について「人間を撮っているけど、人間がものに見える作品。造形物としての人間が全面に立っている作品。人間の感覚の関係性にフォーカスをあてる」と沸々と野心を抱きながら、思い描いていた。
映画『静謐と夕暮』は、3月12日(土)より大阪・十三のシアターセブンで公開。上映期間中は山本真莉さん、唯野浩平さん、梅村和史監督を迎え連日舞台挨拶を開催予定(ゲスト登壇者として、3月14日(月)に 鈴木卓爾さん、3月15日(火)に佐々木詩音さん、3月16日(水)に川合匠(カワイオカムラ)さん、3月17日(木)に岡本大地さんが登壇)。
- キネ坊主
- 映画ライター
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- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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