都会でも田舎でも起こる皆さんの物語になるんじゃないか…『高津川』甲本雅裕さん、戸田菜穂さん、錦織良成監督を迎え舞台挨拶開催!
一級河川としては珍しいダムがひとつもない清流・高津川を舞台にしたヒューマンドラマ『高津川』が2月11日(金)より全国の劇場で公開された。初日には、大阪・梅田の梅田ブルク7に甲本雅裕さん、戸田菜穂さん、錦織良成監督を迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『高津川』は、島根県を流れる一級河川・高津川を舞台に、歌舞伎の源流ともいわれる「石見神楽」の伝承を続けながら、人口流出に歯止めのかからない地方の現実を前に懸命に生きる人々を描いたドラマ。山の上の牧場を経営する斉藤学は、息子の竜也が地元の誇りである神楽の稽古をさぼりがちになっていることに心を痛め、また、多くの若者たちと同じように、いずれ息子がこの土地を離れてしまうのではないかと心配していた。そんな中、学の母校である小学校が閉校になることを知らされる。
本作では、『踊る大捜査線』シリーズなど数多くの作品でバイプレイヤーとして活躍してきた甲本雅裕さんが映画初主演を務めた。また、ヒロイン役の戸田菜穂さんのほか、大野いとさん、田口浩正さん、高橋長英さん、奈良岡朋子さんらが顔をそろえる。監督・脚本は『白い船』『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』の錦織良成さんが担う。
上映後、甲本雅裕さん、戸田菜穂さん、錦織良成監督が登壇。甲本さんは「本日は地味なタイトルの映画にお越し頂き、誠にありがとうございます」と自虐的に云いながらも「今日を待ち望んでおりました。感謝の一言です」と感慨深く御挨拶。戸田さんは「朝ドラの時にNHK大阪放送で撮影していましたので、あの頃は1人で心細いと思いながら梅田の街を歩いていたことを思い出しました」と懐かしくなりながら「この映画は2年公開延期になったんですけども、いつ観ても心に響く映画になっているなと改めて思いました。本当の心の豊かさとは何か、本当に自分の幸せが何か、自分にとって大切なもの、様々なことに思いを馳せられる映画になっているんじゃないかな」とメッセージを送る。錦織監督は「2年延期、この期間、僕達の映画づくりは止まっていました。公開している作品も沢山ありましたが、この映画は皆で思いを込めて丁寧に作りました。思い思いでつくったものを皆さんに届けたい思いで待っていました」と万感の思いだ。
コロナ禍により、全国公開が2年近く延期した本作。甲本さんは「この2年、長かったですね。延期になって待って、待って、待って…」と堪えながら「僕は今日を迎えて一番感じたのは、今日で良かったぁ、ベストだなぁ」とホッとしている。戸田さんも「皆さんと心が響き合うような気がして、とても感慨深い」と共感。錦織監督は客席を眺めながら「幸せそうに見えます」と感じ取り「映画はお客様のものなので、僕達は作らせて頂いて、感謝です。全てのキャストとスタッフ含めて、思いを込めて作って届けられただけで幸せなんですね」と話す。「ヒットを願うよりも、この映画が地味だからこそ、『今作らなきゃいけないな』という勝手な使命感です。誰かに頼まれているわけではないです』と打ち明けながら「皆さんの物語になるんじゃないか。都会でも田舎でもどこにでも起こる物語を、ちょっとだけ皆に勇気を持ってもらいたい、という思いで作った地味な映画です」と説く。
現在の映画業界を鑑みながら、あえてフィルムで撮られた本作。錦織監督は「フィルムはデジタルよりも遥かにクオリティが高いので、ハリウッド映画はフィルムに戻っています」と説明し「僕達は小さな作品ですが、最後まで拘りました。技術スタッフに加え、俳優達も理解して、丁寧に撮らせて頂きました」と語る。甲本さんは「地味なりにも沢山のことが詰め込まれています」と述べ「過疎化や地域での環境問題もあります。でも、観た後に皆さんそれそれの足下にあるものを気づけるか、が一番大切かな」と言及。「今、当たり前だったことが当たり前じゃなくなっている」と実感しており「今こそ自分自身の足下を見るべきかなぁ。自分自身の問題として気づけたらいいなぁ」と思いながら本作に参加している。
撮影当時を振り返り、戸田さんは「終わりたくないなぁ、って皆が言っていました。俳優としても幸せな最高の現場でした」と称え「映画に表れているかな」と嬉しそうだ。甲本さんも現地を気に入っており「川があって畑があって山があって、監督が座っているとプーさんがいるみたい。幸せなメルヘンの世界にいるみたいだなぁ」と満喫していた。作中には雲海が現れるシーンもあり「3日間通って撮っています。3回目の映像を使っています」と錦織監督は明かす。甲本さんも「大きなOKをもらって、終わった、と思ってホテルに買えると、ドアの下から、“明日4時”と紙が出てきた。3日続いた。誰にも気づかれないシーンだけど、やりがいがあり、僕達は魂を込めている」と力説。錦織監督も、撮影時は「最高だ」と満足しながらも「皆さんが片付けている時に、牧場の社長さんが近づいてきて、『監督、明日もっと良いのが出るよ』と。僕とカメラマンの佐光さんと2人で相談して皆に伝えた」と打ち明け「不器用な撮り方なんですけど、分かって頂けるスタッフと俳優陣だったことが幸せなことですね」と労った。なお、ラストシーン撮影後、甲本さんはすぐに東京へ帰っており、錦織監督は「1ヶ月半、寝食を共にしたので、労おうと思ったら帰っちゃったので寂しかったです」と残念そうた。甲本さんは、監督の気持ちは理解していたが「監督の顔を見ていると、一生ここにいるんじゃないか。一度断ち切るために東京に帰らないと、住人になる気がしていた」と告白する。
話題は、現地の方々からの協力に関することにまで及び、甲本さんは「牧場の社長から服装を借りている」と明かした。錦織監督は「ロケハンしている時に『この衣装良いですね』と社長の衣服を上から下まで沢山借りてきました」と説明。さらに、甲本さんが「店名の看板も全てそのままなんで」と添えると、戸田さんは「是非ロケ地巡りして頂きたいですね」と期待。錦織監督が「実際にあるものを使っているんですけど、美術さんが様々なものを施しているんですけど。ロケを待っていた人が片付けているのをもう一回汚すのが大変でした」と撮影ならではの苦労を話すと、甲本さんは「食卓のシーンでは、牧場主の奥さんが作っていたごはん。僕は専門の方が作ってくれていると思っていたんです。撮影が終わった後、奥さんが『どうでしたか?美味しかったですか?』と聞かれ、『はい、美味しかったです』と応え、『口に合わなかったら、どうしようかと思って…』と。撮影でそんなことある?」と驚きを隠せなかったことを明かす。これを受け、錦織監督は「出てくる”消えもの”は全部地元の方に作ってもらった。僕達が思っているものと違いますもんね」とフォローした。
最後に、錦織監督は「こういう映画を子供達にも見せたいな、という思いがありました。皆さんもお力をお貸し頂ければ」お願いしていく。戸田さんは「この映画は、順々に全国の様々な場所で公開されていくと思うんですけれども、その土地の方の心の灯火になってくれたら嬉しいです。この映画が皆様の中で大切なものになって下されば嬉しいです」とメッセージを送る。甲本さんは「皆の頭や心の中が嫌なことなどでいっぱいになっていらっしゃる方が多いと思うんです。僕も実際にそうなります。僕達の仕事は何が出来るんだ、と思った時、何も与えられないし与えようとしてはいけない」と鑑みながら「可能性があるとすれば、いっぱいになった心の中をほんの少しだけ隙間を空けることが出来るんじゃないかな。映画やテレビや演劇を観た時にちょっとでも皆さんの心に隙間が出来たならば、好きなことや楽しいことだけを入れてください」と一つのきっかけを示す。そして「観た後に誰かと話すきっかけになってほしい。今だからこそ人と話す機会が大切だと思います。マスクをしてでも人と話してほしいな。どんどん外に出て人と話しましょう」と思いを込め、舞台挨拶は締めくくられた。
映画『高津川』は、2月11日(金)より全国の劇場で公開中。関西では、2月11日(金)より大阪・梅田の梅田ブルク7で公開中,また、2月25日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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