サービスをしないギリギリのところで違和感を感じてもらいながら、俳優が魅力的に見える…『あらののはて』長谷川朋史監督に聞く!
高校時代の初恋をこじらせているフリーター女性が、かつての初恋相手にもう一度会いに行こうとする姿を描く『あらののはて』が関西の劇場でも12月4日(土)から公開。今回、長谷川朋史監督にインタビューを行った。
映画『あらののはて』は、『カメラを止めるな!』のしゅはまはるみさん、『イソップの思うツボ』の藤田健彦さん、舞台演出やアニメ作品に携わってきた長谷川朋史さんによる自主映画制作ユニット「ルネシネマ」の第2作。25歳でフリーターの野々宮風子は、高校時代に美術部の男子生徒である大谷荒野に頼まれて絵画モデルをした際に感じた謎の絶頂感を、いまだに忘れられずにいた。絶頂の末に失神した風子を見つけた担任教師の誤解によって荒野は退学となり、それ以来、風子は彼と会っていない。友人の珠美にそそのかされた風子は、荒野に会いに行くことを決意。現在はマリアと同棲している彼のもとを訪ね、再び自分をモデルに絵を描くよう迫るが…
女優・ダンサー・振付家として活躍する舞木ひと美さんが主人公の風子、『あいが、そいで、こい』の高橋雄祐さんが元クラスメイトの荒野を演じた。
舞木ひと美さんから「自分で作品をプロデュースして作りたい」という申し出を受け、長谷川監督は彼女のイメージで当て書きしてプロットを書いてみると承諾を受け、本作の制作に取り掛かった。舞木さんについて「女優として華々しいキャリアはないけど、裏方として映像業界ではキャスティングプロデューサーとして活躍している方なので、どうすれば彼女の魅力に注目してもらえるか」と考え、ショッキングなストーリー展開にしてみることに。また「作品を上映してもらわないといけないので、映画祭のコンペティションでノミネートされて上映してもらえるポジションを狙う必要がある」と受けとめ「必要だと思われるエッセンスとして、青春や初恋がその後にどうなるのか考えました。先が読めないようにして注目を最後まで惹きつけるようにしたいストーリーにして、ターゲットを4,50台の男性にして、こんな恋があったような気がする、という話を書こう」と執筆していく。
キャスティングにあたり「高校生役を演じられて、そこから年齢差が一番遠く同一人物を演じられるとしたら、8年ぐらいだろう」と捉え「当時、舞木さんが31歳だったので、女子高生役はかなり抵抗されたんですが『高校生に見える』と押し切った」と明かす。相方役の俳優やエキストラも含め皆20代後半の方を選んでおり「高橋雄祐さんは若く見える、とオーディションでキャスティングしました。彼は演技に対して研究熱心で、キャストが決まってから、高校生を駅で見て、高校生の所作や雰囲気を1日中見ていた」と感心した。
最近の映画について「サービス過多だと思っている。飽きさせず退屈させないようにしている。配信などで手軽に見れるようになり、展開ないところは早送りしてしまう。それをさせないために、とにかく一瞬でも飽きさせないためには、出演者が何を考えて思い行動しているか、カットを割って寄って引いて全部分かるようにサービスしている映像ばかりになっている」と受けとめている長谷川監督。「自分も同じようにしなきゃいけない」と脅迫観念があったが「よく考えたら、自主映画では自分の作品で好きなことをやっていい」と考え「自分の映画では、サービスをしないギリギリのところを目標にしよう」と決意。舞台演出を長年手掛けており「今回は、演劇で1幕1話もので同じシチュエーションを同じセットで実時間を演じる形式に近い雰囲気になった」と気に入っており「一番は差別化を謀りたい。他の作品のようにサービス合戦になってしまうと、無駄に感じてしまう。違和感を感じてもらおう」と狙いがある。撮影では、カメラを固定し長回しを多用しているが「俳優が魅力的に見えるようにしよう」と熟考し「裏を返せば、見せないようにすることによって、補完しているかな。最初にカメラアングルを作って、芝居を作る。真ん中に寄らないように、端だったりフレームから外れたりしてもいいと考えて印象づけていった」と説く。
また、本作の劇伴では「心情に沿って煽る楽曲は、必ずしもそのタイミングでは流れないように」と工夫しており「現実世界では感情を後押ししたり演出したりするように音楽は存在していない」とふまえ、生活の中にある音楽をBGMにしている。楽曲は、英国・スコットランドのIan Postによる作品について使用権を得た上で取り入れており「スコットランドは日本のメンタリティと似ているところがある。現場で流れている楽曲は心情に沿わない。音楽だけが流れているシーンは心情とシンクロしている。それ以外はコミカルな雰囲気にしている」と一風変わった雰囲気を醸し出した。編集にあたり「自分は一体何を作っているんだろう」とモヤモヤしてハッキリしなかった時間も過ごしている。撮影を終えて素材を見直し台本を読み直したが「編集していく中で『自分が心惹かれるものが盛り込まれているんだな』と気づいた。それをどうすれば効果的に演出できるか」とじっくりと編集し、本作を完成させた。
とはいえ、本作について「実験映画でエンタメでもないし楽しいと言ってくれる作品ではない」と認識しており、映画祭での反応は気になるばかり。出品した映画祭では、他のノミネート作品の監督から「おもしろい、楽しい」と意外な感想を頂き驚いた。だが、関係者試写では、ポカーンとした雰囲気を感じており、戸惑いのコメントも受けていることも事実だ。今作は、自主映画製作ユニット“ルネシネマ”の2作目としてケーススタディだと捉えており「彼らの魅力が存分に発揮される作品を作っていこう、という約束だった。さらに1本が完成しており、もう1本撮影中。すべての作品で撮影を担っている」と自身の役割を述べ「自身としては映画監督として頑張っていきたいので、模索しながらチャンスがあれば」と今後の活動を楽しみにしている。
映画『あらののはて』は、関西の劇場では、12月4日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォ、12月17日(金)より京都・九条の京都みなみ会館で公開。なお、12月4日(土)にはシネ・ヌーヴォに舞木ひと美さんと長谷川朋史監督、12月18日(土)には京都みなみ会館に長谷川朋史監督を迎え舞台挨拶が開催される予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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