ロヒンギャの人々と出会って感銘を受けたプロセスを、観客も辿ることが出来る…『LOST LAND/ロストランド』藤元明緒監督に聞く!
迫害を受け、故郷を追われた幼い姉弟が、家族との再会を願いながら、国境を越えて旅を続けていく姿を描く『LOST LAND/ロストランド』が4月24日(金)より全国の劇場で公開。今回、藤元明緒監督にインタビューを行った。
映画『LOST LAND/ロストランド』は、『僕の帰る場所』『海辺の彼女たち』で国内外から注目を集めてきた藤元明緒監督が、「世界で最も迫害されている民族のひとつ」と言われるロヒンギャの証言をもとに、故郷を追われた難民の幼い姉弟が家族との再会を求め命懸けで国境を越える姿を描いたロードムービー。容赦ない現実と幻想的な表現が入り混じる世界観で、難民たちの過酷な密航の旅路を子どもの視点から映し出す。難民キャンプで暮らす5歳のシャフィと9歳の姉ソミーラは家族との再会を願い、叔母とともに遠く離れたマレーシアへ向かう。パスポートを持つことができない彼らは密航業者に導かれるまま漁船に乗せられ、自然の猛威や警備隊による追跡、人身売買の危機に追い込まれながらも、過酷な道のりを必死に乗り越えていく。主演を務めたソミーラとシャフィの姉弟をはじめ、キャストには総勢200人を超えるロヒンギャたちを起用。故郷を追われた当事者である彼らの声とまなざしは、演技未経験ながらも映画の世界にリアリティを与えている。2025年の第82回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門にて日本人監督初の審査員特別賞を受賞するなど、世界各地の映画祭で高く評価された。
ミャンマーを中心に東南アジアで12年間も活動してきた藤元監督。その中で、ロヒンギャの人々が受けてきた迫害や虐殺について何度も耳にし、現代の世界でこのような残虐な現実が存在していることに大きな衝撃を受けていた。しかし、当時は、ロヒンギャの存在に触れること自体が社会的なタブーとされており、仕事の機会を失うことを恐れ、沈黙せざるを得ない状態に。だが、2021年、ミャンマーで軍事クーデターが起きて以降、様々な支援活動を行うようになった。一方、ロヒンギャの悲劇の際に声を上げなかったことに自責の念に駆られることに。かつての沈黙は個人的な傷となり、倫理的な失敗として向き合っていく中で、本作の企画が生まれ、映画製作を通して、ロヒンギャの人々とつながりたい想いも芽生えていった。
脚本の執筆にあたり、取材活動をしていく中で、”旅をしていく映画”を想像し「旅は、最もドキュメンタリーが撮れない。物理的に撮ったら死んじゃいますから…といったことも含め、旅がいいな」と検討。様々な人々に会って話していく中で、あらゆる旅のエピソードを聞かせてもらい「皆のルートはバラバラだけど、共通して絶対に辿っているルートがある。それぞれにポイントがあり、それを集約しよう」と脚本を構想していった。また、迫害を受けた方々にある連帯性を強く受けとめ「今までの作品では、家族内の結びつき、家族がどのように歩んでいくか、を描いてきた。今回は、血縁や家族環境を超え、人々が連帯をし合って旅をしながら命を運んでいくことが印象的になる」と確信。1年がかりで脚本を完成させた。
キャスティングにあたり、当初は11歳と14歳の兄弟を想定していた藤元監督。ロヒンギャの子ども達が通う学校でインタビューをしていた際、教室で一人遊びをしているシャフィを発見し、彼の魅力に強く惹かれ「この子を撮りたい」と直感的に反応した。偶然にも彼の自宅は学校のすぐ隣にあり、そこで姉のソミーラとも出会う。二人の親密なやり取りは魅力的であり、作品の中心的な存在になり得ると実感。その後、親御さんとも話し合いを重ね、出演を快諾してもらった。ソミーラからは「演技に興味がある」と言ってもらい、ストーリーや構成を説明した上でカメラテスト等をしてみると「やはり素晴らしい。間違いない」と確信。シャフィについては「どこまで理解していたんだろう…お姉ちゃんがいるなら…程度の認識だった可能性がある」と不安要素があったが、映画というものを理解していることが伺えた。そこで「皆の代わる代わる手によって、シャフィが目的へと辿り着く。その連帯性の中で、最終的に観客もスクリーンを通して参加できるようにしていった」とストーリー作りについて振り返る。なお、ソミーラとシャフィは、ロヒンギャの人々が移住した場所で生まれた”2世”にあたり、迫害について両親から聞いているはずだが、イメージが湧きづらいようだ。
また、クランクイン前には、パイロット映像を制作しており「脚本の冒頭5分程度をイメージした試作版映像ですね。前作でも作っていました。VIPO(映像産業振興機構)による海外展開支援事業の支援・補助を受け、ベルリン国際映画祭の企画マーケットに用いる映像を作りました」と言及。また、テスト映像として、出演者がどのような演技ができるか、スタッフのチームワークを確認する意図も込められていた。ソミーラとシャフィにとっては本格的な演技としては初めての経験となり「本番になると、ソミーラと同じクラスの子がいたこともあり、恥ずかしがって演技が下手になっていた」と気づきながらも、2人に対して絶対的な確信が得られている。
ロケーションハンティングでは、ミャンマーの国外で実施しており「コロナ禍以降、移民排斥の思想は、どこの国でもある」と述べた上で「基本的に、地元住民が関わるシーンはないので、交渉はスムーズに進められた」と明かす。本作は、ロードムービーであるため「ロケ地を沢山用意しないといけない難しさは勿論あった。だが、現地のクルーが凄く優秀でした」と感謝している。撮影にあたり、ロヒンギャ語には一般的な文字文化がないことから、脚本を出演者に文字を翻訳して伝えることは不可能であり、基本的に口頭で説明していっており「シーンによっては読み合わせを行いましたが、完璧なレベルでは無理ですね。前日か当日に説明していきましたね」と思い返す。『極北のナヌーク』の撮影で行われたことと同じことをやっている認識であり「現実には起きていない出来事だけど、起き得た自分を演じている。パラレルワールドにいる自分の状態ですね。演技と現実の間のような状態をカメラの前で実践するにはどうすればいいか、と考えた上での手法が絡み合っている」と説く。現場では、カメラマンから離れた場所でモニターを見ながら撮影に臨んでおり「出演者の一番近い場所にカメラマンがいます。必要ならば、カメラマンに指示をするために近づくことはあります。今回は、長回しではなかったので、落ち着いてモニター前にいましたね」と話す。ほぼ順撮りで撮影を進めていく中で、やはり言語が分からないこともあり「即興的なセリフは分からない。通訳を介すると音が入ってしまう。何を言っているか分からない中では、何が正解なのか、と探っていくことは非常に特殊で難しい。日本では絶対にあり得ない」と漏らす程に苦労を重ねた。編集作業で「こういうことを言っていたんだ」とようやく知ることができ「OKかNGか、といった判断基準を物理的に持ち込めない。作り手が撮った映像だけではないものが映っている。彼等からの贈り物を僕らがどのように編集していくべきか。ドラマや映画の撮影と完全に逆転している。そういった意味でドキュメンタリーに近い」と受けとめている。
藤元監督の作品は、ドキュメンタリー映画かと錯覚してしまうような作風があるが「それは、手法が半分。もう半分は出演者の才能」と述べ「一般の方を起用すればそうなるか、というと…そうでもない。彼らにそういった適性があったことに尽きる。キャスティングをした時点で、実現できることが決まっている。ソミーラとシャフィは、本当に天才だったんです」と讃えた。「4歳児にもセリフがある。彼も行動しないといけない。これが、僕らにとって最大のハードル。本当に出来るのか」と不安もあったが「一発OKでしたね。間の取り方や台詞のタイミングは、全てがそのまま練習通りですよね。どうなっているんだ…」と驚いたようだ。『僕の帰る場所』を撮影した際には「二度とこのようなレベルの子とは出会わない。子どもを撮ることはおそらく死ぬまでないだろうな」と思っていたが「子供が主人公で、同等かそれ以上の子と巡り合えたのはすごい奇跡だ」と言わざるを得なかった。
編集作業は、前作以上の8ヶ月程度を要しており、撮影素材を繋げていく中で「構成上は決まっているので、画の並びは固まっている。そこには素晴らしい子供たちの瞬間があるけど、ストーリーを進められていない。どちらを選択するか、このバランスが凄く難しい」と悩んでしまう瞬間が多々あったようだ。だが、今回は、藤本組の年間サポーターだけが編集中の作品を試写できるスクリーニングテストを実施して意見を伺っており「5回程度も実施したことが大きかった。一般のお客さんは、思い入れのあるシーンや描写、大切に思える瞬間に反応する。ストーリーや編集といった映画的な上手さではない。大事な部分を残していくことが大切だった」と実感している。
完成した作品は、ロヒンギャの人々にも鑑賞してもらっており「映像があることによって、子供にも伝えられるかもしれない」といった反応があり、中学生からは「親から聞いていたけど、すごく体感して認識できた」と伝えられた。映画は多くの人に観てもらうことに意義があるが「当時者の人達にも観てもらえる。さらには、子供にも…」と改めて本プロジェクトの重要性を実感している。世界各国の映画祭でも上映され「ロヒンギャの人々が受けてきた迫害を知っている人はほぼいない。1割にも満たない中で、出演者、特に子どもたちへのシンパシーは、国を問わず持ってくれていた」と気づき、喜びながらも「僕も、そうやって彼らと出会って、感銘を受けた。僕らが辿ったプロセスを観客も辿ったことが、映画としてはとても良い反応だったな」と受けとめていた。
なお、文化庁による文化芸術活動基盤強化基金(クリエイター支援基金)に選ばれたことを東京国際映画祭で発表しており、現在は、新しい企画を進めている真最中だ。戦争に覆われた世界の中で翻弄される家族をテーマにした作品を検討しており「ミャンマーの中で内戦が起きている時、自分達はどのような映画を作れるのか。じっくりと考えながら物語作りをやっています」と話す。また、ロヒンギャの人たちによる映画作りも構想しており「彼等が描かれるのではなく、彼らの手による、彼らの声を伝える物語をサポートしていければいいな。そこで新しい映画が生まれていく。特権を持っている人達が作り上げてきた映画しかないので、そうじゃない作品を観たい。映画ファンとしても、彼らの映画を見たい。それらをサポートしたい」と聞き、真摯な姿勢が伺えた。
映画『LOST LAND/ロストランド』が4月24日(金)より全国の劇場で公開。関西では、4月24日(金)より大阪・心斎橋のkino cinema 心斎橋や岸和田のユナイテッド・シネマ岸和田、京都・三条のMOVIX京都、神戸・三宮のkino cinema 神戸国際、6月5日(金)より兵庫・宝塚のシネ・ピピアで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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