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専門領域に一歩踏み込んでいってもいいんだ…!『藍反射』野本梢監督に聞く!

2026年4月2日

恋人との結婚を夢見て、忙しさを理由に自らの体を顧みずに過ごしていた女性が、突然、排卵障害と診断され、その悩みを誰にも相談できないまま周囲との関係に悩む映画『藍反射』が4月3日(金)より関西の劇場で公開される。今回、野本梢監督にインタビューを行った。

 

映画『藍反射』は、26歳で難治性不妊症と診断された経験を持つ気象キャスターの千種ゆり子さんが企画し、20代の未婚女性の不妊治療を題材に描いたドラマ。『愛のくだらない』の野本梢さんが監督・脚本を手がけ、『次は何に生まれましょうか』の稲村久美子エグゼクティブプロデューサーと共に、突然の診断に直面した主人公が身体の悩みを誰にも相談できないまま周囲との関係に悩み、さまざまな人々との出会いを通して自分を見つめなおしていく姿を描き出す。主人公である25歳の深山はるかは、恋人との結婚を夢見ながら、仕事やボランティアに奔走する日々を過ごしている。ある日、同窓会で再会した友人が不妊治療中であることを知りショックを受けた彼女は、自身も生理不順があったことから、友人に勧められるがまま婦人科を受診する。そこで男性ホルモンが多いと診断されるも、対症療法的にやり過ごしてしまったはるかは、不調を抱えながら迎えた大切な日に、大量の出血に見舞われる。これまで持ち前の行動力で他者のために奔走してきたが、自身の悩みは誰にも共有することができない。そんな折、はるかは薬局で万引きを疑われている中学生の優佳里と出会う。『溶ける』の道田里羽さんが主人公のはるかを、『ジオラマボーイ・パノラマガール』の滝澤エリカさんが中学生の優佳里を演じた。

 

野本監督は、6年ほど前、高校の同級生である千種さんから、自身が早発閉経であることを打ち明けられ「映画の題材にしてほしい」と依頼を受けた。「ぜひ映画にして、多くの方にこの悩みを知ってもらいたい」と映画制作に意気込んだが、予算のこともあり、当初はプロジェクト自体が進まず。改めて、スケジュールを調整し、千種さんが発起人となり、稲村さんにエグゼクティブプロデューサーとして参画してもらい、2023年に本格的に動き出した。

 

当時、千種さんから、人知れず注射を打っていたことや保険適用のシビアな基準等といった話を聞いた野本監督は「私が知らないことがたくさんあった。ぜひ千種さんが経験してきたことを映画にしていきたい」と思いを強く持ったが、プロジェクトが進んでいく中で、千種さんからは「私の経験として描いてしまうと、”千種さんの経験なんだな”という視点だけで終わってしまう可能性がある」との懸念から、「架空の人物を据えて、”もしかしたら、これは自分に起こるかもしれない”、”身の回りにいるかもしれない”と思えるように」と、作品方針の変更を依頼された。野本監督は、脚本の執筆にあたり、千種さんに起きたことをメインに描かなくなったということで、「創作物として、どのようにストーリーを展開していき、終わらせるかには作り手の意図が表出することになる。当事者の方が観たとき、”おもしろおかしくされている”、”実際は、そんな簡単な話じゃない”と捉えられてしまうと良くない」と危惧。そこで「可能な限りリアルに描けるように、様々な方の体験を自分の中に取り入れた状態で描いていこう」と注力し、ありとあらゆるエッセイや動画配信に触れていったという。千種さんには、自身の体の状態に気づくのが遅れた後悔の思いから、自分の体と向き合うなら、10代の若い頃から、自分の体に目を向けてほしいいう願いがあったため、野本監督は10代の登場人物と主人公を並べて存在させ、その2人の友情やふれあいが物語を膨らませる1つの要素になると認識していった。また、パートナーの理解についても検討していく中で、「パートナーになかなか理解得られず苦しい思いをしている方も実際にいる」ことを取り上げつつ、理解ある異性の姿も描くなど、「体のことだけではなく、人間関係の悩みや喜びも描いていきたい」と意図を定め、シナリオを書き上げた。

 

キャスティングにあたり「この作品を広く知っていただきたい。これまで自分達が一緒にやってきた方以外の方にも作品に参加していただきたい」という思いがあり、今回はメインキャストに関して新規開拓となるオーディションを実施したところ、1000名以上の方々からの応募があった。1人1人の映像資料等を見ていき「眠れない日々を過ごしながら書類選考をし、その上で対面していった」と振り返る。参加者には事前に制作意図や企画資料やプロットを見ていただいた上で、対面の際に該当シーンを演じていただいており、「演技を確認するだけでなく、題材に対してどのように思われているか、を大事な要素としてお聞きした上で、ぜひ仲間に加わってほしいと思った方にお願いした」と説く。また、「やっぱり、今まで一緒にやってきた方にも、心を込めた作品を一緒に届けるメンバーに加わってほしい気持ちがあり、半分当て書きのごとくお声がけした」とも明かした。

 

撮影は、1日の中で東京だけでなく、千葉や埼玉にも移動して実施する日もあり、体力的にも大変な日々であったようだ。そして、本作のスタッフィングについては、「今までは、照明は撮影スタッフに兼任してもらっていたんです。今回、照明スタッフとして斉藤徹さんに参加していただいたのですが、照明の方に単独で参加してもらったのは初めて」と明かし「場所が変わる毎に、いつも要していた時間の倍程度には準備の時間が必要であり、1日でこれしか撮れないのか、とはじめは思いましたが、作り込まれた現場でのお芝居を見て、時間をかけて良かった」と実感していったそうだ。特に、バーでの撮影では、実際に営業しているバーを借りて、間接照明などの照明を作り込んでおり「そのシーンをご覧になったバーのスタッフの方が、こんなやり方があるんだ、と知り、現在、それを再現するようなライティングで営業しているらしい」というエピソードも。他に印象的だった撮影について、野本監督は診察室でのシーンを挙げた。劇中では診察室のシーンが何度か登場するが、そのほとんどを同じ日に立て続けに撮影しているため、「道田さんは、短い転換の合間に、はるかの身に起きていることを理解して次のシーンへと切り替えてくれていた。医師役の中原シホさんも含め、準備は大変だっただろう」と察し、「でもシーンを繋いだとき、違和感が全くなかった。本当に流石としか……」と讃えている。また、「はるかに関してはほぼ全シーンにおいて彼女に関わることが映っているので、背景が想像しやすい」のに対して、スポット的に登場する人物に関しては想定しづらい部分もあることを考慮し、一人一人に設定資料を準備して、それを理解してもらった上で、クランクインしたという。加えて、熊谷真実さんが登場するシーンについて「当初の想定では、もう少し静かなシーンのイメージだった。でも、主人公はるかが一番落ち込んでいるシーンの後のシーンであったため、はるかの気持ちを熊谷さんの持ち前の明るさによってグッと持ち上げてもらう結果となり感動を覚えた。良い意味で想定外だった」と感銘を受けていた。

 

編集作業に入り、まずは、台本通りに編集してみることに。はるかと優佳里が交互に出てくる構成であったが、初号試写をしてみると、気が乗らない状態だった。「脚本の通りに構成しているんですけど、途中で飽きてしまう。シーンが足りないのか、仮に当てている音楽ゆえなのか」と熟考。インターバルを経て何度も見ていく中で「観客は最初は、はるかの視点で見始めていく。すると、途中で優佳里パートになったときに“はるかはどうなったんだ。何の話が始まるんだ?”と置いてけぼりな気持ちになってしまう」と気づいた。そこで「はるかのヤマになる部分は先に見せておくことで、観客が一旦安堵する。その後、優佳里のパートを始めた方が見やすい」と判断し、撮影から1年後ではあったが「編集内容を大きく変更した」という。その上でさらに「人物ばかりがずっと出てくる印象があったので、観ている方が気持ちを落ち着かせる場面が必要では」とカメラマンの知多良から提案があり、2人で様々な季節の実景を撮りに行き、撮影から2年以上の時を経て、ようやく完成に至っている。なお、音楽について、当初は仮の状態で入れていたが、エンディングテーマであるTAKEAYAさんが作曲・美桜子さんが歌唱の「Echoes of Life」が、稲村さんから届いたときに「ピースがハマった」と手応えを掴んだという。企画を立ち上げた千種さんは、ラッシュの時点から作品に感激しており、野本監督が納得していない状況の際には見守り続け、「もっとこうしたい、と言うと、相談に乗ってくれた。自分ができることを言ってほしい、とずっと伴走してくれた。音楽が届いた時も、何回も聞きたいから音源を送ってくれ、と言われた。千種さんはプロデューサーではあるんですけど、観客としての距離感でいてくれた」と野本監督は信頼を寄せている。

 

そして、東京の劇場で公開が始まったが、お客さんから「勉強になりました」「知らないことがたくさんありました」と言われることが多かったという。「そもそも、私が知らないことが多くて撮り始めた映画なので、上から“学んでほしい”という視点ではなく、私も同じ思いですと思いながら感想を聞いていた」そうだが、「押し付けがましくなく知識や感情が入ってくる、と言っていただけたことが嬉しかった」と安堵した。また、年配の男性にも届いていることを実感しており「そのつもりはないが、男性が悪いと責められた気持ちになってしまうのでは、と心配だった。でも、皆さんは1人の人間を思う、他者を思う、ことについて広い視点で捉えてくれていた。性別や年齢を問わず届けていっていい映画なんだ」と、公開を経て気づかされた。野本監督は、今作の制作を経て「専門的な知識が必要になることも調べていったり、根気よく資料集めをしていったりした上で、監修もしていただければ、専門的な知識が必要な分野の映画も作っていけるということが、自分の中でも証明になった」と自信にもつながっており、「専門の領域に入らない日常の部分だけでドラマを描くこともできるが、そこに一歩踏み込んでリアルな感情を掬い取っていきたい」と話し、今後の多様な作品作りに向けて意欲に満ちている。

 

映画『藍反射』は、関西では、4月3日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田、5月30日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。テアトル梅田では、4月5日(日)に道田里羽さん、井上拓哉さん、野本梢監督、千種ゆり子プロデューサー、4月8日(水)に野本梢監督、千種ゆり子プロデューサーを迎え舞台挨拶を開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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