人々が楽しみながら祭りを作っていることなら映画にできる…『長浜』谷口未央監督に聞く!
滋賀県長浜市を舞台に、地元の祭りの「子ども歌舞伎」を通して、子どもたちがアイデンティティに芽生える過程を描き出す『長浜』が3月14日(土)より劇場で公開。今回、谷口未央監督にインタビューを行った。
映画『長浜』は、ユネスコ無形文化遺産にも登録された滋賀県・長浜曳山まつりの「子ども歌舞伎」を題材に、自己の芽生えの狭間で揺れ惑う子どもたちの心模様を描いたヒューマンドラマ。11歳の伊吹は1年前に他界した父である秀一の遺骨を届けるため、台湾人の母であるヤオファとともに父の故郷である長浜を初めて訪れる。長浜は年に1度の祭りの準備の最中で、伊吹はそこで行われる子ども歌舞伎で、かつて父が演じた女形を演じることになる。慣れない環境と歌舞伎の言い回しに苦戦し孤立してしまう伊吹だったが、自身の性に違和感を抱く少女の花と出会い、少しずつ心を開いていく。そして祭りの本番が近づくにつれ、伊吹は父とその不在に向き合うようになる。『彦とベガ』の谷口未央監督の長編第2作で、幼少期を長浜で過ごした谷口監督が自身の記憶と重ね合わせながら脚本を執筆し、長浜曳山まつりの協力も得て約8年の歳月をかけて完成させた。8人組ボーイズグループVOKSY DAYSの荘司亜虎さんが伊吹役、映画初出演の加藤あんりさんが花役を務め、共に初めての歌舞伎と祭囃子に挑んだ。『ひかりのたび』の瑛蓮さん、『恋人たち』の池田良さんが脇を固めた。
2016年11月、「長浜曳山まつりの映画を撮りたいけど、どうすればいいだろうか」と検討していた中で、山組集会(全ての山組が集まる集会)を見学させていただいた谷口監督。あまりにも厳かな空気が流れている様子を見て「これは容易に手をつけてはいけない。このような神事を映画にしたい、と伝えて実現しないよね」と悟った。だが、集会が執り行われている裏で準備をする様子を見ていると、親しい間柄の人達が楽しそうにしており「お祭りは人間が作るもの。私なら、この部分を映画にできる。映画にするべきだ」と察していく。「これが映画になるのか」と心配することもあったが「人々が楽しみながら祭りを作っている。これは、映画にすることができる」と確信した。
そして、台湾にルーツを持つ子どもが主人公である本作。当初は「もう少し大きな予算規模で撮りたい」という意向があり、冒頭は台湾のシーンから始まり、日本に来てみたが、なかなか馴染めない中で祭りに参加していく、といったストーリーを検討していた。とはいえ、予算を考慮しながらも「お祭りに関するシーンで始まる映画を作ることで、お祭り自体がテーマにもなる。伊吹と花の世界を描くことも出来る」と考え、最終的に、台湾でのシーンはカットし、祭りの稽古シーンから始まる物語となった。
伊吹と花を演じる俳優については、オーディションを実施。花役については、関西や中部を中心に芸能事務所から参加してもらい、その中に加藤あんりさんがいた。加藤さんはフルートが吹けることが特技であり、オーディションでは篠笛をかまえてもらうことに。その姿を見て「かまえた瞬間に格好がきまっていた。そして、目の力がとても強かった」と印象深く「加藤さんが、花だろうな」と確信。撮影監督の根岸憲一さんとも話し、加藤さんに決まった。
伊吹については、オーディションでは「この子だ!」と思える方がなかなか見つからず。インターネット上でも調べてみることにしたが、基準となるものが必要であり「子ども歌舞伎を演じてもらいますが、歌舞伎ができる子である必要は全くない。素人による歌舞伎なので、歌舞伎の御曹司に演じていただく役でもない」と熟考。そこで、伊吹は台湾にルーツがあることから「台湾や中国にルーツがあるようなミックスの方で、この年代の子どもがいないか」と検索し、荘司亜虎さんを発見。荘司さんの父親は中国の方で、中国語が特技であることを確認し、所属事務所にオファー。撮影監督と共に事務所まで伺って会ってみたことで「伊吹は荘司さんに決めよう」と定まった。なお、荘司さんは4歳からダンスを習っていたことから、歌舞伎に通じる身体表現の素養があることに気づく。現場では、歌舞伎の稽古と並行して撮影を進めており「実際の時間軸と同じように映画の撮影をしていったからこそ、クライマックスの歌舞伎の出来栄えが良かった」と安堵しながら「劇場のお客さんにも応援する気持ちがきっと芽生えるのではないかな」と楽しみにしている。
伊吹役と花役の俳優が決まり、伊吹の両親を演じる方についても検討。母親については、台湾の俳優にオファーすることも検討したが、現実的ではなかった。そこで、説得力がある方を探していく中で、ドラマ「ゆとりですがなにか」で片言の日本語を喋る中国人妻役を演じた瑛蓮さんを発見。「お客さんへの説得力があり、しっかりと伝えられる演技をしてくださるかもしれない」と思い、オファー。父親役を演じた池田良さんとは、前作『彦とベガ』の撮影前にお会いしたことがあり「是非いつか一緒に作れたら」と話していたことがあった。出来上がった脚本を読みながら「池田さんにしか演じられない役がようやく出来た」と自負があった上でオファーした。伊吹と花の周りにいる登場人物については、関西を中心にオーディションを実施しており「とてもいい方々が来ていただいた」とホッとした。
また、歌舞伎振付を担う岩井小紫さんは、かつては地方巡業で旅回りをしていた歌舞伎一座に生まれた方で、子どもの頃から歌舞伎を当たり前に演じ続けており、現在は、長浜曳山まつりの振付をしている。今作では、現代社会にも通じるようなテーマを持った「俊寛」を劇中の子ども歌舞伎の演目に選んでおり「芝居をつけることが難しく、誰が振り付け付けられるのか、ということが一番の課題。岩井小紫先生は、『俊寛』の千鳥役を若い頃に何度も演じた方だったからこそ、2週間という撮影期間と並行した稽古で見事に作っていただいた」と感謝している。
現場では、実際のお祭りと劇中のドラマを撮る必要があり「これらをどのようにして融合させるか」と検討。「祭りの最中にドラマも撮ることが出来れば」と考えていたが、お祭りの関係者には張り詰めた空気が流れていることを察し「この中でドラマを撮る、というのはそもそも無理だな」と直感。何年も取材をしてきた中で、別々に撮る必要があることを認識し「お祭りの風景の一部を再現するためには何が必要か。沢山の方に協力していただかなければいけない」と熟考していく。また、撮影監督にとっては、画のルックを合わせていくことが一番の肝で「実際のお祭りとドラマの映像が乖離していたら繋がらない。どのようにして丁寧に繋げていくことが出来るか」といったことが大変だっただろうから、これが成功したことにより「一本の映画として、観ていただいている」と受けとめている。
完成した作品について、地元の方からの反応が心配だった。「この方々がこのようなことに協力したのか、と言われるのが一番怖かった。お祭りの中で、性的違和を抱える子ども・花についても描いた作品だったので、反発があるかもしれないな」と危惧していたが「殊の外、皆さんが花を愛してくださった。映画で描かれる架空の人物だけど、自分たちの町に住む子どもとして受け入れて観ていただき、花のことをとても気に入っていただいた」と安堵した。また、祭りに関する様々な表現も喜んでもらい、満足度の高い作品となっていることに安心。試写においても「子どもが主人公だけれども、大人が言わせているような台詞を喋っているわけではない」というコメントや、LGBTQの方からも「自分が中学生当時に悩んだようなことが、あまりにもリアルに書かれていて、見ていて辛かった」といった率直な意見もいただき「自分の何かに共鳴するような見方をしていただいているような方が多いな」と捉えている。なお、本作は、構想から10年をかけて劇場公開を迎える作品であることから「次の映画も、きっと10年はかかるだろうな。10年かけてあたためていけるだけの作品を企画段階からしっかりと育てていく。沢山の方に観ていただけるように色々と考えていかなければいけない」と気持ちを新たにしていた。
映画『長浜』は、3月14日(土)より、東京・新宿のK’s cinemaで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
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- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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