田舎で一人暮らしをする80歳の女性が娘と孫に振る舞ったキノコ料理が引き金となり、過去が浮き彫りになっていく『秋が来るとき』がいよいよ劇場公開!

©2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME
自然豊かな田舎で暮らしている老齢の女性が、休暇でやってきた娘と孫に料理を振るまったことをきっかけに、それぞれの過去が明かされていく『秋が来るとき』が5月30日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『秋が来るとき』は、自然豊かなブルゴーニュを舞台に、人生の秋から冬を迎える老齢の女性のドラマを描く。80歳のミシェルはパリでの生活を終え、いまは自然豊かで静かなブルゴーニュの田舎でひとり暮らしている。休暇で訪れる孫と会うことを楽しみに、家庭菜園で採れた野菜で料理やデザートを作り、森の中を親友とおしゃべりしながら散歩する日々を送るミシェル。やがて秋の休暇を利用して娘と孫が彼女のもとを訪れるが、ミシェルが振る舞ったキノコ料理が引き金となり、それぞれの過去が浮き彫りになっていく。後ろめたい過去を抱えつつも、人生の最後を豊かに過ごすため、そして家族や友人たちのためにも、ミシェルはある秘密を守り抜く決意をする。[配給:ロングライド、マーチ]
本作では、『焼け石に水』『スイミング・プール』など数々の名作を生み出し、カンヌ国際映画祭やベルリン国際映画祭の常連でもあるフランスの名匠フランソワ・オゾンが手掛け、フランスのベテラン女優エレーヌ・バンサンが主人公ミシェル役を務め、ミシェルの親友マリー=クロードをジョジアーヌ・バラスコ、その息子ヴァンサンをピエール・ロタンが演じた。また、リュディビーヌ・サニエが『スイミング・プール』以来、21年ぶりにオゾン作品に出演している。
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映画『秋が来るとき』は、5月30日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマや難波のなんばパークスシネマ、京都・三条のMOVIX京都、神戸・三宮のkino cinéma神戸国際で公開。

スクリーンに差し出されたニュアンスを噛みしめる。話の筋やイズムは後から付いてくるぐらいでいい――つまるところ、映画を観るとはそういう態度のことだろう。その意味でフランソワ・オゾンは、現代フランスにおける“ニュアンスの名匠”と呼ぶにふさわしい。20代で印象的なデビューを果たして以来およそ30年、ジャンルと表象を自在に横断しながら絶えず映画を撮り続けてきたオゾン。彼の“作家性”を一つの様式で括ることは難しいが、小ぶりながらも滋味に富んだ作品を継続的に届けてきた、その歩みの確かさこそがシグネチャーと言える。そして、本作『秋が来るとき』もまた、シンプルながら質実な仕上がりとなっており、「いい映画を観た」という静かな充足があとに残っていく。
舞台はブルゴーニュ地方の郊外。都会(パリ)を離れひとりで暮らす80歳のミシェルのもとに、娘のヴァレリーと孫のルカが訪れる。振舞われたキノコ料理をめぐる“事件”とともに、“過去”が顔を出し、ミシェルは人生の“終盤の季節”にて、大きな決断を迫られてしまう。過去とは、生のなかで折り重ねられた時間の堆積だ。ミシェルにも、その娘のヴァレリーにも、親友のマリー=クロードにも、そして彼女の息子にも、それぞれの“時間”がある。思えば、ミシェルとヴァレリーが同一フレームに収まるたび、緊張感が静かに立ち上がっていく。ヴァレリーの放つ言葉の端々にも、明確な棘があった。そうした“時間”のなかで具体的に「何があったのか」は断片的に触れられるのみで、説明に落とし込まない。その語られなさこそが、オゾンが人を描くときに保つ節度であり、作品に品格を与えるものでもある。明確にされない過去の出来事や記憶。それらが風のように香りをともないながら、画面を通り過ぎていく。観客はそこに目を凝らし、耳を澄ませるしかない。ミシェルの家の庭、ブルゴーニュの山道。自然光が人物の輪郭を穏やかに照らし、時にハレーションを起こす。カメラは過剰に主張せず、微かにズームしたり、緩やかにパンとティルトが添えられている。その「さりげなさ」にこそ、映画を“見る”という行為に託された豊かさが宿っている。後半に訪れる教会の場面が忘れがたい。前半とは意味も空気も異なる礼拝堂に、ミシェルとマリー=クロードの友人たちが現れる(なぜ彼女たちがそこにいるのかは伏せておく)。そこで映し出されるのは、「どう生きてきたか」を誇るでも悔いるでもなく、ただ“今の自分”としてそこに佇む女性たちの姿だ。
解釈の余地を押し付けず、ただ、そこにいる――。オゾンがこの映画に込めた最大の“ニュアンス”は、まさにその一瞬に宿っていたのではないか。そう思えてならない。
fromhachi

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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