具志堅隆松さんは収集現場でどのように遺骨と向き合っているのか…『骨を掘る男』奥間勝也監督に聞く!
沖縄戦の戦没者の遺骨収集40年にわたり続けている具志堅隆松さんを追ったドキュメンタリー『骨を掘る男』が6月15日(土)より全国の劇場で公開される。今回、奥間勝也監督にインタビューを行った。
映画『骨を掘る男』は、沖縄戦の戦没者の遺骨を40年以上にわたって収集し続けてきた具志堅隆松さんを追ったドキュメンタリー。沖縄本島には激戦地だった南部を中心に、住民の人々や旧日本軍兵士、さらには米軍兵士、朝鮮半島や台湾出身者たちの遺骨が、現在も3000柱近く眠っていると言われる。28歳から遺骨収集を続け、これまでに約400柱を探し出したという70歳の具志堅さんは、砕けて散乱した小さな骨や茶碗のひとかけら、手榴弾の破片、火炎放射の跡など、拾い集めた断片をもとに、その遺骨が兵士のものか民間人のものか、そしてどのような最期を遂げたのかを推察し、思いを馳せ、弔う。自身も沖縄戦で大叔母を亡くした映画作家の奥間勝也監督が具志堅さんの遺骨収集に同行して大叔母の生きた痕跡を追い、沖縄戦のアーカイブ映像を交えながら、沖縄の歴史と現在を映し出す。
沖縄で遺骨収集をしている方は何人もいることが広く知られており、その中でも長年携わっている具志堅隆松さんについて、奥間監督は大学生の頃から知っていた。監督自身の中でも「沖縄の土地開発と遺骨は、葛藤する緊張関係にある。今後の沖縄を考える上で大事なこと」だと捉えており「経済原理だけを考えれば、都市開発が行われた方が良い。だが、戦争でないがしろにされている多くの人達を無視できるのか。難しい問題だ。一方で、もう忘れてしまいたい、と思っている人達の方がどちらかといえば多い」と説く。そんな状況下で、ずっと踏みとどまって活動していたのも具志堅さんだ。「そこまでして40年も続ける気力はどこにあるんだろう。遺骨を収集して遺族の元に返したい、という気持ちだけで本当に40年できるのか」と不思議に思い、2018年に取材を依頼。また、映画を撮る1つの理由として「具志堅さんは具志堅さんなりに何か別の理由があって続けているんじゃないか。もしかしたら、その真相を知ることが出来るかもしれない」といった裏テーマを掲げていた。だが、具志堅さんは「いいよ」と軽い反応で、「また来なさい」といった意図も含まれていそうで全く相手にされず。具志堅さんに試されているようにも感じ、以降は会う頻度を狭めていき、最終的に8ヶ月後にカメラを回すことができた。改めて「私の本気が伝わるまで深刻に受けとめられてなかった」と感じている。
本作冒頭では、具志堅さんが暗い洞窟で収集する姿が映し出されていく。奥間監督は「広さが特徴的な空間。ロングショットが撮れる場所だと意識しながら撮っていた。この暗さが大切だ。一方、映らないけども見えないことがミステリアスさを生み出す効果もある。暗さを恐れる必要はない」と理解すると共に「一方で、入口は広い空間だけど、撮り進めていくと、狭い空間となり、カメラが引けない。具志堅さんに接近しないといけない。息が詰まる思いがあった」と話す。「基本的に、具志堅さんは1人で掘っているので、掘っている対象である沖縄の大地や土も主人公の1人として撮りたい」といった思いがあり、次第に「具志堅さんがコミュニケーションを取っているように感じる」と取材しながら気づき始めた。そこで「カメラは可能な限り引き、その場所の意味を理解し、具志堅さんがどのように向かい合っているか」と意識しカメラを回していく。とはいえ、洞窟の中では足場が悪く「三脚を持参できる時とできない時があった。持参できる場所は分かっているが、可能な限り最小限の機材を持参した。具志堅さんは両手を使えるけど、僕はカメラを持ちながら片手で登ると危ない。ある種のアドベンチャー的な危なさが常々あった」と振り返る。洞窟以外の現場においても、具志堅さんと一対一で対峙する大変さもあった。作中では、具志堅さんがハンガーストライキを実行する時があり「街場で活動する時はカメラと一対一の関係ではなくなってくる。情報量が多すぎる。具志堅さんを撮りたいのに、 他社のカメラが入ってくる。通行人も前を通るので、路上は混沌としていた。拡声器による音の反響もあった」と洞窟とは違った大変さがあり「作品としての緩急が凄い」と驚くばかり。
撮影を始めた頃、映画祭でプレゼンの機会があり「この映画をこういう風にしたい、という希望的観測があり、集団的記憶を映画の中で表現したいみたい」と伝えている。だが、撮影を進めていく中で「抽象的な概念をスクリーンでどのように映すのか。自分の中では出来ない」と痛感。具志堅さんの姿を撮り続けていく中で、最終的に多くの戦没者の名前を読み上げがあることを知り「具志堅さんがやってきたことと、読み上げが持っている理念は重なる」と察した。その様子を撮影しながら「具志堅さんが続けてきたことを他の方が40年もできないかもれしない。でも、小さな歩みをしっかりやる人たちはこれだけいるんだ。自分が希望的観測として考えていた集団的記憶の1つの表現として撮れたんじゃないか」と受けとめ「この撮影を終えられるかもしれない」と実感できている。
編集段階となり「この映画には様々な要素がある。それは長所でもあり、ウィークポイントかもしない」と迷いながらも「素材を机の上に並べてみて、それをどうやって1つの作品に組んでいこうか」と検討。大変な作業ではあったが「自分は何を実現したかったんだろうか」と自問自答しながら、絞り込んでいった。その中で「具志堅さんが遺骨収集現場でどのように動き、遺骨と向き合っているか。それをしっかり描くことが出来れば大丈夫。具志堅さんをしっかりと撮っているので、それをちゃんと並べれば映画にはなる」と確信。なお、作中のナレーションは奥間監督自身が担っており「僕も沖縄県民の1人。かつ、遺族の1人でもある、と分かっることも大切なことなんじゃないか。僕が持っている個人的な思いと具志堅さんの活動を如何にして接点を持たせていくか。編集途中から自分なりに交わるところがあり、それを観客の人にも共有できる」と自信をもって完成させていった。現在、自身と沖縄に関することについて「自分のライフワークとして、またどこかのタイミングで立ち戻りたい。同時に、沖縄のことを考える時間は自分の中で持ちたい」と考えており、今後も様々な作品を今後も撮っていく中で、沖縄に関する作品も期待できそうだ。
映画『骨を掘る男』は、6月15日(土)より全国の劇場で公開。関西では、6月15日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場と京都・烏丸の京都シネマ、7月13日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。なお、第七藝術劇場では、6月16日(日)に奥間勝也監督を迎え舞台挨拶、6月22日(土)には、遺骨で基地を作るな!緊急アクション 呼び掛け人である西尾慧吾さんを迎えトークショーを開催予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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