いまおかしんじさんの脚本によって、様々な方に愛される映画になっている…『まなみ100%』川北ゆめき監督に聞く!
平凡を嫌う変わり者の男の子の、同じ器械体操部員で平凡な女の子への恋心が語られていく『まなみ100%』が9月29日(金)より全国の劇場で公開される。今回、川北ゆめき監督にインタビューを行った。
映画『まなみ100%』は、平凡であることを嫌う変わり者の青年と、彼が密かに思いを寄せる女性との10年間をつづった青春映画。自分勝手で少し変わり者の“ボク”は、高校で同じ器械体操部に所属していた平凡そのものの女の子であるまなみちゃんのことがずっと好きだった。高校時代、大学時代、現在までの10年間で多くの出会いと別れを経験しても、まなみちゃんに対するボクの思いは変わらず、その理由もわからない。やがて、まなみちゃんが結婚することになり…
『うみべの女の子』の青木柚さんが“ボク”、『アルプススタンドのはしの方』の中村守里さんが“まなみちゃん“を演じ、『サマーフィルムにのって』の伊藤万理華さん、『死刑にいたる病』の宮﨑優さんが共演。『満月の夜には思い出して』の川北ゆめき監督がメガホンをとり、川北監督の実体験をもとに『苦役列車』のいまおかしんじさんが脚本を手がけた。シンガーソングライターの大槻美奈さんが音楽を担当している。
新進気鋭の映画監督とアーティストの掛け合わせによる映画制作企画を具現化する音楽×映画プロジェクト「MOOSIC LAB」を企画しているSPOTTED PRODUCTIONSの直井卓俊さんに本作の企画書を持ち込んだ川北監督。「テクニカルなことをやっているので、脚本家が参加した方がいいんじゃないか」と打診されたが、脚本家の知り合いに心当たりがなく困惑してしまう。相談していく中で、偶々直井さんがいまおかしんじ監督の『れいこいるか』を観ており「スパンが長い話には丁度良いんじゃないか」と気づき、ダメ元でアポイントメントを取ってもらった。後から話を聞くと、直井さん曰く「いまおかさんに断られたら、この企画は諦めよう」という心境だったらしいが、偶々いまおかさんからOKを頂くことに。実際に会ってみると「ぬるっとした方だ」と印象深かった。企画書と共に、A4用紙60枚規模の小説のような原案を書いて渡し「これを資料に脚本をお願いします」と依頼。そして、“まなみちゃん“という存在に対する思いを語ると共に、“まなみちゃん”(本人)も交えて3人でご飯に行く機会を設けた。当時から、脚本の代わりに小説のようなものを書いていたが「脚本についてはプロではない。しっかりと書ける人にお願いしたい」と構想していた。出来上がった脚本を読み「相当悩みながら、凄く暗くジレンマ等がすごく込められた原案だったんですが、そぎ落とされて、ちょっと明るくなったんですよね」と驚き「いまおかさん独特の、カラッとした雰囲気が感じられた。僕の暗い部分がバランスよく中和されており、作品としておもしろい。いまおかさんのおかげで様々な人に見てもらえるような作品になったかな」と喜んでいる。
キャスティングにあたり、企画段階の時点で、中村守里さんとオラキオさんは決めていた。中村守里さんは、「MOOSIC LAB」で上映された『書くが、まま』で知り、実際に会ってみて。「何を考えているか分からないけど、隙がありそう。身構えないけど、気がついたら好きになっていそうだ。雰囲気が、凄くまなみちゃんっぽいな」と感じ、オファーしている。かつてはお笑いコンビの弾丸ジャッキーを組んでいた元体操選手のオラキオさんについて、川北監督が高校生の時にファンだったことから「ぜひ出演をお願いしたい」と依頼させてもらった。主人公のボクは、凄くモテる描写がなされており「分かりやすくキラキラしている男の子が演じると、単純な青春キラキラ映画になってしまう。”俺、モテますよ”みたいな嫌味が前面に出過ぎず、なんとなく女の子にモテるという説得力もある雰囲気を出したい」と検討。「MOOSIC LAB」で上映された『暁闇』での青木柚さんを観ており「青木君が一番合っている。彼なら大丈夫」と確信。実際にボクを演じてもらい「本当に上手かったから、強い軸がある映画になった。本当に柚君で良かったな」と満足している。ボクが出会う女性のキャスティングに関しては、川北監督が好きな女性のビジュアルについてヒアリングした直井さんが紹介しながら決めており、菊地姫奈さんは「実際に会ってみると、大人びていた。綺麗でしたね」、新谷姫加さんは「独特な性格をしており内面にも惹かれた」と印象的だ。伊藤万理華さんに関しては「青木柚さんと一度お芝居をしてみたかった」という要望も大きく影響しており、あまり演じたことが無いような役にも興味を持ってもらったことにも助けられた。
撮影では、どうしても時系列順には撮れないスケジュールとなり「初日は大学生、次の日は高校生、その次は結婚式…と時系列順で撮れなかった。僕としても、時系列順だったら撮れ高を見て次のシーンを決められたのですが。時系列に合わせてメインとなる2人の雰囲気を変えないといけないのが大変でしたね」と苦労している。とはいえ、大学時代はずっと映画を撮っており「当時のスタイルだと、明日とか明後日とか撮りたい時に撮る。あまり段取り決めずに、とりあえず皆で集合して、撮れるだけ撮って、撮れなかったらまた次の日に撮るスタイルで撮っていた」と柔軟に撮影していた。今作では、学生時代からの仲間をメインに添えつつ、プロとして長年活動している方もスタッフとして参加しており「商業ベースで低予算ですけど映画を撮った。チームワークがしっかりしているので、プロの人に指示を出すのが凄く難しかった」と実感。だが「皆がプロ意識を持ってしっかり取り組んでくださったので、カメラワークや照明技術によって、自分が思っていた以上のお芝居を作ることができ、想像していた以上の出来上がりが全てに対して返ってくる」と充実した撮影期間となった。
前作『満月の夜には思い出して』に続いて、音楽は大槻美奈さんが担当している。最初に企画書と原案を渡し、いまおかさんから脚本が送られてきた段階で「こういうのを作りたい」と依頼したら、その場で音楽が送られてきた。エンディングテーマである「道標」を聴き「こういう雰囲気の映画だな」と作品の方向性を確立する。当時はデモ音源だったが、全てのシーンを繋ぎ合わせ「道標」を聴いた時に「映画が完成した」という境地に至った。
既に「MOOSIC LAB 2023」をはじめ、各地で先行上映しており「リピーターが既にいる。現時点で15回程度実施しており、全部観に来て下さっている方もいる。様々な方に愛される映画になっている」と手応えを得られた。今後、長いスパンでの映画制作を検討しており「自分の好きなものを作りたいみたいなタイプです。今作は、予算やスタッフィング等を自身で決めて、自分に合った作り方で製作しました。次に製作する映画も、なるべく自分で予算を集めスタッフィングしてもっと規模の大きい作品にしたい。映画を成功させつつ、お金を稼いで自分で使える制作費を確保して、映画をまた自分で作りたい」と目を輝かせて未来を楽しみにしている。
映画『まなみ100%』は、9月29日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、京都・出町柳の出町座や烏丸御池のアップリンク京都、神戸・三宮のkino cinema神戸国際等で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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