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ダサくておもしろい作品によって作家性を見出していきたい…『明ける夜に』堀内友貴監督と五十嵐諒さんと花純あやのさんに聞く!

2023年8月31日

夏が終わろうとする、8月31日から9月1日にかけて、忘れられないひと晩を過ごす若者たちを描く『明ける夜に』が、「田辺・弁慶映画祭セレクション2023」の一作として9月3日(日)・9月4日(月)に大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で公開される。今回、堀内友貴監督と五十嵐諒さんと花純あやのさんにインタビューを行った。

 

映画『明ける夜に』は、モラトリアムをテーマにした映画を制作してきた新人監督の堀内友貴が、夏の一夜を舞台に、大人になれない若者たちのコミカルで爽やかな青春を描いた群像劇。ある海辺の町。夏の終わりが近づく8月31日から9月1日にかけた一日。予定していた面接が急きょ延期になった就活生の山ノ辺とキミ。野球部のマネージャーだった凛子に電話をかける秀一。コンビニでバイト中の健斗とキョーコ。それぞれの忘れられない時間が過ぎていく。本作は、インディーズ映画を対象とした国内の各映画祭で高い評価を獲得。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022、第23回TAMA NEW WAVEで上映されたほか、第33回学生映画祭でグランプリ受賞、なら国際映画祭2022のNARA-wave(学生)部門でグランプリのゴールデンKOJIMA賞受賞、第16回田辺・弁慶映画祭でキネマイスター賞と映画.com賞を受賞した。

 

モラトリアムをテーマにした自主映画を制作してきた堀内監督。今回は「モラトリアムをテーマに、真夏の8月31日から9月1日にかけての群像劇を作ろう」と企画した。フェイバリットとして、山下敦弘監督、ジム・ジャームッシュ監督、アキ・カウリスマキ監督の作品を挙げ「ダメ男が登場するオフビートなコメディ映画好きで、シュールな笑いは必ず入れたい」と取り組んでおり「自分の脳内で会話しながら画として繋いだ時、こんな展開になったらおもしろいかな」と考え、予想の梯子を外していけるように意識している。

 

キャスティングにあたり、前作『また春が来やがって』に出演した五十嵐諒さんと米良まさひろさんの出演は決めていた。また、脚本を書き始める直前の頃に、学校の授業で花純あやのさんに出会い、仲間と食事に行った時に「手帳落としたり関西弁がポロっと出てきたりする姿が魅力的だな。どんな役を演じたら、おもしろくなるかな」と想像を膨らませ、彼女のために新たなキャラクターが出来上がる。台本を読んだ五十嵐さんは「相当な覚悟で演じないといけないな」と実感。「やっぱり脚本がおもしろい。『多くの学生スタッフにとって、学生生活の集大成の作品になる』と意気込みを聞いていたので、これは僕ら俳優部にかかっているな」と堀内監督の思いを受けとめ「僕ら次第で、日本映画をおもしろくできる。だから、頑張んないと」と覚悟を決めた。花純さんは台本を読み「言葉が珍しくて個性的だな。会話のテンポも、言葉にして実際に演じたらどんな感じになるんだろう」とワクワクしていく。

 

クランクイン前には、リハーサルをしっかりと行っている。キャスト全員の全パートを撮って別の日に演技だけを考える時間を皆と作っており「撮影現場では、僕もスタッフも経験が多くない。どうしても撮影に時間を割いてしまう。演技は別の日にしっかりと話したうえで撮影に臨みたい。様々なパターンを試して、どんな感じで関西弁がポロっと出たら良いのか、と話し合いつつ皆で固めていこう」と演技指導に余念がない。

 

撮影は神奈川県の真鶴町で行われた。脚本執筆御後、ロケ地を決める段階になった時、東京から通えるエリアの中をレンタカーで周りながら探していく中で、最終的に真鶴町に行きつき「素晴らしい場所が盛り沢山だった」とお気に入り。撮影期間は約2週間程度で、最初の1週間は、東京で室内でのシーンをまず撮り、しばらく経ってから、野外でのロケを約1週間敢行した。海岸では、或る意味危険なシーンも撮影しているが「カメラ通すと危険に見えますが、実際は、安全な距離を確保して撮影している。台風一過により、風の向きによっては結構危なくなってしまうので気をつけました」と述べ、十分に安全への配慮をしている。海辺のシーンは基本的に撮影が大変で「9月に撮影したので、台風シーズンだった。海辺でのシーンも基本的に台風一過の1日間で撮りましたが、風も波も強かった」と振り返り、印象に残っている。

 

山ノ辺拓役を演じた五十嵐さんは、堀内監督の脚本や演出方法について「演技を大切にしてくれるので、方向性はしっかりしている。ここはこうしてほしい、という意見もしっかりくれる」と重視すると共に「余白の部分を僕らにくれる。僕らが工夫して面白い画が出来た時にはしっかりと採用くれる」と信頼していた。演技に関しての苦労は特になく「波の音等、天候に恵まれず再撮影が続いたシーンがあり、苦労があった。映画を観てもらうと分かる通り、大変なところがあってもロケーションに救われた」と良い思い出になっている。今から2年前の撮影だったが「役者としての葛藤があり前に進めてなくて、今どうしたらいいか分からない状況だった」と打ち明けると共に「僕自身も、”この作品で世の中に出ていきたい”という思い、そして、スタッフも”この作品で映画業界に行きたい”という思いもあった」と作品への皆の思いを鑑みた。演じていく中で「山ノ辺が抱えている思いとリンクしている」と気づき「役作りをしたわけではないですが、山ノ辺と繋がれていた部分がありました」と実感している。

 

猿江キミ役を演じた花純さんは、堀内監督から演技のポイントを伝えてもらい「現場では任せてくださる。自由にのびのびと楽しくできた」と満足していた。なお、夏の海辺に一晩中ずっと沢山の蚊が飛んでおり「皆で虫よけバンドをしたり虫よけスプレーをかけたりしていた。だけど、顔にかけておらず、真夜中に頬を刺されて大きくなってしまい、メイクさんがいない中で映らないように…」と心がけ「出来上がった作品を見たら全く分からなかったので良かった」と安堵している。キミの振る舞いには、花純さんの内面や行動力が投影されており「私らしさと監督らしさが盛り込まれているな、と脚本を読んだ時に感じたので、演技でどう埋めるか」と熟考しており「最終的に、どの言葉も違和感なく、難しいこと考えずに演じられた。演じている時は、台詞がストンと私に馴染んでいる状態で撮影していた。今思えば、役と共存できていたのかな」と受けとめていた。

 

今回の制作を振り返り、堀内監督は「自分が個人的に観てみたい作品を脚本として書き、それを撮って完成した。俺は面白いと思うんだけどな、と感じているものを様々な人の力を借りて、皆で意見を出し合って形を作っていった」と手応えを感じている。完成した作品について、五十嵐さんは「おもしろかった」と素直な感想を述べながらも「自分が演じているので、未だに純粋には観られていない。僕らが、”おもしろい”と思って信じているものを作った結果ではあるんです。だけど、映画は観てもらって初めて完成する、という感覚はあるので、これから観てもらった反応も含めて『明ける夜に』が初めて完成する」と冷静に話す。あくまで「僕らはやれることをやった、という感覚ではあります。またこれから様々な人に観てもらうことによって、作品に対する僕の思いは変わってくる気がしています」と真摯に語った。花純さんは完成した作品を初めて観た時は、撮影に参加している1人として観ており「出演していないシーンとかは撮影現場を見てないので、どういう風に組み立てられているか全然分からない状態。主題歌や音楽も知らない状態で作品を見たので、自分が作り上げてきた1つのパーツが他の人達とこういう風に重なっていくんだ」と初めて体感でき、喜んでいる。

 

田辺・弁慶映画祭では、キネマイスター賞と映画.com賞を受賞した。堀内監督は、映画祭での入賞を目標にしていたが「選ばれたらいいよね、とスタッフと話していた。でも、こんなに大きく公開されるとは思っていなかった」と驚き「認められて良かったな」と感慨深げだ。現地では、キネマイスター審査員が出席しており「観終わった後に直接交流させてもらえる仕組みがあった。他の映画祭と比べても新鮮だった。とても勉強になった」と得るものがあった。「僕の何倍も生きている人達が、僕の何倍も映画を観ている。様々な映画好きのおじさんやおばさん達が、僕の作った映画に議論している姿を目の前で見せてもらえて嬉しかった」と喜び「映画好きの人がこんなに様々な思いを持って話してくれている光景を実際に見るのは嬉しく、楽しかった」と貴重な経験となっている。

 

本作をきっかけにして、堀内監督は「劇団セビロデクンフーズ」を起ち上げた。「『明ける夜に』は、当時できることを全部やった」と一区切りを付けながらも「舞台もやりますが、映画もやっていきたい。もう少しダサい映画を作りたい。綺麗じゃなくダサくておもしろい作品を、舞台でも映画でも自分なりのものを見つけていきたいな」と未来を楽しみにしている。花純さんは、田辺・弁慶映画祭の現地には伺えておらず「またいつか同じメンツで行けたらいいな」と次の機会を楽しみにしていた。五十嵐さんは、役者を志す上で「影響力のある役者であり続けたい。様々な作品に出演していきたい。自分がやりたくないような作品が仮にあったとしても、力強い気持ちで臨める」と意識は高く「『明ける夜に』をきっかけに出来た劇団というチームで、自分のやりたいことをみんなでやればいい。1つのホームがあるから臨める感覚がある。僕が影響力を持ち劇団に還元できるようになりたい。まずは様々な作品に出演して、再びこのチームでやりたいことやっていけたらいいな」と視野を広げて活動していきたい所存だ。

 

映画『明ける夜に』は、「田辺・弁慶映画祭セレクション2023」の一作として9月3日(日)・9月4日(月)に大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で公開。また、11月17日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都でも公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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