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1人の男が苦悩した先に、どのような判断をして歩んでいくのか…『とべない風船』東出昌大さんと宮川博至監督に聞く!

2023年1月10日

西日本豪雨で家族を失った傷を抱えて孤独に生きる男性を瀬戸内海の美しい風景の中に映しだす『とべない風船』が全国の劇場で公開中。今回、東出昌大さんと宮川博至監督にインタビューを行った。

 

映画『とべない風船』は、豪雨災害からの復興が進む瀬戸内海の島を舞台に、それぞれ心に傷を抱える男女の不器用ながらも優しい交流をつづったヒューマンドラマ。2018年7月に発生した西日本豪雨による土砂災害を題材に、被災地出身でCMディレクターとして活躍する宮川博至監督が長編初メガホンをとった。陽光あふれる瀬戸内海の小さな島。数年前に豪雨災害で妻子を亡くした孤独な漁師である憲二は、疎遠だった父に会うため島へやって来た凛子という女性と出会う。彼女は教師の仕事で挫折したことをきっかけに、自身が進むべき道を見失っていた。互いに心を閉ざしていた憲二と凛子だったが、島の人々に見守られながら少しずつ親交を深めていく。『コンフィデンスマンJP』シリーズの東出昌大さんが憲二、『ドライブ・マイ・カー』の三浦透子さんが凛子を演じ、小林薫さん、浅田美代子さんが共演した。

 

宮川監督の前作である中編作品『テロルンとルンルン』を広島国際映画祭で上映したのは、豪雨被害の後だった。その直後にコロナ禍を迎え、『テロルンとルンルン』の劇場公開で全国を回っていく中で、リモート対応を強いられたり舞台挨拶が出来なかったりしながら、この数年の経験について思いが募っていく。また、自分の知り合いから、終の棲家として島に移住したことや、教師をしていく中で鬱状態になったこと等も見聞きしていた。東日本大震災に関する事柄を扱った映画は多く公開されてきたが、発生から4年が経っている西日本豪雨について扱った作品は多くなく、ドキュメンタリー作品を観たが「映像作品としてはどうなんだろう」と疑問を抱く。「西日本豪雨では知り合いが大変な状況に遭遇していた。広島在住の僕が東日本大震災で感じていたようなことを皆が西日本豪雨に対して思っているんだろうな」と思いを巡らし「このままでは作品は生まれないんだろうな。だったら自分が作りたい」と決心した。

 

東出さんが演じた憲二という役は、寡黙な役である。東出さんは「ベラベラ喋って能天気な方が、演じていて楽です」と本音を話しながらも「今回は口数が少なく、抱えている背景が非常に重い役だったので、台本を頂いた時から、この役を演じるのは大変だろうなぁ」と意気込み、広島に向かった。ご自身も、死別した肉親と会う夢を見て、泣いて飛び起きた経験があり「今まで演じてきた様々な役の中には、被害者遺族の役もある。兄弟を亡くした友人を見ていても、皆が自分を責めてしまう。そういう気持ちが台本には丁寧に書かれている」と認識。「間違いなくこの脚本を書いた監督は優しい方なんだろうなぁ」と想像しながらお会いしたが「実際、優しい監督だった。とはいえ、作品作りでは厳しさは必要ある、と考えていた。2人で大変だろうけど良い作品を作りたい」と意気投合し、撮影に臨んでいる。

 

だが、災害被害者が抱える心情を思うと、東出さんも「悲しみも喜びも数値化できるものではない。実際に被災された方の悲しみを本当に理解することは出来ない」と実感。「分かったつもりになれない。作品は、その創造の翼を使って飛んでいき、自分が肉薄していく。分かって演じた、とは言えない」と断言し「僕も家族を亡くし死別の気持ちを持っているが、被災された方の気持ちは別だと思う。『中途半端な気持ちで演じてほしくない』『傷をほじくり返されて嫌な思いになった』と言われないように覚悟を以て演じるしかないな」と腹を括って挑んだ。

 

演じる上では、土砂降りの撮影時も照明の当たり具合、といった細かい箇所まで考慮しており「なるべく役になりきることを詰めていきたい。役にならないと泣けない。”東出”の状態が強いと演技にならない。どうやったら役になりきれるか考えてカメラの前にいる。フェイクではなく本物になりたい」と自身を追い込んでいた。足を引き摺ることも憲二の大きな特徴であり「日常的に続けることで、体に不具合が出てきたり、骨盤が痛くなったり、もう片方の足が痛くなったり、朝起きて足が膠着状態だったりすることがある。不便な思いをするんだ」と思い知り「これが日常からできる役作りかな」と説く。

 

なお、東出さん自身と憲二は全然違う人物である、と認識しており「役者の実人生はずっと地続きなので、憲二のように天災で妻子を失ったことと東出のプライベートは全く関係ない。何があっても作品に頑張って挑むことには嘘がない。今後も俳優業に取り組んでいきたい」と邁進しており「様々な声に対して一喜一憂していてもしょうがない。僕は演技を頑張っている。共演者から、またあいつと一緒に仕事がしたい、と言ってもらえることが、最善を尽くしたことになるかな。とにかく演技を頑張るしかない」と俳優としてのスタンスは揺るぎない。

 

共演相手の三浦透子さんについて、東出さんは「元々は同じ事務所だったので、同じ系譜なんです。こういう演技がしたい、と究極的に思うところは、お互いにもっと高みにあります。良い演技をしたい、という根源的な部分が共通している人は多くない」と表し「彼女とどういう演技が出来るか楽しみだった。今後も透子さんは活躍していくんだろうな」と期待を寄せている。宮川監督は、『テロルンとルンルン』に出演した岡山天音さんの事務所と同じである三浦さんを紹介頂いており「出演の『ドライブ・マイ・カー』がカンヌで上映されている程度しか知らず、よく分かっていなかった。フィルモグラフィを観返していった」と明かした。その後『ドライブ・マイ・カー』を直ぐに見せてもらい「良いなぁと思いオファーしたら、凄いことになっていた。幸運でした」と現在のタイミングで劇場公開されることに驚くばかりだ。

 

多島美と云われる広島の島々を舞台にしており、東出さんは「東京の雑踏の中で過ごすよりも、日々キラキラしたものに溢れていました。朝日や夕陽、空が青ければ海も青くなる。空が曇っている時のグレイな海も良い」と印象深く「綺麗なものに備わっている色彩を失う経験をしたのが憲二。綺麗なところに居続けるけれども、そこに対して憎しみがあったり綺麗だと思えなかったりと心の傷を抱えながら彼は離れられない。そんな経験をしている方は沢山いるんだろうな」と思いを巡らしていた。翻って「綺麗だけど、映画の前半においては憲二にとっては辛かったんじゃないか」と受けとめ、演技にも大いに繋がっている。宮川監督としては、島で撮りたいために、広島にある島を全て見ており「海岸線を全て周った。脚本はある程度出来ていたので、シーンにピッタリの場所を見つけていきながら、江田島と下蒲刈島と上蒲刈島と倉橋島の4島で良いシーンを撮りたい」と意気込み、本作に収められた。

 

完成し無事に劇場公開された本作について、宮川監督は「東出君を観てほしいですね。勿論、三浦さんも小林さんも浅田さんも素晴らしいですし、共演シーンも見て頂きたい。1人の男が苦悩した先に、どういう判断をしてどのように歩んでいくのか、観て頂くことによって、彼の魅力を感じ取ってください」と期待している。東出さんは「豪雨災害によって重い作品だと思われがちですが、あったかい作品だと思う。観た人の気持ちを軽くする映画になっている。瀬戸内海の多島美を晴れた日に観に行くような感覚で、構えずにフッと映画館に来て頂けたらな」と願っていた。なお、今回は関西の劇場で舞台挨拶に登壇しており、東出さんは「関西のお客さんはあったかいイメージがある。今日はあったかい拍手で包んでくださった。こちらもあたたかい気持ちになる上映だったなぁ」と印象深い。宮川監督も「僕は中之島映画祭からお世話になっています。感情表現が豊かで、めっちゃあったかいんですよ。思っていることが伝わって嬉しいな」と楽しんでいた。

 

映画『とべない風船』は、全国の劇場で公開中。関西では、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や難波のなんばパークスシネマ、京都・烏丸御池のアップリンク京都、神戸・三宮のkino cinema神戸国際等で公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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