ここ十数年<映画>の技術進歩は凄まじく、4DXやMX4D、ScreenXを始めとするアトラクション型から、IMAXやDolby Cinemaといった最新の上映フォーマットまで誕生し、<映画を映画館で観ること>の価値が年々アップデートし続けている。一方で、大掛かりな変化をつけ難いミニシアターでは、応援上映や特殊音響上映など、各館が趣向を凝らし映画館鑑賞の楽しみ方に関する幅を広げてきた。とりわけ映画ファンの中でも、近年注目を集めているのが、映画創成期の体験を味わうことができる、と話題のサイレント映画のピアノ伴奏付き上映や活弁付き上映である。サイレント映画といえば、やはりチャップリン、バスター‪･‬キートン、ハロルド‪･‬ロイドと3大喜劇王の作品が上映されることが多いのだが…令和の日本で、サイレント映画の新作が、しかも活弁付きとなって公開される。それが『I AM JAM ピザの惑星危機一髪！』。

女優や監督とマルチに活躍する辻凪子さんに、関西での活弁スタイルでの上映を現在の地位まで押し上げた立役者の１人である活弁士の‬大森くみこさん。また、大森さんとの共演も多い天宮遥さんがピアノ伴奏で作品を支える。本作は、子どもからお年寄りまで幅広く楽しむことができるだけでなく、SFサイレント映画の金字塔、ジョルジュ‪･‬メリエスの「月世界旅行」へのリスペクトも感じ取った。劇中では、旧来の作品ではあり得ない、令和の新作サイレント映画ならではの仕掛けも施されている。

映画館での上映だけでなく、小学校などでの多種多様な場所での公演も多い現代のサイレント映画。数ある名作群に加え、特に子どもたちには、サイレント映画に触れるキッカケの一つとして、本作は非常にマッチしていると感じた。今作を通して、更なる未来に、新作のサイレント映画が誕生していくのかもしれない。本作の映画館での上映は、活弁公演版と活弁吹込版の２パターン用意されているが、活弁士と楽士、そして観客一体となって作り上げるライブ感！活弁士の独特の語り！その形を１公演毎に変え、生のサイレント映画体験を楽しむことのできる、活弁公演版を是非オススメしたい！

from関西キネマ倶楽部