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木樵達は、木を切ることで山を守っているんだ…『木樵』宮﨑政記監督に聞く!

2022年10月17日

山林に恵まれている岐阜県飛騨地方、高山市滝町で50年あまり“木樵=きこり”を営んでいる家族と弟子を追ったドキュメンタリー『木樵』が10月14日(金)より全国の劇場で公開。今回、宮﨑政記監督にインタビューを行った。

 

映画『木樵』は、岐阜県飛騨地方を舞台に、現代の「木樵」である林業にスポットを当てたドキュメンタリー。岐阜県で木樵の父の背中を見て育ちながらも林業不況の中で跡を継ぐことを断念した過去を持つ宮﨑政記さんが監督・撮影・編集を手がけ、高山市滝町で約50年にわたり木樵として生計を立ててきた面家一男さんと弟の瀧根清司さん、その家族と弟子たちの日常を、1年間にわたって記録。移ろう季節の中で美しくも厳しい山々を護りながらひたむきに生きる姿や、林業がその土地と深くつながっている様子、山の暮らしを次世代へと継承していく姿を映し出す。俳優の近藤正臣さんがナレーションを担当した。

 

父親が木樵だった宮﨑政記監督。「自分も木樵になるのが当然」だと考え「幼い頃は、親父の仕事しか知らない。親父の姿を観ていると、木樵はおもしろそうだ。このまま木樵になろう」と自然と思っていた。高校進学では実業高校の林業科を選択し3年生までは継ぐつもりだったが、3年生の後半、雑誌で映画製作志望者の募集記事を発見。「田舎とはいえ、映画館は2館あった。映画が好きで観ていたので、映像というものに飛びつき、林業への道を捨てた」と語る。映像の世界に飛び込み、映画の作り方諸々を覚え、ドキュメンタリー映画の存在に気がついた。当時から「山の仕事を映画にしたいなぁ」という思いが芽生えていく。20年前頃、映像・映画業界から離れて田舎へ戻ることにした。「田舎自体が90%近く山に囲まれている。何気に山に入っていたが、山が荒れていた」と気づき、映画を作りたい思いを増幅させ「記録映画を作ろう」と思い立つ。

 

現場に入ってみると、林業の技術発展が凄まじいことに驚かされてしまう。「機械化は加速度的に進んでいます。ハーベスターは、立っている木を掴み、切って、枝をはらい、寸法まで出す、一連の操作を一台の機械であっという間に済ませてしまう」といった巨大な機械から「倒す方向を正確に決め、チェーンソーを入りやすくするために楔を使う。以前は木製だったが傷んでしまうので、長持ちさせるためプラスチック製となった」と小さな器具まで変化している。なお、昭和40年前後にノコギリからチェーンソーに代わったが、当時は性能が悪く白蝋病を患う方がおり、20年ぐらいは悩まされていた。現在は、チェーンソーの性能が良くなり、白蝋病は減少していき、本作に出演している方々は患っていない。

 

監督自身は、現場で2年のアルバイト経験があり、チェーンソーを遣っていた経験が活きている。木の切り方や人の動きを想像でき「カットによってはカメラの方が人よりも先回りして撮影できる。これが分からないと、カメラはスムーズに動けない」と説く。とはいえ、林業は事故が多かったこともあり「木を切り倒した後、近くにいた人を巻き込んでしまう事故が多発していた。林野庁主導で厳しいルールが作られた。木の高さの2倍以内に人がいたら切ってはいけないルールがある」と述べ「私は数十cmまで近づいて撮っている。そこで、プロデューサーと林野庁が相談し、監督と製作会社の責任となった。作品優先でルールを犯した」と弁明した。

 

撮影を始めて3ヶ月程度経った頃、荒れた山を撮影しており「荒れた山はどうして放置されているのか、誰が管理して健全な山にしているのか。木樵達は木を切るだけではなく、木を切ることで山を守っているんだ」とハッと気がつき「これは映画になる」と確信。以降、林業に関する一連の作業について全て追いかけて撮っている。「ドキュメンタリーは起承転結が決めて撮れるものではない。現場で対応しながら興味深い映像を興味深い構成で作り上げたい」という思いがある中で、撮影を初めて8ヶ月程度経った頃から「終わりをどうしよう」と考えていた中で「弟子がメタセコイアの大木を切り倒し、師匠が200年超の杉の大木を倒した。これで映画を締めることが出来る」と確信できた。

 

編集作業では、優秀な編集マンに協力してもらっている。宮﨑監督が編集マンに相談する前に時系列で繋いた後、編集マンに相談し構成をやり直してもらった。なお、最初は、監督自身がナレーションを付けていたが、プロデューサーから「名の知れた俳優やナレーターの方が、思いが届くんじゃないか」とアドバイスがあり「私が思いを込めてナレーションしたところで不都合があった」と認識。郡上市に近藤正臣さんが引っ越して住んでいらっしゃると知り、プロデューサーが交渉し承諾頂いた。今では「近藤さんに頼んで良かった」とホッとしていた。

 

先行公開で鑑賞したお客さんの中では、機械化を進めている林業家の人達から「こんな古い林業を知らせてもらっては困る」というクレームがあったが「人手不足を解消する等諸々の利点がある。調べようと思ったら機械化については気がつくはず」と期待している。林業に関わっていない一般のお客さんからは「木樵さんのお仕事がよく分かった」といった反応が得られており「山が果たす効用には、水を蓄えて二酸化炭素を吸収して酸素を作ってくれていることがある、ということに思いを馳せて山について考えてほしい」という思いが伝わっていることが分かり、充足した達成感があった。

 

映画『木樵』は、10月14日(金)より全国の劇場で公開。関西では、10月14日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や京都・烏丸御池のアップリンク京都、10月21日(金)より神戸・三宮のシネ・リーブル神戸等で公開。なお、10月22日(土)には、シネ・リーブル神戸に益田祐美子プロデューサーと一般社団法人 職人起業塾 代表の高橋剛志を迎え舞台挨拶開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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