伝統文化の継承は、日々の大切な営みによって成されている…『紅花の守人 いのちを染める』佐藤広一監督に聞く!
世界で初めて紅花の栽培から染色まで、4年の歳月をかけて追いかけたドキュメンタリー『紅花の守人 いのちを染める』が10月8日(土)より関西の劇場でも公開。今回、佐藤広一監督にインタビューを行った。
映画『紅花の守人 いのちを染める』は、高畑勲監督の映画『おもひでぽろぽろ』でも描かれた紅花の栽培から染めにいたる4年を追ったドキュメンタリー。中近東から中国に渡り、日本に伝わった紅花。染料として皇室で珍重されながら、明治時代の化学染料の台頭、さらに第二次世界大戦中に国によって栽培が禁止されたことにより、その文化は危機に瀕していた。栽培された紅の染料からごくわずかしか紅色が採れないという利便性からは遠く離れた染色方法ながら、科学染料では生み出すことのできない繊細な色合いを表現するために染めに没頭する職人たち。そして、紅花を栽培する農家の人たちと、紅花の文化を守り継いでいく人びとの姿を、4年の歳月をかけて追っていく。映画『おもひでぽろぽろ』で紅花農家に手伝いに行くタエ子役の声優を担当した今井美樹さんがナレーションを担当。監督は『世界一と言われた映画館』等、山形を舞台にした映像作品を数多く手がけている佐藤広一さんが務めた。
今から5,6年前、山形国際ドキュメンタリー映画祭事務局の髙橋卓也さん宛に、紅花農家の長瀬さんからドキュメンタリー映画に関する相談があった。「紅花は奥が深く、歴史が長い。作品にしようとするならば、とてつもない労力が必要になるんじゃないか。簡単には手を出しにくい」と躊躇しながらも、佐藤監督に声がけ。佐藤さんにとっては、長瀬さんが営む畑は近所で伺いやすく「取材先としては便利。有難い立地にある」と助かった。とはいえ、紅花に関する書物は沢山存在し「真面目に映像化しようとすると大変なことになる」と驚愕。今までに、紅花を題材にした短編作品は数本作られており観ていたが「長編ドキュメンタリーは世界初の試みだ」と捉えていく。既存の作品では、最後に染めに関することが扱われる傾向にあり「研究室のような場所に入っていく。色の比較等の理科的な題材になって終わる」と指摘し「比較や数字は、なるほど、と思う。それだけでなく、紅花に携わった人々にも注目してほしい」と願い、本作の制作を決意。エンターテインメントな作品にするため「小難しく考えないで、良い印象で終わらせたい。紅花を題材にしているが、『紅花の守人』なるタイトルで、人間にフォーカスしている」と説く。
種蒔きのシーンから撮り始め、年を跨いで2年もかけて栽培に関するシーンを撮った。さらに、染めも含め4年間も時間をかけて撮っている。取材先に関しては、まず長瀬さんが人選しているが、佐藤監督からは「映える人。つまり映画的におもしろい人」をリクエスト。「一番最たる人は、京都の染色家である青木正明さん」だと挙げ「彼は、ワークショップで山形に来ているので、長瀬さんから取材の提案があった。京都で営む染色家のイメージとはかけ離れていた。キャラクターや話す内容がおもしろくて、京都まで伺った。京都・大阪での取材に協力頂き、紅花に関するものを提案頂き、大阪の住吉大社にある石燈籠を見つけて頂いた」と思い返す。「紅花を扱っている人は、残さなきゃいけない、という意識が強い」と受けとめており「映画化にあたり、全力で協力してくれる。この人達は守人なんだな。”共犯関係”で映画を作っていった。完成後も応援してくれる」と感謝している。完成した今では「作られるべくして作ることが出来た作品」と感慨深い。
編集にあたり「90分以内の作品が最強である」という持論の下で「観やすいところで切っている。紅花に対して良い印象を持ってほしいが、全て盛り込もうとすると、とんでもない時間になる。全てを語らずとも、紅花の入門編になれば良いな」と思い、仕上げていった。撮影素材は100時間を超え、荒編集は別の人に依頼しており「初めて分業制作を行った。分業にしなければ、最後で体力が尽きてしまいかねない。依頼時は、使えそうなところをピックアップし、どうしようもない部分はカットしてもらった。同じことを繰り返している場合は、一番良いところを残してもらう」と十分に助けてもらっている。なお、撮影段階では、音楽やナレーションまでは考えが及ばなかった。「音楽やナレーションがないストイックなドキュメンタリーに出来ないこともない。だが、観客がいないかもしれない」と察すれば「多くの人に観てほしいことが目的だったので、最後の段階で、音楽とナレーションを入れた方が良い」と検討。「紅花に関する長編ドキュメンタリーを一度作れば、次の作品はなかなか出来ないだろう。ならば、『おもひでぽろぽろ』のタエ子しかいない。今井美樹さんを通じてタエ子に読んでもらおう」とひらめき「今井さんにとっても『おもひでぽろぽろ』はルーツの一つなので、大切に思っている作品じゃないかな。協力して頂けることになった。良い集大成作品になるな」と確信した。
出来上がった作品について「伝統文化の継承は、地味でも日々の大切な営みによって成されている。これをしっかり記録していきたい」と述べ「あえて地味な草むしりのシーンを入れて、日々の営みを拾い上げている。目立ったところに視線が行ってしまうが、実は違う。準備8割仕事2割。地味な作業を入れないと駄目」と断言する。地元以外のお客さんにとっては全く知らなかった世界を描いており「全て繋がって分かったことが新鮮。観て下さった方の満足度は高い」と印象深い。劇場でのサイン会開催時、お客さんと会話をしていく中で、多少なりとも染色や着物や織物に興味がある人が多く来場していることに気づいた。「よくぞ作ってくれました」「今後もこのような作品を作ってください」という声を聞き「価値をしっかり理解して下さる方は喜んでくれた」と良い反応を得られている。
映画『紅花の守人 いのちを染める』は、関西では、10月8日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、10月28日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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