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田中裕子さんと久しぶりにラブストーリーを作りたかった…『千夜、一夜』久保田直監督に聞く!

2022年10月4日

港町を舞台に、理由もわからず失踪した夫の帰りを、30年もの間待ち続ける妻の強さと脆さを描く『千夜、一夜』が10月7日(金)より全国の劇場で公開。今回、久保田直監督にインタビューを行った。

 

映画『千夜、一夜』は、劇映画デビュー作『家路』で高く評価されたドキュメンタリー出身の久保田直監督が、「失踪者リスト」に着想を得て制作したヒューマンドラマ。彼らも含め、日本全国で年間約8万人にも及ぶ行方不明者がいるという。『いつか読書する日』の青木研次がオリジナル脚本を手がけ、愛する人の帰りを待つ女性たちに待ち受ける運命を描き出す。北の離島にある美しい港町。登美子は30年前に突然姿を消した夫の帰りを待ち続けている。漁師の春男は彼女に思いを寄せているが、彼女がその気持ちに応えることはない。そんな登美子の前に、2年前に失踪したという夫の洋司を捜す奈美が現れる。奈美は自分の中で折り合いをつけて前に進むため、洋司がいなくなった理由を求めていた。ある日、登美子は街中で偶然にも洋司の姿を見かける。主人公の登美子を田中裕子さん、奈美を尾野真千子さん、春男をダンカンさん、洋司を安藤政信さんが演じる。

 

「失踪者リスト」に着想を得て制作した本作。久保田監督は、行方不明になった方の残された家族への取材は敢えてほとんど実施しておらず「各都道府県警にある身元不明人のリストを見て、こういう感じの人がいなくなっているんだな、と。当時の所持品も全て掲載されているので、自分なりに想像を膨らませる作業をしました」と明かす。脚本の青木研次さんと話をしながら、いなくなってしまった人間と残された方々のキャラクターを作っていった。さらに様々に調べていくと、失踪した人が戻ってきた話や認知症で徘徊し行方不明になってしまった妻が、7年後に発見され再会を果たすが、その時には夫の事も分からなかったニュースなども知る。そこで、青木さんと2人でやり取りを重ねていき「とにかくずっと待っている女性を主軸に置いた。そして、対照的な人間もいた方が良い、と気づき、もう一人の待つ女を設定しました」と説く。

 

前作の『家路』では、田中裕子さんに出演頂き「物凄く教わることが多かった。人間的なことも含め様々な意味で、凄いな、と感じることが沢山あった」と振り返り「次回作の機会があれば是非出演してもらいたい」という思いが強く残っていた。本作で待つ女を登場させることが決まった時、久保田監督と青木さんの頭の中で本能的に「田中裕子さんがピッタリだ」と思い浮かんだ。2人で会話したわけではなかったが、田中裕子さんの充て書きで書き進めていき、最初にオファーしている。8年前に本作の企画がスタートし、直ぐにシナリオ・ハンティングに向かい、シナリオの第1稿は直ぐに出来上がった。そして、田中さんに第1稿を読んでもらっている。久保田監督と青木さんは「田中裕子さんにとって久しぶりのラブストーリーをやりたかった」という思いが強かった。シナリオを読んだ田中さんは、「難しい部分もあるけど、やります」と快諾し、安堵している。

 

田中さんの役作りは、脚本を誰よりも繰り返し読み込んでいくことで、リズムや空気感が出来上がり、登美子という人間が生まれてくるのだと思います。だから田中さんは脚本を逸脱せず一字一句変えていない。語尾が変わるだけでもリズムが変わってしまい、行間に描かれていることが違ってきてしまう。こうして積み上げてきて作り上げた登美子というキャラクターが生きているので、久保田監督は指示を出す必要を感じなかった。

 

また、共演者の方々について「皆さん其々の空気感を作られる方々で素晴らしい。勿体ないぐらいの方々が集結して下さっている」と絶賛しており「ただただ僕は勉強になるぐらいの思いでした」と恐縮しきり。例えば「白石加代子さんのような大ベテランの大女優といった方がオープンに受け入れて下さった。こんなに全てを受け入れて下さって良いのか」と驚いており「普段の白石さんは品のある方。演じた役柄は田舎のおばあちゃんなので、ガラッと変わって頂いた」と思い切ったことが出来ている。他にも「ダンカンさんは『これで良いですか』と毎回聞いてこられる。少し違うな、と思った時に助言すると実直に反映しようとしてくれる。有り難い存在」と感謝していた。

 

なお、撮影は新潟県の佐渡島で行われており、島の方々に受け入れてもらえなければ何も進まなくなる。特に登美子の家がある場所は小さな漁村だったので、皆に受け入れて貰えるよう気を遣った。田中裕子さんにも色々とお気遣い頂いたので助かりました。最後の最後まで地元の方々に応援してもらい、温かい目で見守って頂けた」と感謝している。しかし、コロナ渦で撮影が一時中断したこともあり、撮影スケジュールはタイトだった。「雨は絶対に降ってほしくなかった。結果的に全く降らずに済んだ」と天候にも助けられた。波打つ日本海の姿を見た時には「物凄く人の気持ちに通ずる風景だな」と感じると共に「物凄く荒れる時があれば、凄く穏やかな時もある。ざわついている時の登美子の心情風景を日本海の波で表現している、と思って頂けたらいいな」と期待している。

 

40年もTVドキュメンタリー番組を手掛けてきた久保田監督は、物凄い撮影量を1~2時間の作品に仕上げていく編集作業に携わってきた。劇映画の編集については「ちょっとしたフレーム数の違いだけで印象がガラッとかわる。この時にどちらの表情を見せれば良いか、というのは如何様にも考えられる」と興味津々。「キャストの皆さんには最初から最後まで一つのシーンを全てのカットをカメラ1台でマスターとして撮らせてもらう。それによって撮り損といった後悔がなかった」と自信がある。

 

劇伴については、NHKのドラマ『透明なゆりかご』の音楽を担い印象に残っていたサクソフォーン奏者の清水靖晃さんに依頼。お会いした際には『家路』をご覧頂いており、本作の脚本も読んで頂いていた。「佐渡を舞台にした作品であり、日本海に日本家屋が沢山ある日本の風景が映し出される。逆に、音楽はフランス映画のような違う雰囲気にしたい」と依頼してみると、清水さんも同じ意見に。まず、テーマにもなった楽曲を1曲作って頂いたが、聴いてみると震えてしまう程の出来であり、以降は、しっとりとしたピアノ楽曲も依頼。「まずは、メイン楽曲のインパクトによって方向性を示してもらえたのが良かった」と満足している。

 

作品作りというものは、いつも「これで良いのか、もっと何か出来るのでは」と思うものであり、その思いはキリがない。しかし、完成した本作に関しては、「やり遂げた、という思いは、最後に全てが出来上がった時にあった。胸を撫で下ろす感じ」と正直に話す。途中で「完成させられないかもしれない」と思うことが何度かあったが「出来たんだなぁ。それでも、まだまだ、というところもあります」と真摯に語った。

 

映画『千夜、一夜』は、10月7日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や難波のなんばパークスシネマ、京都・烏丸御池のアップリンク京都、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸等で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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