人間は自分事でなければ他人事のように考えてしまう、関心を持たなければ事件は起こらなかったかもしれない…『空気殺人~TOXIC~』チョ・ヨンソン監督に聞く!
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1994年から17年に渡って韓国で実際に発生した戦後最も死者を出したと言われている加湿器殺菌剤事件を映画化したサスペンス『空気殺人~TOXIC~』が9月23日(金)より全国の劇場で公開される。今回、チョ・ヨンソン監督にインタビューを行った。
映画『空気殺人~TOXIC~』は、『殺人の追憶』のキム・サンギョンが主演を務め、韓国で実際に起きた加湿器殺菌剤事件を題材に描いた社会派ドラマ。大学病院の救命救急室で働く医師テフン。ある日、彼の息子ミヌが、意識を失った状態で病院に運び込まれる。診察の結果、ミヌは肺が硬くなる急性間質性肺炎であることが判明。さらに、テフンの妻ギルジュも同じ病気で突然亡くなってしまう。不審に思い調査を始めたテフンと義妹ヨンジュは、病気の原因が家庭で日常的に使用していた加湿器用の殺菌剤にあることを突き止める。販売元の世界的企業オーツー社は、自社製品に有害化学物質が含まれていることを隠したまま、17年間も販売を続けてきたのだ。テフンをはじめ多くの被害者たちは、真実を明らかにするべくオーツー社に立ち向かうが…
加湿器殺菌剤事件について、韓国では、当事者ではない方々は関心が低く「世界的な規模の事件だと思いますが、自分事ではないのかな」と苦慮しているチョ・ヨンソン監督は「私達の一番近い場所にある加湿器に関する事件を現代社会の出来事だと軽く受けとめたら、二度三度と同じことが起きる」と心配している。
あくまで、ソ・ジウォンさんによる事件について描いた小説を原作とした映画化である本作。「こんな事件が本当にあり、不当な扱いを受けていたことが衝撃的だった」とショックを受け「どうすれば人々がこの事件を考えてもらえるのか」と熟考。「事件がしっかりと解決していない。人々に知らせることが大事だ」と感じ「日本には水俣病に関する事件がある。特定の国家体制というより、世界のどこにでも起こり得る事件として皆が深く考えるべきではないか」と指摘する。韓国における水俣病について「昔の日本で、企業や国の利益のために一部の人々が放置されて被害を受け、何十年に保障されて事件を認めてもらった」という認識であることを説き「人間は自分事でなければ、他人事のように考えてしまう癖がある」と指摘。「自分事ではないことに対して関心が深くないことは、人間としての権利ではある」と踏まえながらも「他の人の事件にも関心を持たなければ事件は起こらなかったかもしれないのに起こってしまった、ということを防ぐことが出来るんじゃないか」と気づいた。
脚本の執筆にあたり「グローバルな規模の大きな会社が沢山はらんでいる」と慄きながらも「映画というコンテンツの中で、被害者の方々の話が100%再現出来るのか」と自問自答。「100分の映画の中に17年という長い事件を全て収めるのは難しい。その中で何を表現し、何を削るのか」と悩んでいく中で「物語の力を以て、こういう事件が実際に起きた、と認めることを伝えたい。そして、この事件で被害を受けた方々にしっかり謝ることを大事にしたい」と2つことを大事にしている。難しいことではあったが「全て表現することは出来なかったかもしれないが、意味のある仕事をやり遂げ、大事な作品になりました」と達成感があった。
キャスティングにあたり、特に、キム・サンギョン、ユン・ギョンホ、ソン・ヨンギュが演じた役は、途中で役柄が変わっていき、印象に残ってしまう。監督自身も「この3人の俳優は、韓国の俳優の中でも演技が素晴らしく有名な方であって、実力のある方々です」と認めている。「役柄やキャラクターを深く理解し、まるで本人がその人物になったように演じてもらった。役柄でいえば、この3人の人物はガラッと変わるように見えるけど、実はこの人達の行動は至極当然であるかもしれない」と捉えており「人間は自己中心的なところがあり、自分の願望を以て押し進めていくが、人間として自然な行動である」と説く。また、キム・サンギョンを主人公のテフンにキャスティング出来たことが大きく「韓国の大企業が関わっている事件なので、俳優が本作にキャスティングされ出演すると、企業からのCM出演オファー等これからのキャリアに対して影響があるかもしれない」と述べ「ある日、キム・サンギョン先輩から快く出演の承諾を頂き、この映画が持っているメッセージを伝えられると感じた瞬間でした」と振り返った。なお、2020年10月のコロナ禍真っ只中に撮影を始めており「一番の苦労はロケーション。コロナ禍で場所を借りるのが難しかった」と明かし「感染しないように注意はしましたが、撮影は普段との違いはなかった。長期間の撮影でしたが、監督としては苦労より楽しかった記憶の方が多かった」と印象深い。
映画公開直前には、事件の被害者の方々に向けた試写会を行っている。被害者の方々は伝えたいことが数多あり、作品を誤解され良くない感情が巻き起こりトラブルがあったが、映画を観て頂き「感謝の気持ちを伝えて頂いたり、誤解に対する謝罪があったりしました」と報告。また、試写会後のサイン会で、被害者であるお子さんの親御さんから「もうすぐ亡くなるかもしれないから、一度抱きしめてもらえないか」と請われ「サインを書いた際に幸せの祈りも込めて書くが、この時には何を書けばいいのか分からなくなった」と告白した。
既に刑事裁判では判決が下されているが、民事裁判は現在も続いている。裁判を担当している弁護士から「企業から賠償金の提案があるが、弁護士としてはこの事件の正義を追求していきたい。裁判が長引くと、負けることもある。被害者の方々が現在も事件に関わり辛い出来事もある。企業の対応が早ければ、ある程度の保障を与えて関係を回復できたんじゃないか。弁護士としてこの事件の真実と正義を求めることによって皆が辛い思いをしているんじゃないか」と泣きながら後悔の念を聞いた。本作を公開した現在、監督自身は「こういった事件はしっかり記録しておかないと奇跡は起こらない。記録を残して結び付け、事件をはっきりさせないといけない。同じようなことが再び起こらないようにこの事件を追求することが大事。自分のことのように人のことを考えてほしい」と訴え、現在の状況を注視している。
映画『空気殺人~TOXIC~』は、9月23日(金)より全国の劇場で公開。関西では、9月23日(金)より大阪・心斎橋のシネマート心斎橋や京都・烏丸御池のアップリンク京都、9月24日(土)より神戸・新開地のCinema KOBEで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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