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映画館でノスタルジックに不思議な体験を味わってもらえたら…『コンビニエンス・ストーリー』三木聡監督に聞く!

2022年8月3日

スランプ中の脚本家が、犬のペットフードを買いに訪れたとあるコンビニエンスストアから、異世界に迷い込んでいく様を描く『コンビニエンス・ストーリー』が8月5日(金)より全国の劇場で公開される。今回、三木聡監督にインタビューを行った。

 

映画『コンビニエンス・ストーリー』…

スランプ中の売れない脚本家の加藤は、恋人ジグザグの飼い犬であるケルベロスに脚本執筆の邪魔をされ、腹立ちまぎれにケルベロスを山奥に捨ててしまうが、後味の悪さからケルベロスを探しにふたたび山へと入っていく。その途中でレンタカーが突然故障し、立ち往生してしまった加藤は霧の中にたたずむコンビニ「リソマート」で働く妖艶な人妻の惠子に助けられる。惠子の夫でコンビニオーナーの南雲の家に泊めてもらうことになった加藤は、とりあえず難を逃れたかと思われたが、その時すでに、彼は現世から切り離された異世界に入り込んでしまっていた。
加藤役を成田凌さん、惠子役を前田敦子さんが演じるほか、六角精児さん、片山友希さん、岩松了さん、渋川清彦さん、ふせえりさんらが顔をそろえる。ジャパンタイムズで日本映画の批評を行う映画評論家でプロデューサーのマーク・シリングが企画・考案したオリジナルストーリーをもとに、三木聡監督が脚本を手がけた。

 

『大怪獣のあとしまつ』を制作していた頃、マーク・シリングからシノプシスのようなものが送られてきた三木監督。当時は、日本の山奥にある不思議なコンビニに加藤という人物が迷い込んで、綺麗な女性店主の惠子がいて…という内容だった。多忙により別作品の脚本を執筆する時間がなく、別の脚本家が携わり、別のプロデューサーと一緒にマカオの映画祭マーケットに持ち込み、プロデュースや出資を募ろうとしたが、うまくいかず。だが、映画祭の関係者等に話すと、日本のコンビニに対して「外国人にとっては、一つの空間で全てが完結し、夜だけ明かりが灯っていることに違和感がある」という視点を知り「ならば、コンビニを入り口にして異世界に旅する話にしてみよう」と練り直す。すると、新たにプロデューサーを見つけ「監督が書いた方が良いのではないか」と提案を受ける。「もう一度最初から自分なりのストーリーを構築してみようか」と、ドラスティックに”異世界に行く”という最初のコンセプトを残しつつ、自分なりの解釈で脚本を変更していった。

 

様々な出来事が進行していくことになる本作だが「体の調子が悪くて薬を飲んで眩暈がした加藤が見た幻想なのか、同棲している女優のジグザグが見た幻想なのか。はたまた…と解釈を曖昧にした上で物語が進行していく方がおもしろいんじゃないか」と考えた三木監督。フィルム・ノワールや『サンセット大通り』、コーエン兄弟の『バートン・フィンク』やデイヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』といった作品を挙げ「映像や音楽のテイストを1980年代のノスタルジックな方向に振って作っている。複雑にするというより出口がない行き止まり感をどのように映画の中に作っていくべきか」と熟考し続けた。さらに「脈絡を断ち、ストーリーの整合性を分断することによってカタルシスが生まれギャグになることにトライしてみたら、おもしろいんじゃないか」と構想は広がり「整合性があるような気がするけれども、急に断ち切られているから、お客さんによっては戸惑ってしまう。今回の場合、意味することの迷路に迷い込んでいく。現実世界なのか、異世界なのか、境界の曖昧さにある法則性も断ち切っている」と思い切っていく。自作について「整合性がとれていないこと自体がナンセンスであり、ホラーでもありサスペンスでもあり、不条理特有の怖さがあると思って作っている」と述べ「今回、低予算作品の中で純粋に自分のやりたい方向に向かっているので、既存の路線をなぞらず、別のアプローチで作ってみたら、おもしろく出来ました」と自負している。

 

日常の日々からいきなり異世界に飛び込んでいく本作。主人公を演じた成田凌さんは、お客さんに近い目線となるように演じており「日常は突拍子がなくリアルがないけど、異界はリアルに進めている。成田君も演技プランを合わせている」と説く。三木監督の作品を以前からよく観ていたので「突拍子もないことに巻き込まれても、自分がどのように動けばリアルに見えてくるか考えながら演じてくれた。現場でも、自分のアイデアも含めて相談してくれて、おもしろい方向に舵を取りながら作っていった」と頼りになる存在だった。クレバーな計算によるプランとアイデアを持って作っていく中で、急に前田敦子さんが登場して異世界に辿り着く展開なので「この2人の対比がおもしろい」と気に入っている。前田さんに対しては「こんなに迫力があるとは思っていなかった。予想以上」と讃えており「前田敦子が生きているようには見えない、怖い」という感想まで抱いた。「前田さんは、何故そこに辿り着いたのか、と本質的なことを表現している。現場では、前田敦子さんは天然な反応を示して、成田凌が無用なフォローをしていた」と振り返りながら「脚本の本質的なところには凄いスピードで辿り着く。知識や常識とは別の頭の良さがある」と信頼している。主人公のパートナーであるジグザグを演じた片山友希さんは、『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』のオーディションに来たことがあり「血を浴びて叫ぶ女の子を探していた。オーディションでは、『時効警察』の犯人全て言えます、とアピールしていた。叫んでもらったら、妙なテンションのおもしろみがあり、叫ぶのではなく、謎の音楽ライターとしてキャスティングして、おもしろかった」と気に入っていた。今作では、準備稿の段階で「ジグザグを演じたら、おもしろいんじゃないか」と閃き「凄まじい演技もてらいなく思い切り演じられる。どちらかと言えば淡白な顔だけど、思い切った派手なメイクにして豹変してもらった。普段出演しているような作品とは異なるチャンネルを使ってもらった方がおもしろくなる」と個性的なキャラクターを演じてもらった。

 

撮影にあたり「山の中で異界にあるようなコンビニを探すのが一番大変だった」と告白する三木監督。アメリカ中西部にあるコンビニのようなイメージがあり、よくある日本映画とは違った雰囲気にしたかった。薄の原の荒涼とした風景をロケハンしており、ようやく見つけたのは、かつてモトクロス場の受付だった場所。「映画の画になるだろうな」と直感する。後ろには富士山が聳えており「この風景を見た時、自分なりのおもしろい世界が作れるかもしれない」と悟った。その後の本読みやリハーサルでは、その風景が監督自身の中にあるため「その中で、どのようなことをやっていけばいいのかイメージしながら作ることができた。風景に引っ張ってもらったのが大きかった」と思い返す。山中にある異界のコンビニについて「1970年代、コーエン兄弟、ウィリアム・エグルストンの写真に写っているような雑貨店をイメージした。壁紙のデザインも1970年代っぽかった」と全体的にノスタルジックな雰囲気にある場所をイメージし「上野耕路さんの音楽もジャズ寄りのノスタルジック。柴崎憲治さんの効果音も最近用いる音よりノスタルジックな印象にしてもらっている」と、総じて全体の仕上がりは懐かしい雰囲気を醸し出している。

 

出来上がった作品への反応について「女性の方が、辻褄の合わなさも含めて、異界に漂って自分が体験している感覚を楽しめる確率が高い。男性の方が理屈っぽいので、感覚的に楽しめる方の方が今作を楽しめる確率が高い」という印象があると受けとめている三木監督。「目の前で起こったことを楽しめるか。目の前の出来事に対して自分が考えたり思いついたりしながら不思議な体験を楽しめるか」と捉えており「理屈っぽくなると、異界の中で取り残されてしまい、読後での疎外感を抱いてしまう」と冷静に説く。之までの作品については様々な反応があることを認識しており「怒ると好きは等価。こんなに気持ちが動いてくれるのは、なかなか無いよなぁ。物凄い字数で批判を書く、といったエネルギーを僕の映画に対して気持ちを動かしてくれるのは、何も思わないでスルーすることより、何らかの形でも気持ちが動いてくれることに喜びを感じますよね」と自身をマゾヒスティックに表現しながらも「気持ちが動いてもらいたい、と思って作っている。どんな形でも気持ちが動いてくれたと聞く方が嬉しい。全員が温かく拍手を送ってくれる映画は作れない」と達観した視点を持っている。今作についても「この不思議な出来事を体験してもらいたい。これが出来れば映画館の中で不思議な出来事を味わってもらえたら嬉しいな。前田敦子の妙な色気を感じてもらえたら嬉しいな」と楽しみにしていた。

 

映画『コンビニエンス・ストーリー』は、8月5日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のテアトル梅田、京都・七条のT・ジョイ京都や烏丸御池のアップリンク京都、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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