SMが題材でも、心を掴んで最後は爽やかな気持ちになれます…『夕方のおともだち』村上淳さんと菜 葉 菜さんに聞く!
SMクラブに通う一見真面目な男と彼の前から突如消えた伝説の女王様、そして現在の女王様の不思議な関係を映しだす『夕方のおともだち』が2月4日(金)より全国の劇場で公開される。今回、村上淳さんと菜 葉 菜さんにインタビューを行った。
映画『夕方のおともだち』は、過激な描写とメッセージ性の強い作風で支持を集める漫画家である山本直樹さんのコミックを、『さよなら歌舞伎町』『やわらかい生活』の廣木隆一監督が実写映画化したヒューマンラブストーリー。寝たきりの母親と暮らし、市の水道局に勤める真面目な男であるヨシダヨシオ。筋金入りの“ドM”である彼は、街で唯一のSMクラブの女王様であるミホのもとへ通い詰めているが、近頃なぜかプレイに身が入らずにいた。やがてヨシオは、その理由が、かつて彼をこの世界に目覚めさせた“伝説の女王様”ユキ子のせいだと気づき始める。ヨシオは突然姿を消した彼女のことが未だに忘れられず、いつも彼女の残像を追い求めながら暮らしていたのだ。そんなある日、ミホと釣りに出かけたヨシオは思いがけない場所でユキ子を見かけ、ミホを置き去りにして追いかけるが…
ヨシオを村上淳さん、ミホを菜 葉 菜さんが演じる。
数多くの日本映画に出演してきた村上淳さんと菜 葉 菜さん。共に『ヘブンズストーリー』に出演しているが、共演シーンはなかった。今作が初めての共演作となる。村上さんは菜 葉 菜さんについて「『孤高のメス』の八百屋は素晴らしかったです」と細かな出演シーンまでしっかり観ていた。菜 葉 菜さんは「凄いところを…観て下さり、ありがとうございます」と驚きながらも感謝しており「私は、役者を始めてから、ずっと”映画俳優になりたい”と思ってやってきました。今まで観てきた作品に、やはりムラジュンさんがずっと出演していらっしゃるので、憧れでもあります。今回はしっかり共演するので、無茶苦茶嬉しかったです」と喜んでいる。
本作のオファーを受け、原作を読んだ菜 葉 菜さんは「ミホを演じたい」と望んだ。廣木監督は原作を読んで「菜 葉 菜と似ていてピッタリだな」と感じており「私も読ませて頂いて、体や顔がとても似ている」と同感。映像化にあたり「内容がおもしろかった。過激な描写もありますが、読んでいくうちに、読み終わった後の印象が全然違っていた。こんな爽やかな作品だったのか。ギャップがおもしろい。二人が出会った時の感情や距離感といった関係性も映像化されたら、おもしろいだろうなぁ」と期待は募るばかり。廣木監督と企画協力の成田尚也さんが盛り上げ、プロデューサー陣が映像化を推していった。村上さんは「原作を読んでいなかったが、山本直樹さんは、他の作品を読んでいました」と明かしながら「僕は、脚本家が原作から起ち上げて足したり引いたりしたものを読んでいる。俳優が原作を読んでヒントを得るのは良いが、イチ俳優が足したり引いたりするものではない、と思っている。原作と映画は別物だと思っているので、あえて読まない。現場では異物かもしれない人がいてもいいかな。台本だけを信じたい」と真摯に語る。
2000年公開の廣木監督作品『不貞の季節』では、雪村春樹さんに緊縛指導を受けた上で出演しており「廣木さんが緊縛を撮るなら、SMをトピックスとしては取り上げないだろう」と覚悟しながらも、監督に信頼を寄せている村上さん。本作でも安全策は執られており「ムチはウレタンで出来ている。お芝居として本物に見えたのなら良かった」と一安心。対して、菜 葉 菜さんは、本物の如く演じており「ムラジュンさんは痛みに強いです。役者として『私達が遠慮しないでいいよ』と云って下った。遠慮なく私達はやらせて頂きました」と振り返る。村上さんは「たいして痛くないですよ。菜 葉 菜さんのムチは逃げられるものが多かったんですよ」と話すが「ユキコ女王様のものは本気のものだった。痛いですよ。だが、痛いかどうか、は大した話ではない。僕は現場で体に傷が出来ても、俳優としては勲章になる。女優は傷つけられない。最初から彼女の志がスクリーンに向かっていたから、演じやすかった」と称えた。とはいえ、福島県いわき市の海での撮影は大変で「十月の昼間はまだ大丈夫。日が落ちると一気に寒くなる。そこからは10分が限界。マネージャーがロケ車で待機してガンガンに温めている。撮影後は、車に乗って震えていた。マネージャーも僕の震えに驚いていた」と告白。「雪山など寒いと分かっていると、耐えるためのスイッチが入る」と認識しているが「今回は、日が落ちた瞬間に生命の危機を感じた。限界に近づくにつれ、海にいることが危険だった」と振り返った。壮絶な体験を聞きながらが、菜 葉 菜さんは「私は身体的に大変なシーンはなかったので、大丈夫でしたね」と話すと、村上さんは「身体的な大変さよりも、精神的に追い込まれてしまう。その理由はスクリーンに映っている」と説く。完成した作品を観ながら「テイクを重ねたことや精神的に追い込まれたことを思い出す。でも、完成したら面白エピソードになる良い経験なんです。その経験を重ねていくことが大事だな」と実感している。
主人公のヨシオを演じるにあたり、村上さんは、役に成りきるなりきるシンクロアプローチを最初から放棄しており「役者としての技術的なアプローチとしては、多少、村上淳が出てもいいや、という余白を残しながら、肩の力を極力抜いて、相手の台詞を聞き、心拍数を維持し、自然体でいた」と話す。菜 葉 菜さんは、他のキャストが二日早く撮影していたので、現場に入った際には緊張しており「現場に初日、緊張して現場に入った。緊張していないフリをしたけど、緊張している自分に気づいて、さらに緊張していた。居酒屋でのシーンで不慣れなタバコを持つシーンもあり、テイクを重ねました」と打ち明ける。菜 葉 菜さんの姿を鑑みながら、村上さんは「テイクを重ねないと馴染まない。家で煙草に触れていても意味がない。現場での気持ちによる持ち方の角度が変わってくるので。タバコが不慣れなせいで、台詞が出るようになったので、どの時点からでも撮ってもらえるようになった」とフォロー。改めて、菜 葉 菜さんは「最初は緊張していましたが、演じていくうちに、現場での感情も変化していく空気感を作って下さったので、馴染むことが出来ました。当初、ミホは自分からは遠い存在だと思っていたけど、現場に入り共に演じることで生まれる」と改めて実感した。
もし、ヨシオが実在したら、と考えてみると、村上さんは「スクリーンに映っていることが全て。あれ以上でもあれ以下でもない。全てやり尽くしているので」と言及しながらも「ただ一つ聞いてみたいのが、車を買ったミホは最初にどこに行ったんだろう、その前には違う分岐点があったんじゃないか、とスクリーンに映っていること以外のことですね」と興味津々。菜 葉 菜さんも、ミホについて「想像しながらキャラクターを作っていきましたが、彼女の背景やバックボーンは知りたい。もしミホが現れたら覗いてみたい。聞いてみたい」と気になっている。
改めて、本作を振り返り、村上さんは「我々は、ベターではなくベストの積み重ねで繋がっている。ベストだと言い切れる作品に自分が携われたことが嬉しいですね」と喜んでおり「取材を重ねていくうちに、もう1回この映画を観たくなってきたなぁ」と感慨深い。菜 葉 菜さんが「初号試写で初めて観て、もう1回観たくて、Azumiさんとマスコミ試写で観させてもらった」と明かすと、村上さんは「僕は、幕開いたら劇場にいますね」と反応。改めて、菜 葉 菜さんは「何回か観たくなる作品ですよね。2回観ても、もう1回観たいと思える作品だなぁ」と気に入っている。村上さんも「何回か観ることによって、SMに対する耐性が出来て、そういう映画ではないんだ、とまず分かります。人間の心を覆うものが分かってきます。すると、廣木さんが描きたいことが分かるおもしろい作品ですね」とお薦め。SMを題材にした作品ではあるが、「先入観があって大丈夫です。映画に対する期待値がMAXでも大丈夫です。それで、お金返せ、にはならない」と述べ「日本映画が行きつくところまで行っている作品であることに違いない。もしあなたがこの作品を気に入って頂けたら最高、あなたの明日を生きる活力になれば、それ以上の幸せはないです」とお客さんに観て頂けることを楽しみにしている。菜 葉 菜さんも「映画はタイミングですよね。同じ作品を観ても、数年前と今で全く違う。SMが題材とはいえ、観て頂いたらきっと心を掴むものが映っています。最後は爽やかな気持ちになって頂けます。沢山の方に観て頂けたら嬉しいです」と劇場公開が待ち遠しい。
映画『夕方のおともだち』は、2月4日(金)より全国の劇場で公開。関西では、2月4日(金)より大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマで公開。また、京都・烏丸御池のアップリンク京都でも近日公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
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- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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