切羽詰まってしまうと相手のせいにしていたけど、自分にも非があった…『愛のくだらない』野本梢監督に聞く!
仕事にもプライベートにも問題を抱える男女が、互いに失敗しながらも成長していく姿を描く『愛のくだらない』が関西の劇場でも12月4日(土)から公開。今回、野本梢監督にインタビューを行った。
映画『愛のくだらない』は、『私は渦の底から』の野本梢さんが監督・脚本を手がけ、2020年の第14回田辺・弁慶映画祭コンペティション部門で弁慶グランプリと映画.com賞をダブル受賞した長編作品。地方局のアシスタントプロデューサーとして働く33歳の女性である景は、同棲中の頼りない彼氏ヨシに別れを切り出せないまま、妊活に励むフリをしていた。そんなある日、ヨシは自分が妊娠したことを景に告げるが、景は当然ながら信じない。仕事がトラブル続きで多忙を極める景は、ヨシを放置したまま友人の家で寝泊まりするうちに、次第に周囲との歯車が狂い始める。
男性が妊娠する夢を見て「その時の感覚が生々しかったので、映画にしたいな」と思いついた野本監督。監督作品に多く出演している藤原麻希さんと意気投合し本作の企画を起ち上げた。脚本制作を進めていく一方で、他の作品も撮っており、思うように進まず、様々な方とのトラブルも経験してしまう。自らを省みながら「彼が妊娠する、という設定以上に、身の回りのことやいがみ合った経験が強烈になりました。このことを軸にして書いていこう」と方針転換。「同じ作品を作っていこうとする中で、同じゴールを目指していたはずなのに、ぶつかってしまうことがあった。数作品続くと自分に原因があると気づくのですが。切羽詰まってしまうと相手のせいにしていた。最初は相手が悪いと思ったけど、色々と経験していく中で、自分にも非があった。自分がそんな態度を示さなければ、相手もそうしてこなかったんじゃないか」と自戒し、反省の意味を込めて撮りたいと思うようになった。
長編映画として撮るにあたって、今まで出会った俳優さんで良いなと思っている方に、脚本が出来る前に声をかけた野本監督。「長年一緒に仕事をしている方に対して仮予約をした上で、役のイメージを思い描いて脚本を進め、役が出来上がった時に改めてオファーしました」と明かし「中には予約もなくオファーした方もいますが、勝手にイメージして、役にハマって良かった」と一安心。10日間程度かけて撮影し終えたが、追加撮影したい部分やニュアンスを変えたいシーンに気づき、半年後に1,2間程度で撮り直した。特にラストシーンには納得がいかず、藤原麻希さんにも相談。「晴れやかな気持ちで終わっていくはずが、天気もどんよりしており、終わり方に納得できず。編集が終わったけど、撮り直しました」と明かし「藤原麻希さんの表情が撮れた時、現場にいたスタッフ皆が『良いのが撮れたな』と感じていた。最後が上手くいくと、まとまっていく」と満足できる作品となった。
また、本作では、村上由規乃さんがトランスジェンダーのキャラクターを演じている。野本監督にとっては「身の回りにいるので、自分が映画を撮っていく中で必ずいた存在」だと説く。翻って「”様々な要素が入っている”と云われると寂しい。同じ人間なのに、アイコンや要素に見られることが現実なのか」と愕然せざるを得ない。また「”多様性が今は流行っている”と映画監督がSNSに書いている。そんなことがまだまだあり、そういう感覚の人が多いんじゃないかな」と考えずにはいられず「敢えて主人公に云わせて、最終的に気づきという形になれば。主人公がやってしまったことに対して謝る画は簡単だが、実際はそうではない。ちょっとした気づきや反省が大きな一歩になるので、そのニュアンスを見せられたら」と願っている。
なお、『愛のくだらない』というタイトルについて「自分の反省を込めたような映画を獲ろうとした時、そうはいっても自分の周りには優しい人達がいっぱいいるな、と思っている。この人達と自分を比べた時に自分はくだらないなと思ったので、”くだらない”という言葉を入れたかった」と説明。さらに「恋愛だけに関らず、この話は愛情の話だと思っているので、”愛”という言葉を入れたかった」と加え「『愛がくだらない』や『くだらない愛』だと限定してしまう。”愛”と”くだらない”を独立させ意味を限定しない。でも繫げたいので”の”にしました」解説する。英題は『My Sorry Life』であり「くだらないという表現は英訳が難しく、翻訳の方と話していた。制作の経緯を伝え、反省の物語でもあるので、この英題」と話す。現在、野本監督に対して自身の悩みを打ち明け映画にしてほしいという申し出があり「不妊治療をしている方で、一般的に知られていない保険のことがシビアであり、伝えていかないといけない」と決意を新たに取り組んでいく。
映画『愛のくだらない』は、関西では、12月4日(土)より大阪・十三のシアターセブンで公開。また、京都・九条の京都みなみ会館と神戸・元町の元町映画館でも近日上映。なお、12月4日(土)と5日(日)には、野本梢監督 短編作品『アルム』を同時上映すると共に笠松七海さんと野本梢監督を迎え舞台挨拶が開催される予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!