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悲しみは忘れなくていいんですよ。抱きしめたまま生きていけばいいんですよ…『歩きはじめる言葉たち 漂流ポスト3・11をたずねて』升毅さんに聞く!

2021年10月25日

佐々部清監督の盟友で俳優の升毅さんが、佐々部監督ゆかりの地や親しかった人々を訪ねる旅を映し出し、その過程で“生きること”への答えを問う『歩きはじめる言葉たち 漂流ポスト3・11をたずねて』が関西の劇場でも10月22日(金)より公開中。今回、升毅さんにインタビューを行った。

 

映画『歩きはじめる言葉たち 漂流ポスト3・11をたずねて』は、東日本大震災の被災地である岩手県陸前高田市で返事の来ない手紙を受け取り続ける「漂流ポスト」を題材にしたドキュメンタリー。震災ボランティアを経験した野村展代監督が、大切な人を亡くした人々の心の拠り所として存在する漂流ポストに感銘を受け、2016年より取材を続けて映画化を決意。当初は佐々部清監督による劇映画として企画されていたが、資金繰りや内容の折り合いが上手くいかず、一度は企画をストップしながらもドキュメンタリー映画として再出発した。佐々部監督のサポートも受け、野村監督の初メガホンで再び企画が動き始めた矢先、佐々部監督が急逝する。映画では、佐々部監督の盟友である俳優の升毅さんが、佐々部監督ゆかりの地や親しかった人々を訪ねる旅に出る。佐々部監督が生前に果たせなかった被災地での映画作りを思い、陸前高田市へと足を運んだ彼は、そこで漂流ポストや被災地の現在の姿と出会う。佐々部監督の遺作『大綱引の恋』に参加した俳優の伊嵜充則さん、三浦貴大さん、比嘉愛未さん、中村優一さんらも出演。

 

当初、佐々部監督の劇映画企画について、オファーを頂き出演する予定になっていた升さん。監督が亡くなった段階で諦めていたが、改めてドキュメンタリー映画に関するオファーを頂く。当時の升さんは「監督に関わる作品は辛い」と精神的に辛かった。だが、本作の趣旨を知り「そういう作品を撮るのならば、是非僕がやりたい」と考え直し「やはり、やらせて頂きたい」という気持ちが強くなっていく。

 

まず、初めて漂流ポストを訪れ、森の小舎のご主人である赤川勇治さんのお話を聞き、地元の方のお話を伺い、届けられた手紙を読み「凄いな、よく書けるな」と当時の心境では驚かざるを得なかった。様々な方による「会いたい、何処にいるの?」という問いかけが書かれた手紙を読み、辛さも込み上がっている。だが、何年も手紙を出している方の文面を読み「書かれている内容の変化が見えるんです。最初は、”会いたい、会いたい”から、”今日はこんなことがありました”という報告になり、次第に、亡くなってしまったことより”一緒に生きている”という手紙に変わっていく」と気づき、「人はこんなに変われるんだ。この手紙や漂流ポストの存在は凄いな」と実感。「時間が経てば僕も書けるかな」と思い始めていく。

 

佐々部清監督の作品には『群青色の、とおり道』より出演している升さん。自身の経験では当てはまらない演技指導を監督から受けており、作品が完成して試写会で見た当時、自身では出演シーンを探さなかった。「それまでは、絶対に自分を探し、自分の演技はどうだろう、と思いながら観てきた」と告白しながらも「一切そういう気持ちにならずに観られたのは初めてだった」と振り返る。「佐々部監督のさじ加減で、自分をコントロールしていた。監督が求めていることはこういうことだろう、とやり通してみた結果ですね。だから、本来の自分だったら全然違うやり方をしていたであろう」と顧みながら「不思議な現場で不思議な自分を演じているので、やっているのにやりきれていないような微妙な感じがあります。でも監督のOKが出るのはコレ、それを最後まで貫く現場でしたね」と思い返す。「今までやったことないような作り方でした。間違っているとは思わないですが、こういうやり方があると知った。これから先はこういうやり方でやっていこう」と演技について捉え直し「作品によっては、今までやってきたような演技を求められる時もあるので、両方の演じ方がある。芝居の引き出しが増えた」と感謝している。以降、佐々部監督の作品にはキャスティングに入る前の段階から声を掛けられ、台本を頂き、読んだら感想を求められるようになり、監督お気に入りの役者となった。

 

初めて漂流ポストを訪れて以降、佐々部監督に関わる人達を伺った升さん。「人の生き死にや突然大切な人を亡くした人達の言葉があった。お話して下さる方も辛い中で、一生懸命に喋って下さる。何一つ漏らさないように聞きながらも、辛くなりなりながらお話を伺っていた」と振り返る。皆さんに書いて頂いた手紙を受け取り、再び漂流ポストへ届けるために向かう中で「大切な人を亡くすのは、自分にとっても、僕の知らない方でも一緒なんだな。悲しさや亡くなった人との向き合い方、自分との向き合い方は誰もが同じ」と痛感。浅草の永傳寺住職である川上宗勇さんが云われた「悲しみは忘れなくていいんですよ。抱きしめたまま生きていけばいいんですよ」という言葉が響いた。漂流ポストの赤川さんについて「手紙を書きに来る方達にそんなメッセージを送っていらっしゃるだろうな」と気づき「自分にとっての大切な人が亡くなったことだけを見ていた。自分自身もそうしていかないといけないな」と視野が広がっていく。

 

現在は「この映画が出来てよかった。お客さんにも観て頂いている」と本作の公開にホッとしているが「監督が亡くならなければ生まれなかった作品。公開できた喜びと監督が生きていたら作らなくてよかったという思いもあります。両方の考え方があります」と複雑な心境を告白。「僕は出演しているが、お客さんと同じ立場で様々な方にお話を聞いているつもりだった。佐々部監督をよく知っていて、監督作品が大好きな人達が観た時にどう思うだろう。あるいは、全く知らない人が観た時はどうだろう」と気になったが「升さんを通して様々な人達のお話を聞けて良かった」というお客さんの声を聞く機会があった。同じ立場で観ている、と分かり「どういう映画なのか後になって分かってくる。これからも様々な人達からお話を聞いていこう」と意気込んでいる。

 

映画『歩きはじめる言葉たち 漂流ポスト3・11をたずねて』は、関西では、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田と神戸・元町の元町映画館で公開中。また、10月29日(金)より京都・烏丸の京都シネマでも公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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