皆で泊まり寝食を共にすることで、登場人物の関係性が馴染んでいった…『あなたにふさわしい』宝隼也監督に聞く!
もはやどうやっても修復できないほどの溝がお互いの間にあることに気づいた夫婦の関係の行方を、ユーモアとウィットに富んだ語り口で描く『あなたにふさわしい』が関西の劇場でも11月20日(金)より公開。今回、宝隼也監督にインタビューを行った。
映画『あなたにふさわしい』は、避暑地を舞台に、1つの別荘で休暇をともに過ごすことになった2組の夫婦が、それぞれ離婚の危機に直面することになる5日間の物語を描いた、大人の恋愛映画。専業主婦の飯塚美希は、ブランドネーム開発をしている夫の由則に対し、不満を抱いていた。ある時、由則の仕事のパートナーである林多香子とその夫・充とともに、別荘を借りて2組の夫婦で5日間の休暇を過ごすことになる。現地に到着してすぐ、由則と多香子は急きょ発生した仕事上のトラブルを解決するため別行動になるが、残された美希と充は、実はそれぞれのパートナーに隠れて不倫関係にあった。そしてその夜、仕事上の思想を語る由則の姿に、美希は夫との間に埋まらない溝があることに気づいてしまい…
脚本を手掛けた高橋知由さんは、『ハッピーアワー』でも手掛けている脚本ユニット「はたのこうぼう」(濱口竜介さん・野原位さん・高橋知由さん)の1人。宝監督が通った大学院の先輩で近しい存在であり、日頃から制作したい作品について話し合っていた。最初はお互いにプロットを書き連ねていたが、最終的に高橋さんが執筆したプロットについて宝監督が手掛けたいことが含まれており、脚本として仕上げてもらっている。三角関係等による人と人との関係性を盛り込んだ群像劇の映画を作りたかったので、どのようなストーリーにしていくか話し合いながら進めていく。出来上がった脚本について、おもしろく感じ「出来上がった脚本に対してほとんど台詞を変えていない。切ったシーンはあるが、どうやって人を動かしていくか」と監督としてのやりがいがあった。
キャスティングにあたり、まずは知り合いの俳優の中から本作を一緒に作りたい方を選び、さらに紹介してもらい、本作について、会話劇であり、ほとんどカットを割っていなことについて説明し納得してもらう。撮影前には、2,3回の読み合わせを行ったが、ロケ地となった別荘には皆で宿泊しており「今作は、十分にリハーサルが出来たことが大きい。皆で泊まり寝食を共にしたので、関係性が馴染んだ」と満足している。当初は、山梨や那須にある別荘地での撮影を検討していたが「街全体のロケーションとして軽井沢の印象が強い」と感じ、本作のイメージにぴったりの物件を専門の会社から紹介してもらった。撮影は8日間に渡り、なるべく順撮りで撮影している。天候によって待たないといけない時もあったが、撮影自体は順調に進んでおり「ナイトシーンを少なくしているので、夜のシーンはなるべく家の中に設定している」と解説。夜の時間帯を有効に活用しており「日中に撮影して夜に撮影素材を見たりリハーサルをしたりする流れを毎日行っていたので、上手く進められました」と納得している。編集では「90分程度の作品にするために、どのようにシーンを切るか大変だった」と苦労を滲ませるが「周りの意見を十分に聞いていった。自分の意見と客観的なコメントを含め考慮していった」と冷静な判断で作業が進められた。なお、音楽をつけるシーンについては、最初から決めており「メインテーマは印象的にしたかった。バカンスを題材した映画で流れていそうな音楽の要素を残してほしい」と音楽を担当した重盛康平さんに伝え「なんとも言えない不協和音を入れてもらっています。ロケーションの美しさがあるので、楽曲がマッチしていますね」と感心している。
宝監督自身は「小さなコミュニティのなかでぐちゃぐちゃとした話を展開するのが好み」と認識しており、日頃から周囲の上手くいっていない話は情報収集として聞いており、あくまで本作は、自らの実体験ではない。本作に対し「あくまで主人公のキャラクターに共感できるかどうか。脚本には力がある」と認識しており、様々な感想を聞きながら「意外とそれぞれのキャラクターを覚えてもらっている。キャラクターの印象が残りやすい映画でもあるのかな」と実感。なお、本作のような会話劇による作品にだけ拘ってはおらず「今作のような誰かと誰かの話をやりたい」と次回の監督作品にもワクワクしている。
映画『あなたにふさわしい』は、関西では、11月20日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都、11月21日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!