ちひろの言葉にしにくい感情を決め過ぎずに楽しんでください…『星の子』大森立嗣監督を迎え舞台挨拶付き試写会開催!
“あやしい宗教“を盲信している両親の元で暮らす娘が、次第に自身を取り巻く環境へ疑問を抱き、葛藤する姿を描き出す『星の子』が10月9日(金)より全国の劇場で公開。9月30日(水)には、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田に大森立嗣監督を迎え、舞台挨拶付き試写会が開催された。
映画『星の子』は、子役から成長した芦田愛菜さんが2014年公開の『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』以来の実写映画主演を果たし、第157回芥川賞候補にもなった今村夏子さんの小説を映画化。大好きなお父さんとお母さんから愛情たっぷりに育てられたちひろだが、その両親は、病弱だった幼少期のちひろを治したという、あやしい宗教に深い信仰を抱いていた。中学3年になったちひろは、一目ぼれした新任の先生に、夜の公園で奇妙な儀式をする両親を見られてしまう。そして、そんな彼女の心を大きく揺さぶる事件が起き、ちひろは家族とともに過ごす自分の世界を疑いはじめる。監督は、『さよなら渓谷』『日日是好日』の大森立嗣さん。
上映前に大森立嗣監督が登壇。昨年の『タロウのバカ』キャンペーン以来での来阪となったが、かつての助監督時代に過ごした頃を思い出し「録音部のドライバーをやっていた。カーナビがない時代にどうやって運転したんだろ。よく出来たなぁ。若い頃の自分を褒めてやりたい」と感慨深げだ。
今村夏子さんの小説を読んだ大森監督は「主人公ちひろの繊細な気持ちが描かれていた。素直に反応して、脚本を書く時も大事にしたいなと思って書きました」と振り返る。出来上がりの画も思い浮かんだが「決め過ぎるとそぐわず大変なので、頭を柔軟にして、決め過ぎずに思い描いていました」と丁寧に作品作りだった。ちひろについて「僕からすると、最も離れた人。異性であり、小さな14,5歳の女の子」と理解し「僕は男家系で育っていて、子供もいないので、今の僕にとっては一番かけ離れているんですけれども」と自身と照らし合わせていく。ちひろの繊細な心の揺れに興味が湧き「今の時代、声が大きくて正しいことを言おうとする風潮にある中で、少女の繊細な心、声にならない声を見つめていくことはあまりないので、惹かれましたね」と打ち明け、映画化に向けて動いていった。
ちひろを演じた芦田愛菜さんについて「全く何も問題がなかったんですが、とても聡明な素直で、物事に対してしっかり考えてくれる人なので、皆さんが思っているイメージとは変わっていない」と説き「凄くよく出来る子だし、経験も長い。でも、ふと見ると、同級生の男の子や女の子と楽しそうに笑っていて、15歳だなぁと思う時がある。芦田さんが笑うと、皆もリラックス出来る。同級生達のほとんどが演技初体験なので、皆が芦田さんに助けられたんじゃないかな」と感謝している。難しい役どころではあったが「頭が良い方なので、あまり考え過ぎないで演じてほしい」と伝えており「現場に来て他の俳優さんと向き合った時に、何を感じるかを大事にして演じていこう」と依頼。また「映画の現場は生ものなので、天候に惑わされずに撮影する必要がある。演技が変わる可能性があるので、相手がどう演じるか分からないから、感じて演じていこう、決め過ぎるとつまらなくなっちゃうよ」と諭している。ちひろを表現するにあたり、原作小説について「カルト的な新興宗教を信仰している両親と成長しきっていない女の子がいると、家族との軋轢が生じて、彼女がどうすんだろ、といった話かと思いきや、全然そういうことがない」と述べ「言葉にしにくいちひろの感情は小説でも描いている。この映画は、”あまり決め過ぎないで”ということでは、シンクロしている気がする」と受けとめていた。
映画を作る時、大森監督は自らの役割について「俳優さんやスタッフさんに対して、自分が先に好きになる、愛する、信じる。そして、俳優さんに『僕のことを信じてください。それから現場を始めましょう』と伝えながら、いつもやっている」と話し「僕が俳優さんを少しでも疑っていれば、俳優さんは演技しにくいんですよ。とにかく信じる。失敗したら全部俺のせいでいいと思っていますし、成功したら俳優さんのおかげだ」と謙虚だ。細かい演出もつけておらず「僕が『このシーンの感情は…』と言っちゃうと、意味を限定してしまう。僕は『感じたことを見せてください』と…それが映画と大きく違っていたら、指摘します。ほとんどそんなこともなく上手くいくんですね、不思議なことに」と冷静である。「脚本という設計図があれば、大きな間違いは起きない」と踏まえた上で「この映画は行間があるので…観るところを自分で発見していく映画だと思う。モノローグやナレーションが入っておらず、アップも多くないので、ちひろが一体何を考えているんだろう、ということをちひろと一緒に探っていってほしい。ちひろが迷っている姿を一緒に感じてほしい」と提案していく。
最後に、大森監督は「あまり難しいことをやっているわけではないので、必要以上に難しく考える必要は全くないです」と鑑みながら「ちひろやお父さんの一言に凄い優しさがあり、様々なことが隠れている。自分がどこで反応できるのか発見することで、記憶に残る良い映画だと思えるように変わっていく。皆さん楽しんでください」と伝え、舞台挨拶は締め括られた。
映画『星の子』は、10月9日(金)より全国の劇場で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
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