今こそ届くメッセージや歌の意味を必要としている人がきっといる…『タゴール・ソングス』佐々木美佳監督に聞く!
非西欧圏で初めてノーベル文学賞受賞者となったインドの詩人であるラビンドラナート・タゴールの作品に迫るドキュメンタリー『タゴール・ソングス』が7月11日(土)より関西の劇場でも公開。今回、佐々木美佳監督にインタビューを行った。
映画『タゴール・ソングス』は、非西欧圏で初めてノーベル文学賞を受賞したインドの詩人ラビンドラナート・タゴールが作り上げた作品の魅力に迫った音楽ドキュメンタリー。イギリス植民地時代のインドを生きたタゴールは、詩だけでなく2000曲以上の歌を作り、「タゴール・ソング」と総称されるその歌は100年以上の時を超え、今でもベンガルの人びとに愛されている。タゴールの歌はなぜベンガル人の心をひきつけてやまないのか。インド、バングラデシュを旅しながら、タゴール・ソングの魅力を掘り起こしていく。
「タゴール・ソング」は100年以上前の詩人による歌でありながら、現在も人々の心に残り、リアルタイムで歌われている。佐々木監督は東京外国語大学でヒンディー語を専攻し、語学を中心に外国の文化を学んでいく中で、言語を基軸にした授業での雑談でタゴール・ソングを知り、興味深く感じながら「一人で2000曲以上作っている人は日本でも想像できない。なぜ皆が好きなんだろう」と気になり、本作のテーマにした。大学では、タゴール・ソングがベンガル人のアイデンティティにどのような影響を及ぼしているのか研究したが、翻訳だけでは伝わらないことがあると痛感。同時に「歌と人との関係性があった上で初めてタゴール・ソングが愛されてきた」と気づき、論文だけでは伝えられないと実感する。現地を訪れて自身の目で観ながら、様々な方に話を聞いて理解しながらタゴール・ソングの輪郭を形にして伝えたかった。
そこで、卒業研究と並行しながら、ベンガル地方に4度訪れて1ヶ月滞在しながら、撮影取材を敢行。撮影や編集は経験者に託しながら、佐々木監督は「現地の人達との関係性作りを意識している。お互いの役割分担を果たしていく」とチークワークを大切にした。現地では日本人3人で行動し、時にはコーディネーターにもお世話になりながら、様々な方にアポイントメントを得ていく。YouTubeで曲を聴いてSNS経由でDMを送って会った方や、道端で出会った方もおり「歌に関するドキュメンタリーでは、地域の言葉でコミュニケーション出来た意味は大きかった。タゴール・ソングについて学びたい姿勢を素直に伝えると、好意的に受け止めてもらえ、撮影でも助かりました。取材に対しても協力的で、様々な場所に連れていって頂いた」と充実した日々を過ごした。当初は、覚えている言語で見様見真似でコミュニケーションしコーディネーターの方にも仲介して貰っていたが、最終的には自身で同行者の通訳も兼ねるようになり「ベンガル語はコルカタやバングラデシュで多く話されているので、意思疎通はどうにかなる。特定の地域で特定の言語で取材していたので大丈夫」と自信がつく。
ベンガル地方では、日常生活の中にタゴール・ソングが当たり前に存在している。佐々木監督は、当初から老若男女の歌を捉えることを目的としており、幅広い世代に取材した。「若者は若者なりに自分達の好きな音楽にアレンジして歌っていることを現地で身を以て知った。様々にアレンジしているから広まっている」と興味深い現象に捉えていく。取材後には、監督自身にとってもタゴール・ソングが身近なものとなり「歌を聴いて翻訳して様々な方の話を聞く中で、自分の中にも歌が根付いていく感覚がありました。この映画を撮り終え上映が終わった後も続いていく。言葉を勉強して入っていったので、出会った人達や歌との関係性も続いていく。この関係は大事にしたい」と大きく印象が変わり、自身の歌になっている。
なお、日本とベンガル地方では時間や約束の捉え方などの考え方が違う。両方の価値観も分かっており、その間に立つことは難儀なことではあったが「それらを含めて物事が動く社会なので、私達が慣れるのにも時間を要しました」と振り返る。また、監督がデング熱にかかり入院したこともあり、カメラマンが食べ物が体に合わなかったことだったりと環境に慣れることが大変だった。ようやく劇場公開を迎え「完成して良かった。こういうタイミングだからこそ届くメッセージや歌の意味を必要としている人がきっといる。粘り強く映画を届けていきたい」と熱い思いを抱いている。再びベンガル地方へ行って、現地での上映会も熱望しており、機会が訪れたら「別の題材でベンガルを撮ってみたい。言葉にどっぷり浸かっていたので、自分の持っている知識や言語を活かした題材を作りたい。南アジアの文化を伝えるようなドキュメンタリーを制作したい」とチャンスを伺っており、未来を目を輝かせていた。
映画『タゴール・ソングス』は、7月11日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場で公開。また、7月31日(金)より京都・出町柳の出町座で公開。なお、神戸・元町の元町映画館でも順次公開予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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