作者不明の絵に魅せられた美術商描く『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』がいよいよ関西の劇場でも公開!
(C)Mamocita 2018
年老いた美術商がとある絵画に魅せられ、その獲得に奔走する様とその過程で明らかになる彼の娘親子の過去を映し出す『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』が3月6日(金)より関西の劇場でも公開される。
映画『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』は、作者不明の「運命の絵」に魅せられた老美術商とその家族を描いたフィンランド発のヒューマンドラマ。年老いた美術商オラヴィは、家族よりも仕事を優先して生きてきた。そんな彼のもとに、音信不通だった娘から電話がかかってくる。その内容は、問題児の孫息子オットーを、職業体験のため数日間預かってほしいというお願いだった。そんな中、オラヴィはオークションハウスで1枚の肖像画に目を奪われる。価値のある作品だと確信するオラヴィだったが、絵には署名がなく、作者不明のまま数日後のオークションに出品されるという。オットーとともに作者を探し始めたオラヴィは、その画風から近代ロシア美術の巨匠イリヤ・レーピンの作品といえる証拠を掴む。「幻の名画」を手に入れるべく資金集めに奔走するオラヴィは、その過程で娘親子の思わぬ過去を知る。
本作は、『こころに剣士を』のクラウス・ハロ監督が務め、ハロの過去作『ヤコブへの手紙』のキャストでもあるヘイッキ・ノウシアイネンがオラヴィを演じ、ピルヨ・ロンカ、アモス・ブロテルス、ステファン・サウクらが出演。なお、国宝級の絵画を多く所蔵するフィンランド国立アテネウム美術館や現地ギャラリーの全面協力のもと制作されている。
(C)Mamocita 2018
映画『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』は、3月6日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、3月7日(土)より京都・烏丸の京都シネマ、3月13日(金)より神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。
有名な画家の作品だと思われる絵画が、オークションにかけられようとしている。そのことに気付いているのは、まだ自分だけだ。画家の名はイリヤ・レーピン、近代ロシアを代表する画家である。しかしなぜか、その絵には作者のサインは無い。果たしてこの絵は本物なのか?美術ファンならずとも、真相が気にならずにはいられない絵画ミステリーだ。
本作は、絵画が好きな者にはとても悲しい現実を見せつけられるストーリーでもある。ニューヨークの1%の富豪を相手に億単位の金額が動く雲の上のオークションならいざ知らず、いまどきは町の画商は商売にはならず、消えていく店も多いことが描かれている。
EU加盟国であるフィンランドの通貨はユーロ。この文章を書いている時点での為替相場で1ユーロは約120円なので、1,000ユーロは約12万円、1万ユーロは約120万円、12万ユーロは約1450万だと覚えておくと、劇中のかけひきの加減がわかりやすい。主人公オラヴィが奔走する金策は、決して途方もない莫大な金額ではない。
原題のフィンランド語 「tumma kristus」は英訳するとある明確な言葉になるのだが、少しネタバレになるため、興味のある方は フィンランド語から英語への翻訳を検索してみてほしい。なるほど!というタイトルである。
fromNZ2.0@エヌゼット
年老いた美術商が、生き様である絵画を通じ、最後の大勝負に打って出る!
本作は絵画がテーマだが、絵画以外のコレクターにも必見といえる内容である。コレクターなら同意せざるを得ない主人公オラヴィの台詞の数々や品定めをする姿があまりにもロマンチック。お金も無くとも、先に支払い予定だけ作って資金繰りに困る様子は『クレジットの分割払いをしてでも、欲しいものを買う自分』を鏡で見ているようで恥ずかしくなった。
なお、今作は、ただの美術映画に留まらない。オラヴィの孫、オットーの存在が織り成す家族の物語が大きくなっていく。娘との確執は、互いの理解の低さから生じていると想像してしまうが、娘とは対照的な孫のオットーの立場から見るオラヴィの生き様が印象的だ。男らしさの塊である。「仲が良いから」「血が繋がっているから」という単純さはなく、美術商として奔走する祖父の姿がオットーの目には幾分にも輝いて見えていたに違いない。
美術商の物語に家族の物語が混ざり合い、フィンランドの美しい街並みの数々が映画に彩りを生みだす。ブリオッシュを1つ食べながらティータイムに鑑賞したくなる静かで優雅な優しい映画が北欧から届けられた。
fromねむひら
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!