読書している感覚に近い映画を作りたい…『つつんで、ひらいて』広瀬奈々子監督を迎え舞台挨拶開催!
装幀者・菊地信義さんの仕事を約3年にわたって追いかけたドキュメンタリー『つつんで、ひらいて』が関西の劇場で1月11日(土)より公開。公開初日には、大阪・十三の第七藝術劇場に広瀬奈々子監督を迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『つつんで、ひらいて』は、『夜明け』の広瀬奈々子監督が、ブックデザイン界の第一人者・菊地信義を追ったドキュメンタリー。ブックデザイナーの菊地信義は独立から40年、中上健次や古井由吉、俵万智、金原ひとみらの著作1万5000冊以上の装幀を手がけ、日本のブックデザイン界をリードし続けてきた。インターネットが日常的になり、デジタル全盛の時代にあって、紙の本にこだわり、紙と文字を触りながら手作業で一冊ずつ本をデザインする菊地の指先から、印刷、製本に至る過程を見つめ、ものづくりの原点を探っていく。
上映後、広瀬奈々子監督が登壇。菊地信義さんが装幀に勤しんでいる姿を振り返りながら、大いに語らう舞台挨拶となった。
11年前に亡くなった父親が装幀家だった広瀬監督。だが、父親の生前には装幀に興味を持たず詳しく聞いてもおらず、カバーをつくる仕事、だと捉えていた。社会人になった時、改めて装幀について知りたくなり、実家で菊池さんの『装幀談義』を発見。装幀について詳しく知ると同時に、菊池さんの思想にも感銘を受け、芸術家ではなく、あくまで御職人であろうとする姿勢に惹かれ、会ってみたい、と願た。
装幀は、本によって様々に違う。決められている場合もあり、文芸の分野では出版社によってフォーマットがある。本のデザインを手掛けている方は沢山いるが、装幀だけを手掛けるようになったのは菊池さんが最初で、以来、装幀の専門家が沢山登場してきた。広瀬監督は、菊池さんについて「手で作業し続けられてきたことが一番の魅力」だと感じている。「触感を大事にしており、1冊1冊に向き合っている。手でしか生まれないデザインがあり、原寸大であることが大事」だと捉え、PCを用いた平面的なデザインに陥っていない菊池さんの”手法”について「立体を大事にしている。本が紙である意味をずっと考えている」と感銘を受けていた。また「どんな表現であれ、関係性の中で出来上がる」と聞き、”デザイン”を”こさえる”と訳したことに共鳴を感じざるを得ない。
ドキュメンタリーである本作をデビュー作にしようとしていた広瀬監督。「一番シンプルに制作できる。企画段階から手の届く範囲でシンプルに携われる」と考えており「私自身が監督でありながら、プロデューサーでもある。最小限に作品を制作できることを一度はやってみたかった」と願っていた。また「被写体とフェアな関係で作れることが一番の魅力」だと感じており「一人でカメラを持って撮影し、帰ったら取り込んで編集していました」と撮影の日々を振り返っていく。なお、菊池さん自身が非常に多弁な方で喋り出すと止まらなかったので「読書している感覚に近い映画を作りたい」とお願いし、作業に集中してもらっている。撮影を通して「自身の美学を持っている方。生き方そのものが装幀家」と受けとめており「こういう生き方をしているからこそ、こういう御仕事が出来る」と理解できるようになった。また「ルーティンを大事にしており、常に自分を真っ新にしてモノと対峙している生き方こそが菊池信義の作家性」と称えていく。
なお、『つつんで、ひらいて』というタイトルは、広瀬監督がリトルモアの社長である孫家邦さんと本作について話している時に「『文字をつつむ』というタイトルはどうか?」とアイデアを受け「なるほどな」と気づいた出来事が大きい。菊池さんのきめ細かな手仕事を鑑み「”装幀”という言葉を使わずに言い表そうとした時に適切だ」と思い「綴じて包んで終わってしまうには勿体ない」と考えていく。菊池さんが何度も包んでは開いていた姿を見ており「反復の意味を含め、デザインに込めたモノを読者が開くまで言い表せないか」と熟考し命名した。
最後に、広瀬監督は「手に取らないと気が付かない仕掛けが本には沢山隠されているので、是非改めて本作のことを思い出しながら本を手に取って頂けると嬉しいです。是非本屋さんに行って手に取って本を購入してもらえたら」と伝え、舞台挨拶は締め括られた。
映画『つつんで、ひらいて』は、大阪・十三の第七藝術劇場、神戸・新開地の神戸アートビレッジセンターで公開中。また、1月24日(金)より、京都・出町柳の出町座で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!