頭を真っ白にして、台本を超えた役になりきりたい…!『愛の小さな歴史』瀬戸かほさんに聞く!
癒えない悲しみを抱える女性が小さな古本屋の店主の妻となるも、彼の幼馴染と惹かれ合っていく様を描く『愛の小さな歴史』が関西の劇場で公開中。今回、瀬戸かほさんにインタビューを行った。
映画『愛の小さな歴史』は、『海辺の生と死』『アレノ』など男女の濃密な時間を描いてきた越川道夫監督が、新たに取り組む「誰でもない恋人たちの風景」シリーズの第1弾。癒えることのない悲しみを抱えながら、漂うように生きてきたユリがたどり着いたのが、小さな古本屋だった。ユリはその店の主人であるトモさんの妻になる。亡くなった前妻のことを忘れられないトモさんは、彼女のことを毎日思い出しながらも、今ではユリなしの生活は考えられずにいた。一方その頃、トモさんの幼なじみのリュウタは亡くなった父の遺品からある詩集を発見する。そんなリュウタとユリはお互いに惹かれ合い、そして求め合うようになる。ユリがリュウタとの関係を続けることは、ユリがトモさんのもとを去ることを意味していた。主人公ユリ役をモデルなどでも活躍する瀬戸かほさんが体当たりで演じるほか、トモさん役を『焼肉ドラゴン』の宇野祥平さん、リュウタ役を『新宿スワン』の深水元基さんがそれぞれ演じる。
仙台短編映画祭2017のために制作された『黄色い花 一束 二時頃』に出演して以来、越川監督にお世話になっている瀬戸さん。当時は、歩くことに対して沢山の指導を受けた。「歩けない役者が多い」と仰っていたことが印象に残っており「画の中で軽過ぎず重過ぎず、そこに存在しているように歩くことが出来ないといけない。歩くことは意外と難しい」と聞いて考え込んでしまい「歩くことは、究極に難しいアクションかもしれない」と実感している。役を演じることについても「役に同化していくことは、台本を超えて役になりきること。台本を読み込んだだけでは分からない。そこから考えて役自身の半生を理解しきらないと歩き方まで影響する。一挙一動が役の中で大事になってくる」と捉える必要があった。越川監督の作品は台本に書いてあることが毎日変化しており「ある台詞について、状況によっては発せられない気持ちになることを監督は察します。台詞がカットになったり動きが入ったりしながらその場で毎日演技を作っていく現場です」と説明し「作り上げていく感じが新鮮ですね。アドリブが入りシーンが変化していくことは毎日ありました」と振り返る。
今作においても、気持ちが動いたら自ら動くことを大切しており「自分が動いたら空気が歪んでいるようなことをイメージする。モノが語っているかのように演じられたらいい」と自身の感情に正直に演じた。感覚や身体を全て使って演じることがメインになっており「台詞が少ない分、そこに集中して演じることが大変でした。受け手の演技が難しいと感じる機会でした」と冷静に話す。自身の気持ちに正直でないと台詞を発しても直ぐにバレてしまうため「撮影を止めて考え直してみる指導が入ります。頭ごなしに否定することは全くないが、すぐにバレてしまう」と打ち明ける。だが「怖いとは思ないが、愛がある監督なので、応えたい気持ちがありつつ、応えられない自分が悔しいと思ってしまうことが撮影中はありました」と告げ「考え過ぎて頭でっかちになっても止められる。出来るだけ頭が真っ白になる程の感覚で臨むのが良い」と分かった。相手の言動によって役がどう反応するかを中心に演じられるようになり、越川監督に育ててもらったことを感謝している。
主人公のユリについて「友達になるのは難しい。彼女は、いつ死んでも構わないと思っている。友達に関する描写が全くなく、思っていることを言わないので、距離感を掴みにくい」と自ら演じながら感じていた。もし実在したら「距離感を掴みにくく話しにくいように感じてしまうかな。話したら仲良くなれるかもしれない」と想像する。また、自身がユリとして生きていたら「友達を作りたいとは思っているけど、この世界に執着しない。植物の方が正直に話してくれるし、信頼できる。そこまでして人と関わることに興味がなく、一線を引いている。今後も人と関わっていくとは思えない」と冷静に分析した。
ユリを演じながら「葡萄を食べているシーンやスズカケノキの実を取ろうとジャンプしているシーンが好きですね。ユリの無邪気で素直な心が出ているシーンなので好きですね」と気に入っている。また、トモさんとの喧嘩のシーンも気に入っており「シーン自体は大変でしたが、トモさんとの心と心のぶつかり合いがそのシーン以外にはない。ユリが爆発して動いているシーンなので、心と心で会話できている感覚が楽しかった」と懐かしむ。なお、喧嘩のシーンは何度も撮っており「どうしたらトモさんをもっと怒らせられるかと考えた時に笑う演技をしてみた。宇野さんから『アレ、ホントにムカついたよ』と言われて、やってよかった」と、やりがいまで感じていた。
本作の撮影後には、ナレーションのアフレコを実施。「ユリの気持ちになって読んだら駄目。第三者で全く別の人的に読んでほしい、感情の起伏は出さないでほしい」と依頼され「出来るだけ淡々と読み上げるようにしました。ユリの声だけどユリじゃない」と難しかった。出来る限り別の人による語り部であることを意識したが「何度も読み、何を言っているのか分からない状態だった。自分の声でしゃべっているだけなので大丈夫なのか」と不安にならざるを得ない。出来上がった映像を観て「こういう風になるんだ、と感動した。他者を置きたかったんだろうな」と想像していた。
また越川監督作品へのオファーを頂いた際には、ぜひ出演したいと願っており「ユリさんとは全く違う役を演じたいですね。或いは、ユリさんと似た役で演じ分けが出来たら自分の為にもなるのかな」と考えている。つまり「ユリさんと似てるけど違う役を確立出来たら、自分の中でも2人は違うんだな」と消化でき、新しい階段を昇れる機会だと捉えていた。今まで暗い役や何かを抱えている役が多く「楽しく明るい映画に出演し、真逆の役に挑戦してみたい」と意欲的だ。クールな印象に見られがちだと感じており「暗い印象の役に慣れてしまっている。元々は陽気な人間だと思っているので、明るい役をやりたい」と望んでいる。なお、アンナ・カリーナさんが一番のお気に入りで「アンニュイな部分も勿論あるけど、自由気ままに画の中で生きている。初めて見た時に凄く衝撃を受けました。『アンナ』を最近見て、ダンスをして凄く笑った後に急に泣き出すシーンがあり、その滅茶苦茶さに憧れます」と目を輝かせながら話していた。(インタビューの翌日、アンナ・カリーナさんの訃報がありました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。)
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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