Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

  • facebook

現代の私達も嘘っぽい人には声を挙げないといけない…!『ちいさな独裁者』武部好伸さん迎えトークイベント開催!

2019年2月10日

第2次世界大戦末期に起きた実話を基に、ドイツ大尉になりすました若き兵士が、ヒトラーのような独裁者と化し、暴走していく様を描く『ちいさな独裁者』が2月8日(金)より全国の劇場で公開されている。2月10日(日)には、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田で、映画エッセイストの武部好伸さんを迎え、トークイベントが開催された。

 

映画『ちいさな独裁者』は、第2次世界大戦末期に起きた実話をもとに描いたサスペンスドラマ。1945年4月、敗色濃厚なドイツでは、兵士の軍規違反が続発していた。命からがら部隊を脱走したヘロルトは、偶然拾った軍服を身にまとって大尉に成りすまし、道中出会った兵士たちを言葉巧みに騙して服従させていく。権力の味を知ったヘロルトは傲慢な振る舞いをエスカレートさせ、ついには大量殺戮へと暴走しはじめるが……
『RED レッド』や『ダイバージェント』シリーズなどハリウッドで活躍するロベルト・シュベンケ監督が母国ドイツでメガホンをとり、『まともな男』のマックス・フーバッヒャー、『ヴィクトリア』のフレデリック・ラウ、『顔のないヒトラーたち』のアレクサンダー・フェーリングが出演。

 

上映後、武部好伸さんが登壇。衝撃の実話に驚きながら現代に警鐘を鳴らす、興味深いトークイベントになった。

 

本作を鑑賞した武部さんは「人間は嘘をつくのが簡単だ、とよく解りました」とコメント。当時19歳で煙突掃除の見習いをしていた若者がヒトラーユーゲントに応募、だが、アメリカのカウボーイごっこをしている姿から、ナチスの思想に合わずクビになったエピソードがあり「チャラい青年が偽の権力を被さって、年長者の脱走兵を仕切っていく」という展開が興味深かった。軍服の入手方法は、あくまでヘロルトの証言を基に描かれているが「彼は、空軍の軍服を手に入れた。空軍はドイツの国防軍として親衛隊の次に重要な位置にあった。空軍の大尉だったので周りが一目置いた。もし陸軍の大尉だったら違っていた」と解説し、幸運の持ち主だと分析する。だが、軍服は足の丈が合っておらず、周りから疑われても、残虐行為を経て漸く権力を手に入れた姿を興味深く捉えた。ドイツ人は軍服好きの人がおり「軍服を着た人が正面から敬礼されたら、ハッと気づいて返してしまう」と威力がある。「彼は軍服を手に入れなかったら何もできない。軍服は自ら勝ち取ったものではなく奪ったもの。虚構の世界であり、いずれは化けの皮が剝がれる」と主人公の愚かさに容赦ない。

 

原題は『Der Hauptmann』だが「Hauptmannは、大尉”殿”を意味する。空軍大尉であるため、皆がひれ伏していく」と説くが「周りの脱走兵は『なぜ20歳前後でなぜ大尉なんだ』と嘘だと思っていたのではないか」とも推測。ユンカー大尉と再会し疑われてもクリアし、ヒトラーのようになった姿に対し「独裁者になるには弁舌と演説、そして怖さ」と述べ、僅か20歳前後の若者が偽物でも本物に近い権力を持った実話には驚いた。権力を握り、嘘で塗り固めた自分に陶酔していったヘロルトに対し、武部さんは「器用な人。このまま詐欺師になっているかもしれない。だが、誰しもが変貌していく要素を持っている」と受けとめる。作中では10数人が従っている描写だが、実際は80人前後の兵士が従っていた。ナチスドイツの敗戦直前は一人でいる兵士は脱走兵と見なされ殺される時期であり、皆が群れたがり、生き延びようと必死になっていく。彼らの行動から「平和な時代でも、誰かが嘘で頭角を現し偽の権力を以て然るべき言葉を伝えると、皆が異を唱えずについていく」と解釈し「その怖さを監督は一番言いたかったのではないか」と訴える。

 

なお、10年前から本作の企画があったが、映画会社から断られていた。漸く今になって制作が許可されている。ドイツの情勢について「右傾化しており、監督は危機感を持ったのではないか。誰もが何も言えないような雰囲気になりつつある。ハリウッドで娯楽作品を撮っていた監督が急に母国の憂うる状況に対しシビアになった」と鑑みた。ドイツ本国内でも有名ではない出来事のようだが「何処の国でも有りうる出来事。嘘をつく人ほど快感になり陶酔していく。人間は嘘をつく時ほど、真面目な顔になる」と普遍性を説く。また、監督の印象的な言葉として「彼等は私達だ。私達は彼等だ。過去は現在だ」を挙げ「僕らも主人公になる可能性があるし、脱走兵になる可能性もある。常に意識して、おかしい者にはNOと発する方がいい」と感じた。本作が放つ「現代社会でもぼぉっと生きていたら、いつ何が起きてもおかしくない」というメッセージを読み取り「現代の私達も、嘘っぽい人には声を挙げないといけない」と監督の訴えを代弁していく。

 

最後に、武部さんは「皆さん、おかしな人が来たら黙っていてはいけない。なんでも発言して。勇気を出して疑ってみる」と訴え「これからの社会も自分で監視の目を緩めずにいきましょう」とメッセージを送り、トークイベントは締め括られた。

 

映画『ちいさな独裁者』は、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸、京都・烏丸の京都シネマをはじめ、全国の劇場で公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

Popular Posts