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映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』!絵コンテの重要性を浅尾典彦さんに訊く!!

2017年7月23日

7月15日(土)より大阪・十三のシアターセブンで、絵コンテ作家の巨匠ハロルドと、名リサーチャーリリアンの知られざる愛の物語『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』が上映されている。7月23日(日)には、夢人塔の浅尾典彦さんを迎えてトークが行われた。

 

映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』は、1950年代から2000年代まで、数多くのハリウッド作品で絵コンテと映画リサーチを担当した職人夫婦を描いたドキュメンタリー。『十戒』『鳥』など100本以上の作品で絵コンテを手がけたハロルド・マイケルソン。そして映画リサーチャーとして活躍した妻のリリアン。本作では2人が関わった作品の絵コンテ、名シーンの数々、ヒッチコックやマイク・ニコルズらと名匠と現場をともにする2人の姿、2人と交流のあったフランシス・フォード・コッポラ、ダニー・デビート、メル・ブルックスらのインタビュー、リリアンによる夫ハロルドの回想などから、映画に愛され、映画を愛した2人の思いや夫婦の心温まるエピソードが綴られていく…

 

 

上映後、浅尾典彦さんが登壇。浅尾さんは、開口一番に「凄い作品!感動しました!」と大満足。映画作りの裏方は今まで存在していないことになっていたが、ハロルドが実はとても凄い人だったと注目したこと。リリアンの目から見たハロルドの人生を知られること。本作からこれら2つのことを高く評価した。

 

浅尾さんは、アニメーションの専門学校でストーリーを教えているため「映画を観ることはあっても、絵コンテには馴染みがないと思うので、その手法についてお伝えしていきます」と授業スタイルでトークは始まった。絵コンテとは、絵で物語を作るための設計図。映画を作る際には、どんな映画を作るか説明するための設計図となる。なぜ絵コンテが必要かといえば「一人でアニメーションを作る人や一人芝居をしている人は基本的に不要。映画はたくさんの人でつくっている芸術なので、共通のイメージを皆に持ってもらわないと、バラバラになってしまう」と理由を説く。撮影現場では作品を説明する必要があるため、設計図として絵コンテが書かれた。ハロルドの絵コンテは、情報量が多く、色を付ければイメージボード、下には解説等もふんだんにあるとストーリーボードと呼ばれた。

 

通常の絵コンテは絵と字と撮影手法が書かれている。浅尾さんは絵コンテを紙芝居を例として説明する。「紙芝居は表に絵が描いていて、裏には字が書いている。タイミングや効果も書いてある。強い口調で、恐ろしい感じに、と様々な指示が文章で書いてある。つまり、台詞だけでなくルールまで書かれ、それらを並べたもの」だと表現する。字がほとんどだどシナリオやプロット、あるいは、字コンテと呼ばれる。ここで、浅尾さんは実際に使われている絵コンテのシートを見せながら「字と絵を縦長に並べ、ストーリーの流れを解説するために絵コンテを作る。一般の絵コンテは、枠線、シーン、カット、内容、台詞、時間、効果、音楽によって構成。特に、タイムシートで、各シーンの時間や切替のタイミングがわかる」と解説。「絶対に書く必要があるわけではない。実写ではほぼ書かない。なぜなら、現場に行くと絵コンテの内容と違うことが多く、現場で作っていくので。絵コンテがなく、シナリオだけでやっていくことが多々ある。皆さんに共通の映像、イメージ、タイミングを知って頂く必要がある場合は必ず絵コンテを書く。アニメーションの場合、偶然がありえない世界だからほぼ全部書く」と絵コンテの必要性を述べる。さらに「特撮にも必要。特殊効果が入るため。役者が怪物と向かい合うシーンでは、怪物はCG。イメージとして補うのが絵コンテの役目。また、ミュージックビデオやCMは絵コンテを用いる。タイミングが大事なので、芝居でも絵コンテを書く人も時折いる」と絵コンテの重要性を示す。作成した絵コンテについて「基本的にスタッフに見せる。一般の人には見せない。時々、絵コンテが良くできている場合は商品として販売できる」と用途を説明する。「イメージワークはキャラクター設計や世界観を書いている。プロットはストーリーの流れを書いており、絵コンテとは違う。絵コンテは画面の中に何が入っているかを表現し、イメージが分からないところを説明するときに大事」と説く。

 

絵コンテを一番最初に書いたのは、ウォルター・イライアス・ディズニー。だが、初期の頃、ディズニーは書いていない。アニメーターのアブ・アイワークスが書いていた。浅尾さんによれば「アブ・アイワークスが天才過ぎて、ディズニーが絵を描くのを止めてしまい、全てアブ・アイワークスに全ての絵を任せた。初期の頃は、ディズニーがアドバイスし、アブ・アイワークスがアニメにした。徐々に多くの人が必要となり、イメージを共有しないと無理」だと分かり、絵コンテを用いた。日本のアニメーションの礎は東映アニメーション(当時は、東映動画)。東映動画の設立時、ディズニーに勉強・視察に行き、ディズニーのシステムを取り入れた。一番最初のTVアニメーションは『鉄腕アトム』。東映動画で学んだ手塚治虫さんが絵コンテを書いている。一番最初のカラーで作ったTVアニメーションは『ジャングル大帝』。絵コンテも色鉛筆を用いてカラーで書いている。最近では絵コンテに色を付けることも多くなった。他にも、デザイナーとして多くの映画ポスターを書いているソール・バスを紹介。ソール・バスは、来日しており、工業デザイナーとして商品デザインも手掛け、百貨店のロゴマーク等、日本でも多くの仕事に携わった。

 

ハロルドの驚くべき才能について、浅尾さんは「カメラアングルや画角、タイミングは監督の頭の中にあると思われていた。だが、本当は、絵コンテに書かれていた。監督がいなくても絵コンテがあれば映画ができる。それは大変なことだ」と説く。「有名女優や音楽家が急に映画監督になることがあるが、普通は映画を撮ることができない。カメラマンや助監督、周りのスタッフがしっかりしており、絵コンテがあれば映画が成立する」と絵コンテの重要性を説明する。映画でも解説されるが、ハロルドによる絵コンテは、木炭で書くのが特徴とされる。浅尾さんは、『ザ・フライ』『スタートレック』の絵コンテを用いて紹介。枠をぶち抜いた絵コンテやリンカーン像とヒッチコックによるパロディも見せる。他にも『クレオパトラ』や『マーニー』、『スーパーマン』、『バタリアン』、『ロード・オブ・ザ・リング』、『スターウォーズ/ジェダイの復讐』等の絵コンテも紹介した。

 

最後に『卒業』のヴィジュアルを紹介。「足のイメージを絵コンテを担当したハロルドが考えた。パロディにも使われるほど、鮮烈なイメージを当時残したので、ハロルドの存在は大きい。絵コンテの必要性がなければ、ハロルドは存在していなかった。リリアンは大事な設定を書いていた」と分析する。「映画には、リアリティある嘘をつくために設定が必要だと思わせることが重要であり、格好いいアングルやイマジネーションを付けていくのがハロルドの仕事。この夫婦がいなかったら、現在の映画はなかった」とハロルドとリリアンを讃え、浅尾さんによるトークは締め括られた。

 

映画『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』は、大阪・十三のシアターセブンで7月28日(金)まで公開。7月28日(金)までは12:20~、16:40~の上映、一般1,800円専門・大学1,200円シニア1,100円中学生・高校生1,000円小学生以下700円シアターセブン会員1,000円となっている。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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