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2016年に劇場で643本鑑賞したキネ坊主が今年の映画を振り返る

2016年12月31日

本日で2016年も終わり。今年は年明けから例年以上に映画館に足繁く通い、通算643本の映画を鑑賞した。(便宜上、複数回鑑賞した作品は各々1本としてまとめる)他の映画情報サイトや番組のようにベスト〇といったように順位をつけようとしてもキリがない。この記事では、2016年に劇場で公開され鑑賞した作品の中から、特に個人的に大好きな作品を3作品上げることにした。

1.『マジカル・ガール』【4月8日(金)鑑賞@シネ・リーブル梅田】

日本の魔法少女アニメにあこがれる少女とその家族がたどる、思いがけない運命を描いたスペイン発のフィルム・ノワール。白血病で余命わずかな少女アリシアは、日本のアニメ「魔法少女ユキコ」の大ファン。ユキコのコスチュームを着て踊りたいというアリシアの夢をかなえるため、失業中の父ルイスは高額なコスチュームを手に入れようと決意する。しかし、そんなルイスの行動が、心に闇を抱えた女性バルバラやワケありな元教師ダミアンらを巻き込み、事態は思わぬ方向へと転じていく…

今年の4月にシネ・ヌーヴォでの特集上映「フィルム・ノワールの世界」があったことから、現在の映画にもフィルム・ノワールがないものかと思っていた矢先に出会った本作。冒頭は余命僅かの娘のために頑張るお父さんのお話かと思っていたら、訳アリの過去を持つ女性が出てきて、いつの間にか主人公になっていて、お金を工面するために観客にとっては想像することしかできない物凄い世界に足を踏み入れていたり、その女性を救うべく元教師が奮闘していく…と、目まぐるしく主人公が変わっていき、冒頭からすれば、先が読めない作品として大いにおもしろかった。画面の隅々に謎が仕掛けられていて、想像力を働かせながら伏線を確かめていく。まさに映画の醍醐味が詰まった作品だった。

2.『淵に立つ』【10月10日(月)鑑賞[舞台挨拶付き]@シネ・リーブル梅田】

「歓待」「ほとりの朔子」などで世界的注目を集める深田晃司監督が浅野忠信主演でメガホンをとり、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した人間ドラマ。下町で小さな金属加工工場を営みながら平穏な暮らしを送っていた夫婦とその娘の前に、夫の昔の知人である前科者の男が現われる。奇妙な共同生活を送りはじめる彼らだったが、やがて男は残酷な爪痕を残して姿を消す。8年後、夫婦は皮肉な巡り合わせから男の消息をつかむ。しかし、そのことによって夫婦が互いに心の奥底に抱えてきた秘密があぶり出されていく…

深田晃司監督の作品は、映画製作当時の時代性や社会性を踏まえた上で、人間が日々を生きていく上での絶望と希望の狭間を描いた作品が多く、見応えがある。本作も、中盤からはその残酷さを目の当たりにする。残酷な爪痕を残して男は姿を消すわけだが、近年の映画でもそこまで残酷な爪痕を残してストーリーが続いていく展開はなかったのではないだろうかと個人的に感じる。残酷なことがあっても人々は生きていくのであり、どこかに希望があるのだと思えば、生きていくことができることを作品は観客に魅せつけてくる。舞台挨拶で深田監督は、最後はどうなったのかについては、お客さんの想像に任せると言っていた。これぞ絶望と希望の狭間を見せつけただと思い知らされた。

3.『SHARING』【11月13日(日)鑑賞[111分バージョン]@シネ・ヌーヴォ、11月27日(日)鑑賞[99分アナザー・バージョン]@シネ・ヌーヴォX】

立教大学現代心理学部映像身体学科の教授でもある篠崎誠監督が、東日本大震災で心に傷を追った女性の葛藤や交流を、予知夢や心理学、ドッペルゲンガーといったテーマを用いて描いたドラマ。東日本大震災の予知夢を見た人を調査している社会心理学者の瑛子は、震災で死んだ恋人の夢をずっと見続けていた。一方、同じ大学の演劇学科に通う薫は、3・11をテーマにした卒業公演の稽古に追われ、ある日、仲間と衝突してしまう。薫もまた、この芝居を始めてから、同じ夢にうなされるようになっていたのだが……。

東京では今年の4月に公開されていたが、大阪でも11月になってようやく公開された。東京で公開された当時から話題になり気になっていたので、待望の関西での公開だった。まず111分バージョンを観たが、映画の中ではどれが現実でどれが夢なのかわからなくなってしまう感覚に襲われ、それが最後まで引きずられていく。引きずられながらも、あの時の出来事は予知夢だったのかと気づく伏線が張られている。伏線がわかり、これは現実なんだなと思ったら、まさかこれも夢だったのか思わされてしまう。この流れが最後まで連ねられている。しかもその夢は、震災等の災害を想起させる不穏な夢であることが多く、作中も不穏な空気がながれていて、観客は落ち着く暇もないスリリングな体験をすることになる。最終的に瑛子がいる現在はいつなのかは観客の想像力に委ねられる。

パンフレットを購入してみると、111分バージョンと99分のアナザーバージョンにはそれぞれにしかないストーリーがあることを知り、アナザーバージョンも観ることにした。こちらは、スリリングな印象は比較的抑えており、薫が卒業公演に対峙することを中心に描かれている。瑛子のことも十分に描いているのだが、最終的な作品の印象は111分バージョンとは違ってくる。1つの一貫したストーリーをこのように編集次第でいかようにも捉えられるのは興味深い。2つのバージョンがあった上で1つの作品としても成立する方法があったのか思わせてくれた。

筆者個人としては、これまでは心にじ~んと残る作品が好きで、毎年の個人的に好きな作品を挙げていた。今年はどちらかといえば、サスペンス要素の高い作品を挙げている。643本も鑑賞してくると、様々なジャンルの作品を観るようにもなってくる。もちろん、感動的な作品は変わらずに好きであることは違いないのだが、今年は例年以上に質の高いサスペンスやホラー作品が日本映画/外国映画問わず、年初から年末まで多かったのではないだろうか。怖さの中に隠れている作品のおもしろさに改めて気付くことができた。来年は果たしてどれだけの映画を観ることになるか未知数であるが、おもしろい映画に出逢い、また年末にここに書くことが出来れば幸いだ。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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