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故郷を持っている人に強烈な憧れがある…『盆唄』中江裕司監督に聞く!

2019年2月27日

福島からハワイ、富山と舞台を移しながら、東日本大震災の影響で存続の危機に瀕する福島県双葉町の伝統“盆唄“のルーツと現状、そして未来を映し出す『盆唄』が、関西の劇場でも公開中。今回、中江裕司監督にインタビューを行った。

 

映画『盆唄』は、『ナビィの恋』の中江裕司監督が、「盆唄」を通して結ばれる福島県双葉町の人々とハワイの日系人たちの姿を追ったドキュメンタリー。東日本大震災から4年が経過した2015年、避難所生活を送り続ける双葉町の人々は、先祖代々守り続けていた伝統「盆唄」消滅の危機に心を痛めていた。そんな中、100年以上前に福島からハワイへ移住した人々が伝えた盆踊りが「フクシマオンド」として現在も日系人に愛され続けていることを知る。自分たちの伝統を後世に伝えられる新たな希望を抱いた双葉町の人々は、盆唄を披露するべくマウイへ向かう。故郷とともにあった盆唄が、故郷を離れて生きる人々のルーツを明らかにしていく。
中江監督が3年の歳月をかけて取材を敢行し、双葉町の豊かな伝統芸能とハワイのボンダンスにまつわる唄や音楽、その背景を鮮やかに映し出す。史実に基づくアニメーションパートでは、余貴美子さん、柄本明さんらが声の出演。

 

劇映画とドキュメンタリーをほぼ交互に撮っている中江監督は「映画制作に違いはない」と捉えている。「元々、ドキュメンタリスト体質。ドキュメンタリーはTV番組にしていることが多く、認識されていない」と述べた。社会派ドキュメンタリーが多く制作されている昨今だが「あくまで、一種の側面。社会を糾弾するなら叫べばいい。映画にする必要性には疑問がある」と訴える。また、ドキュメンタリーでは小川紳介さんや土本典昭さんの作品を好んでおり「1960~70年代の日本映画を引っ張った2人。水俣や三里塚に関する作品は社会的な映画として捉えられているが、結果的に、人を描くことによって、社会に対して問題提起をしている作品」だと解説。「社会を告発することが目的ではなく、人を撮ろうとしている。僕はその影響が強い。昨今のドキュメンタリーはTVと映画の差が無くなってきていると思うが、その一線を画している」と自身の作品を受けとめている。

 

福島・ハワイ・富山での撮影は全体で200時間も行われた。編集にあたり「映画にとって、必要かどうか」に重点を置き、偏った思いは抱いていない。編集作業中にはプレビューを行い、スタッフの皆に意見を聞くが「皆がまさかと思うほど切っている。なぜ無いのか言い出すと思考停止になるので、編集部と僕で進めていく」と率直だ。結果的に、本作は134分に落ち着いたが「どのようにしてお客さんに『盆唄』を持って帰ってもらうか。綿密に尺を意識してなかった。これ以上、長くしても意味がない」と断言する。

 

郷土愛にふれている本作だが、中江監督は京都生まれで「親が滋賀県出身。大学から沖縄に行ったので、故郷に対しては根無し草。放浪しているような人間」と謙遜。「故郷を持っている人に強烈な憧れがある。故郷を離れることにビビッドに反応してしまう」と明かし、今作が出来上がった由縁を語る。

 

ハワイ移民の方々も登場するが「沖縄系ハワイ移民のドキュメンタリーを2本連続で撮っていたので理解していた」と説く。「横山さん達は何度かハワイを訪れボンダンスを見ていたので、この流れは自然だった。ハワイ移民達やフクシマオンドがどのようにしてハワイに根付いていったのか」と興味があり、本作のために幅広く調べていく。元々は、ハワイ移民は広島県や山口県からの方が多く、明治政府とハワイ王国が推進した事業であり、初期はイワクニオンドが主流だった。その3,40年後に福島からの移民があり、フクシマオンドが持ち込まれていく。当時の日本では、盆踊りが最大の娯楽であり、太鼓があれば出来ることもあり拡がった。まさに、盆踊りを通して、郷土愛を持つ人々のルーツを辿った一作である。なお、中江監督は、次回作として沖縄でドラマを撮る予定があり、未来に期待を寄せて目を輝かせていた。

 

映画『盆唄』は、大阪・梅田のテアトル梅田、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸、京都・烏丸の京都シネマをはじめ、全国の劇場で公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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