Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

  • facebook

神戸を舞台に、震災から30年を経た視点をもって心のケアを描いた物語を作ってほしい…『港に灯がともる』安成洋さんに聞く!

2025年1月16日

神戸に暮らす人々への膨大な取材を基に、震災発生直後に生まれた在日韓国人3世の女性の葛藤と成長を通して、心の復興を描く『港に灯がともる』が1月17日(金)より全国の劇場で公開される。今回、プロデューサーの安成洋さんにインタビューを行った。

 

映画『港に灯がともる』は、阪神淡路大震災の翌月に神戸に生まれた在日韓国人3世の女性を主人公に、高校卒業から12年間にわたる葛藤と模索の日々をつづったドラマ。自身の出自と親から聞かされる震災の記憶の板挟みになり双極性障害を発症した主人公が、コロナ禍を経て回復を目指すなかで希望を見いだしていく姿を描く。1995年の震災で甚大な被害を受けた神戸市長田区。当時そこに暮らしていた在日韓国人・金子家の娘として生まれた灯(あかり)は、両親から家族の歴史や震災当時の話を聞かされても実感を持てず、どこか孤独と苛立ちを募らせていた。震災で仕事を失った父の一雄は家族との衝突が絶えず、家にはいつも冷たい空気が流れている。やがて、しっかり者である姉の美悠が日本への帰化を進めようとしたことから、家族はさらに傾いていく。『ソロモンの偽証』の富田望生さんが灯役で主演を務め、姉の美悠を『サマーフィルムにのって』の伊藤万理華さん、弟の滉一を『まなみ100%』の青木柚さん、母の栄美子を麻生祐未さん、父の一雄を甲本雅裕さんが演じた。NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の安達もじりさんが監督を務めている。

 

2020年、安克昌さんによる『心の傷を癒すということ 神戸…365日』をNHK制作による連続ドラマとして演出を手掛けた安達もじりさん。当時、安克昌さんは既に亡くなっており、ご遺族の方に映像化の相談に伺った。その際に、安克昌さんの弟である安成洋さんは「兄の本を何度も読んでいる。是非1人でも多くの人に読んでもらいたいな」という思いがあり、取材に応じている。無事にTVドラマは放送され「ドラマで描いたことを様々な人に伝えていきたい」という安さんの思いもあり、その後にテレビドラマ全4話を再編集した『心の傷を癒すということ 劇場版』が公開された。

 

だが、劇場公開されたのは2021年1月。コロナ禍による緊急事態宣言によって、4月頃には上映を終えた。安さんは「これで終わりなのかな」と感じると同時に「学校等でも上映できる規模にして様々なところに届けていきたい」という思いも抱いていく。そんな時、劇場以外での映画上映を行うための窓口となる一般社団法人全国映画センターから声をかけて頂いた。そこで、全国の自主上映をやっている各都道府県の組織を通じて上映会を開催していく。その中では学校での上映会もあり、生徒達に真摯に鑑賞してもらったり、質疑応答の時間をしっかりと確保していったりしていった。そういった経験を基にして、全国映画センターに対しても「できるだけ私も伺って話し、会場のお客さんと交流できる場を作ってくれませんか」と依頼。特に阪神間での上映会の機会が多くあり、講演に登壇する際には、書籍からの一節を紹介しており「震災から何年も経っても、基本的な状況は根本的に変わっていない。これからずっと形を変えて残っていくものだろう」と実感。様々な人達からの話を聞きながら交流を重ねていく中で「ドラマや映画を見ることによって、自分達の気持ちを分かってもらえたような気がする。しっかりと観て頂いている」と伝わってきた。同時に「今回の映画化で終わりなの?」という声を受け「今後も映画という形で伝えていくべきことがある」と直感。「安達さんが真摯に向き合い綿密に映画を作って頂いた。スケジュールが空いた時に、また映画を作ってもらえませんか。可能なら、心のケア、神戸が舞台、震災から30年を経た視点を取り入れてもらえませんか」と依頼した。

 

オファーを受けた安達さんは、まず、震災から30年を経たタイミングでの公開について検討。前作が25年を経たタイミングだったことから、四半世紀が経ち、ここからまた語り継いでいこう、と大きな節目だと振り返り「また時間が経過していく中での30年というタイミング…震災の年に生まれた人は30歳になるのかぁ…」と改めて気づくと、驚くばかり。そこで、様々な方に「震災の時どうしていましたか?」「その後はどうでしたか?」伺っていく中で、1995年当時に起きたエピソードを物語にしていく手法を一考。だが、震災を経験した人にとっては人生において重大な出来事である、と同時に、未だに震災についてふれたくない人も積極的に語り継いでいきたい方もおり、人それぞれの出来事の捉え方が違うことも認識する。また、震災後に生まれた方から話を聞いていくと、教科書に書かれている現代史の中の出来事だ、と感じている神戸の方がいることも分かった。そこで、現在の視点で、どのように震災を描けばいいか熟考し「30年をしっかりと見つめる今の物語を作れないか。震災の年に生まれた人を主人公にしてみよう。そうすれば、家族は震災を経験しているので、皆の考え方や捉え方の違いを描いていけるだろう」と検討。

 

神戸を物語の舞台にしようとしても、神戸には各々に特徴がある街がある。各地をまわっていったが、被害が大きかった 長田区で話を聞く必要があり、一念発起。長田は、様々なルーツを持つ方が共に暮らしながら文化を育んできた街であり、現代的な多様性がある今の神戸を描く意味があると気づき、主人公の一家に関する設定も様々な案があったが、1世から3,4世にまで連なっている長い歴史を伴って暮らしてきている方が多い在日コリアンの家族を描くことを決めた。

 

前作は、精神科医の目線から描いた心のケアの物語だったことから、今作では「心にしんどさを抱えた人の目線で描く物語にしたいな。震災の年に生まれた主人公が、何らかの心の苦しみを持つ、という設定にしよう」と着想。そこで、安克昌先生と繋がりのある精神科医の先生らに「今なら、どういう設定があり得ますか?」と相談。「症状の名前等は設定できる。だが、あくまでも人それぞれなので…」と応えてもらい、仮に双極性障害をかかえる主人公に設定して調べていき、何らかのきっかけや様々な要因によってしんどさを抱えていくことを描く必要性を認識。取材で伺った話を仮説に肉づけしていきながらも、ストーリーを膨らませ過ぎたことにも気づき、生きづらさを抱えた女性が少しずつ息をできるようになっていく物語にすることを決め、シンプルで深みのある脚本を書き上げた。

 

キャスティングにあたり、富田望生さんについて「『ソロモンの偽証』でデビューされて以来、衝撃的で凄い演技をする人だな」と印象深く、以前にお会いし際に「本当に感受性豊かでありながら、実は繊細な方。まっすぐでピュアな人だな。一度お仕事をしてみたいな」と切望。主人公の灯は、演じる上でも難しい役であるが「是非とも富田さんに!」と依頼し、実現した。灯を見守る各々のキャラクターについても「この物語の中で生きてくださる方は、どんな人なんだろう」とプロデューサー陣と議論しながら、1人1人にオファーしている。

 

なお、富田さんには、クランクインの10日前頃から神戸に来て生活してもらっており、神戸の知り合いを紹介してごはんに行ったり日常を過ごしてもらったりしており、神戸で生きてきた灯がどういった場所どのように空気を吸って生きてきたか、理解してもらえるようにしていった。撮影は順撮りで進行しており、18歳の灯から始まり、ここから幾つもの場所を巡り、多様な人と出会い、様々なことを感じてほしい。フィクションであるけれども、短い時間の中で一つずつ経験してもらったことを撮影していった。富田さんと共演する俳優の方々にとっても自身にはない役を演じてもらうにあたり、その距離感を埋めるための話を十分に行っており「あくまでシンプルに考えてもらった。場所はこちらで用意するので役を生きてください」とお願いした。順撮りだったことも功を奏し「一つ一つのシーンがとても濃かった。だけど、撮影全体では充実したものとなり、スタッフ・キャストと共に過ごしながら素敵な撮影期間となりました」と手応えもある。安さんも撮影現場を伺っており「和気あいあいでありながらチームワークがしっかりとしており、本当に仲の良い現場でしたね。あのような職場があるなら、良い職場だと言われるんだろうな」と感じながら、見守っていた。

 

編集段階となり、安達監督は悩むことに。様々なテーマを詰め込んだ作品であるため、1人の女性のシンプルな物語にしていくにはどうすればいいか、と困惑しながらも、富田さんが演じる灯は、シーンや状況によって呼吸が繊細に違うんだな」と発見。「灯が呼吸できるようになる物語だと気づき、灯の呼吸を中心にして描いていく編集方針を決め、改めて物語が描きたいことを理解していった。音響や劇伴の音楽も合わさり、作品として完成し、試写などでご覧いただき反応を聞く機会を経ていく度に「なるほど、そういうことを描いているんだな、この映画は」と実感する日々を送っている。監督自身は、各キャラクターを誰一人も悪者にしないようにしており「それぞれに見える顔と抱えているものがある。だからこそ、人の痛みもわかる、といったことが滲み出るように」と心掛けて描くようにした。とはいえ、見る方の立場、状況、年齢とかによって感情移入するキャラクターが全然違うことを実感しており「お父ちゃんに感情移入している方もいらっしゃれば、灯の姿が心に刺さって見てくださる方もいます。様々な立場があり、その人の考え方や思いとかにもよって、本当に見え方が変わるんだな」と気づかされていく。様々な反応があることは有難く「映画をきっかけに周囲にいる人々との対話が生まれ、新たな繋がりが出来上がっていくことになれば幸せだな」と期待しており「まずは、多くの方に観ていただいて、この映画が成長していったらいいな。そして、また私が勉強させてもらい、アップデートしていけたらいいな」と楽しみだ。安さんは、劇場公開終了後も様々な形での上映回と交流する機会を構想しており「作品を観た後に様々な話ができる映画にした。同じ人でも観るタイミングによって全く違う見方になる。リピーターになってもらえるような広め方が出来たらいいな。末永く届けていきたい」と意気込んでいる。安達監督は、再び神戸を舞台にした作品を撮り続けたくなっており「神戸を徹底的にしっかりと描き続けたら、さらに普遍的な物語になっていく。とてもローカルな取り組みかもしれないが、集中して描き続けた時には普遍性を伴い、多くの人に届いていく。まずは、企画が通らないとできないけれども、それを目指してやっていきたいな」と今後を楽しみにしている。

 

映画『港に灯がともる』は、1月17日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のテアトル梅田や難波のなんばパークスシネマ、十三の第七藝術劇場や九条のシネ・ヌーヴォ、京都・三条のMOVIX京都や烏丸の京都シネマや出町柳の出町座、神戸・三宮のkino cinema 神戸国際シネ・リーブル神戸や元町の元町映画館等で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

Popular Posts