佐藤忠男さんが書いた瑞々しい文章に触れてほしいな…『佐藤忠男、映画の旅』寺崎みずほ監督に聞く!
映画評論家として、初めて文化功労者に選ばれた佐藤忠男さんの人生を追ったドキュメンタリー『佐藤忠男、映画の旅』が12月13日(土)より関西の劇場でも公開。今回、寺崎みずほ監督にインタビューを行った。
映画『佐藤忠男、映画の旅』は、映画評論家である佐藤忠男さんの映画人生に迫ったドキュメンタリー。独学で映画評論の道を開拓し、60年にわたる評論家人生で日本映画史を体系化した功績、そして後年にはライフワークとしてアジア映画を発掘し日本に先駆的に紹介した功績から、映画評論家として初めて文化功労者に選出されたことでも知られる佐藤忠男さん。庶民の目線から多岐に映画を論じ、アジアとの映画交流や後進の育成にも尽力したが、2022年3月に91歳で逝去した。佐藤さんが学長を務めた日本映画学校(現日本映画大学)での教え子だった寺崎みずほさんが初監督を務め、2019年より佐藤さんに密着取材を実施。少年期の戦争体験や映画との出会い、映画人生の長い道のりを共に歩んだ最愛の妻である久子さんとの出会い、そして佐藤さんが愛したインド映画「魔法使いのおじいさん」への思いなど、生前のインタビューや世界の映画関係者の証言を通してその人物像に迫り、佐藤さんの“たからもの”を探すべく日本からアジアへと旅に出る。
映像制作会社のグループ現代でTVドキュメンタリーのディレクターとして働いている寺崎さんは、プロデューサーの川井田博幸さんから「佐藤忠男さんを撮ってみない?」と提案を受けた。そこで、実際に佐藤さんに会い話していく中で「佐藤さんの知識量と人生経験の厚み、彼自身のおもしろさがあり、人間的に魅力的だな」と惹かれ、取材のテーマを決めず、追いかけていくことに。その中で「何故、私は映画が好きなのか」と原点に立ち返ることができる、と予感し、現在にまで至っている。
取材を進めていく中で、佐藤さんの妻である佐藤久子さんの存在が重要であることを察し、本作にもしっかりと取り入れることを検討。また、佐藤さんが”アジア映画探訪記”を書いており「佐藤さんが旅していた当時と現在のアジアは違いますが、私にとっては、凄くおもしろくて、新鮮。私達が日本で生きていく中で、アジアの人達と共にどのように生きていけばいいか、と考えないといけない。そこで、佐藤さんを通してアジア映画の旅をしたら、おもしろそう。これを撮らなきゃいけないかな」と一念発起。だが、取材当時、久子さんは寝たきり状態であった。その1ヶ月後にはお亡くなりに。この事態に困惑してしまったが、ラジオ番組で久子さんがアジア映画について語っている音源が見つかり、聞いてみると楽しげな雰囲気が伝わってきて、改めてアジア映画の旅取材をすることを決意する。
また、佐藤さんが執筆した様々な書籍を読み深めていく中で、人柄やバックグラウンドが分かるようになった。「映画で世界を愛せるか」を読みながら「武器を持って国同士が戦争するのではなく、お互いの良い映画を以て、銃ではなく映画でお互いの国を自慢し合って、話し合って、握手しよう。そうすれば戦争は無くなるんだ。そんなことをやろう、と皆に問いかけたい」といった要旨を掴み「恥ずかしいぐらいのストレートなタイトル。映画の世界では、こういうこと言う人なんだな」と実感。「彼の中には戦争のことがあった。でも、次第に、アジア映画を探すのが楽しくなっていたんだろうな」と気づき「そんな両面が佐藤さんにあるからこそ、今作では両方とも取り入れたい」といった思いで撮影していき、佐藤さんについて改めて知っていった。
なお、取材を始めた頃は、特に期限を定めておらず、佐藤さんを訪ねて様々ことを伺う日々に。とはいえ、コロナ禍となり、テーマを少しずつ絞っていった。「佐藤さんは、この映画がNo.1だ、と文章には残していない。でも、様々な場所では仰っている」といった疑問もあり、改めて確認させてもらっている。本作ではその様子が映し出されているが「これが、No.1なのか。何故この作品なんだろう」とさらに疑問を抱いてしまい「佐藤さんは分かりやすいようで、コレだけはわからない」と正直に打ち明けながらも、作中に盛り込んでいった。その後、 2022年3月17日に佐藤さんは亡くなり「本当は、彼の周りに起きる現象を撮りたい、と思っていた。亡くなる前に作品を完成させて佐藤さんに見てもらい、批評してもらおうと思っていた。まだまだだな、とか言われてしまうかもしれないけど…」と打ち明けながらも「どのようなテーマに絞るか、踏ん切りがついた。これからは私が全て考えないといけない」と改めて認識していく。その直後、佐藤さんが関わっていたアジアフォーカス・福岡国際映画祭の取材を行い、アジア各国における佐藤さんの存在の大きさを理解し「彼の世界感の大きさが映像に映る」と確信が持てた。そして、国内で中国映画を一緒になって探した方、韓国やインドで佐藤さんが携わった方を取材し「インタビューをまとめた内容でも大丈夫だ」と手応えを掴んでいる。
編集作業にあたり「佐藤さんの話と久子さんの話、インド、韓国、アジア映画への旅、それらをどのように結びつけるか」と作品の軸を考えていく中で、編集担当の遠山慎二さんと粘り強く取り組んでいった。とはいえ、実際にシーンを繋ぎ合わせていくことは大変であり「何故、佐藤さんはアジア映画に携わっていったのか」とじっくりと考えていくことに。そこで、遠山さんに客観的に見てもらい「良いことを言っていても、使えないシーンがあるなら、映画としてはダメだよ」と指摘してもらいながら、意図を汲み取ってもらいながら仕上げてもらった。また、遠山さんと川井田さんと共に編集作業を進めていく中でクライマックスへの繋げ方について検討していっており「本当に盛り込みたいシーンが結構あったんです。だけど、それらを入れるとブレてしまうから、泣く泣く落としたシーンが結構ある。 でも、それでもなんとか繋がったかな」と思い返す。
完成した作品について試写をしていく中で「ヘンテコな映画だけど、愛のある映画だった」と或る種好意的な反応をいただいた。寺崎監督は、改めて佐藤さんの書籍を読み「この映画、楽しかったよね。もう一度、映画を観たくなる」と純粋な気持ちに立ち戻る瞬間もあり「 小津安二郎監督等について書かれた堅い本は見識が深くなり、小津監督の映画がさらにおもしろくなる。でも、小津映画の初心者が作品を見ていなくても大丈夫」と感じている。また「映画評論とはなんだろう、と考え直すきっかけになったらいいな」とも願っていた。佐藤さんの初期作品「日本の映画」のあとがきには、映画の見方に関する基本的なスタンスとして「何故、自分がおもしろいと思ったのか、を恥ずかしがって言わないのではなく、そこで自分を掘り下げる、という行為が実は楽しい。当たり前のことだけど、意外と忘れている」といった内容が書かれており「佐藤さんの文章はすごく良いですよね。ホントに瑞々しい。そういった文章にも一つでも触れてほしいな」と望んでいる。
映画『佐藤忠男、映画の旅』は、12月13日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、12月19日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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