悩んでいる人のお守りになるような作品になったら…『ミーツ・ザ・ワールド』松居大悟監督に聞く!

趣味に熱中しながらも自分を好きになれない女性が、美しいキャバクラ嬢に導かれ、歌舞伎町でホストや作家、バーのマスターと出会い、新しい世界に踏み出す『ミーツ・ザ・ワールド』が10月24日(金)より全国の劇場で公開。今回、松居大悟監督にインタビューを行った。
映画『ミーツ・ザ・ワールド』は、芥川賞作家の金原ひとみさんが新宿・歌舞伎町を舞台に描き、第35回柴田錬三郎賞を受賞した小説を、松居大悟監督、杉咲花さん主演で映画化。二次元の世界を愛し、自己肯定感の低い主人公が、キャバクラ嬢との思いがけない出会いをきっかけに、新たな世界の扉を開いていく姿を描く。擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」をこよなく愛しながらも、自分のことが好きになれない27歳の由嘉里。同世代のオタク仲間たちが結婚や出産で次々と趣味の世界から離れていく現実を前に、仕事と趣味だけの生活に不安と焦りを感じた彼女は、婚活を開始する。しかし、参加した合コンで惨敗し、歌舞伎町の路上で酔いつぶれてしまう。そんな彼女を助けたのは、美しいキャバクラ嬢のライだった。ライとの出会いをきっかけに、愛されたいと願うホスト、毒舌な作家、街に寄り添うバーのマスターなど、さまざまな人たちと知り合い、関わっていくことで、由嘉里は少しずつ新たな世界を広げていく。主人公の由嘉里役を杉咲さんが演じるほか、キャバ嬢のライ役をモデル・女優として活躍する南琴奈さん、ホストのアサヒ役を板垣李光人さん、作家のユキ役を蒼井優さん、バーのマスター役を渋川清彦さんがそれぞれ演じる。
金原ひとみさんの小説について、『ミーツ・ザ・ワールド』より以前の作品については、本作におけるライのような人物が主人公になることが多い、と松居監督は感じており「『蛇にピアス』も含め、考え方が超越しており、その人なりの正義があったり、自らを傷つけたりする。新しい世界を見る上では非常に興味深く、面白く読んでいたんです。だけど、その世界について自分は知らないことが多いので、映画としては考えていませんでした」と打ち明ける。とはいえ、見抜こうとしている視点や目線はおもしろく、読み続けていた。本作の原作小説を読みながら「由嘉里目線でライを見ながら、”ライさんは何を考えているのだろう”、”どうしてライさんと分かり合えないのだろう”と感じながら、ライを追い続けていく構造だった。この世界には物凄く入ることができた」と印象深く「由嘉里と同じ気持ちになり、由嘉里を応援しながら、自分自身も新しい世界に入っていき、新しい人や価値観に出会っていくことがおもしろく、興味深く読んだ。やりたいことや作品で描こうとしているメッセージやテーマについても、今の時代に届けるべきだ」と感じたそうだ。
脚本執筆は國吉咲貴さんと共に手掛けている。「男性である自分だけでなく、女性と共に書いた方がいいな」と考え「國吉さんはすごくユーモアを持っている方。お互いにユーモアを提案しながら、取り組んでいきたい。また、自分には、娘と母の関係が分からないから、書いてもらいたい」と依頼した。執筆を進めていく中で、松居監督と杉咲さんとプロデューサーらで集まり「何故、原作からこういうセリフになったのか」「何故、原作のこの部分は無くなったのか」等の確認をしながら、脚本の改稿をしており「杉咲さんは原作小説に共鳴していた。一番いい形でお客さんにとどけるために、一緒に考えてくれた」と感じている。なお、松居監督と杉咲さんは、2015年に開催された第7回TAMA映画賞授賞式で出会っており「いつかは一緒にやりたいですね」と話しながら、WOWOWオリジナルドラマ「杉咲花の撮休」を製作しているなかで、原作小説と出会ったようだ。
キャスティングにあたり、杉咲さんは、ライについて「どういう方が演じるのか」と気がかりだった。松居監督は「今まで出会ったことないような方に演じてもらおう」と考え、オーディションを行い、300名以上の中から30人程度に絞り、1人ずつに会ってお話をして、お芝居してもらい、3人にまで絞っていく。3人それぞれまったく違うタイプであり、最終審査実施の旨を杉咲さんに伝えると、最終審査では、由嘉里とライの出会いやメイクのシーンを演じてもらうことになり、杉咲さんには相手役を担ってもらうことに。長台詞についても難なく対応していたが、南琴奈さんとメイク中のシーンで会話のやりとりをしている中で杉咲さんの台詞が止まってしまう事態に遭遇。「南さんが演じているライを目の前で見ていた時に吸い込まれそうになっていた。由嘉里とライを表している」と思い、ライ役を南さんに決めた。また、由嘉里とライを見守るユキさんやオシンさんについて「圧倒的な安心感がある方に演じてもらいたい」と検討。「ユキさんは、ライよりもっと向こう側にいる。理由もなく死にたいのではない。結局、死に向かっているのだから、そこに向かって生きているだけ、といった達観した価値観を持っている有様を身を以て表現できる人がいいな」と思い「十年前にご一緒したぶりですが、この役を演じる蒼井優さんが見たかった」と願い、再タッグが実現。オシンさんについても「渋川清彦さんなら、ライがどんなにフレッシュな方でも大丈夫」と信頼を寄せていた。劇中に登場する擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」は、3年前からアニメーション制作が動き出しており、停滞することなくプロジェクトが進められている。脚本の方向性が定まった上でアニメーションの制作は始まり、1年半が経過した頃には撮影現場にクランクインしていた。「現場に入るまでにアニメーションが完成した。撮影中に”ここ、後でアニメ入れます”となると、役者は芝居ができない。実態があるからこそ、気分が盛り上がったり興奮したりできる」と認識しており、じっくりと作り上げた。特に、オープニングのシーンが届けられた時には、手ごたえを感じられている。なお、劇中に登場するだけの漫画であるが、同人誌まで作成し作中に登場させており「一次創作としてアニメをしっかり作り、二次創作からカップリングとして同人誌を作った。画が1パターンだと嘘っぽくなるので、様々な絵師さんによる色々な趣向のカップリングがないといけないので、20人以上の方にお声がけし、キャラクターの説明をして、どのキャラクターのカップリングがいいか、と考えてもらい作ってもらった」と振り返り「映画とアニメと二次創作、3つの話をずっと作っていたので混乱していました」と明かす。だが、しっかりと作り込んだアニメーションであるが、現場での撮影をしていく中で「俳優の芝居を見ていると、アニメーションが必要ないな…」という空気感もあり「アニメーション向きの画等もあったんです。だけど、そういった画を泣く泣く落としました」と打ち明ける。また、撮影にあたり「場所に嘘をつかず撮ろう」という意向を示したが、実際は大変であった。「歌舞伎町ではないところの方が撮りやすい。路地裏やゴールデン街にあるバーは狭過ぎて撮影しづらい」と本音を漏らすが「だからといって嘘をついて広いところで撮ることはしなかった。全て歌舞伎町で撮った。歌舞伎町のマンションも借りて撮っている。撮影時間、撮影のしづらさ、音がうるさい、人が止まらない、といった難題と戦いながら撮っていった」と振り返る。そして、撮影の中盤から後半を迎えた頃、ラーメン屋で由嘉里の食事シーンを撮った時に「この映画は大丈夫だ」と思い、本作に確信が持てた。
劇伴については、プロデューサーの深瀬和美さんが「クリープハイプに劇伴・映画音楽をお願いしませんか」と提案。松居監督は「彼等は、やらないんじゃないか。今作は原作があり、製作チームが出来上がっている形だったので、それでやるのかどうか分からない。そもそも、彼らは、バンドだから映画音楽をやらないのではないか」といった思いがあり、自身からは何も言わず、委任した。真正面からオファーしてもらい真摯に受けていただいており「この期間で僕らはやり取りをしていなかった。やってくれるんだ、と思った。でも、すごくおもしろがって映画音楽に挑んでくれた」と受けとめている。
完成した作品は、完成披露上映会で上映され、ご覧になったお客様から「息がしやすくなりました」という感想が届き、喜んだ。監督自身も救われたような気持ちになり「若い人で、何に頼っていいか分からない、これからどうしたらいいか分からない、と悩んでいる人のお守りみたいな作品になったらいいな」と願っている。今回、本作の映画を作る過程で「ジャンルが異なる人達と一緒に仕事をするのもおもしろかった。これからも境界線に拘らずに作っていきたいです」と受けとめていた。
映画『ミーツ・ザ・ワールド』は、10月24日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のT・ジョイ梅田や難波のなんばパークスシネマ、京都・三条のMOVIX京都や九条のT・ジョイ京都やアップリンク京都、神戸・三宮のkino cinema 神戸国際等で公開。

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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