Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

  • facebook

異色の平安時代の怪談アニメはいかにして生まれたのか?『後朝の花雪』『ねむれ思い子 空のしとねに』栗栖直也監督に聞く!

2025年10月21日

平安時代を舞台にした怪談を3DCGアニメーション──そんな稀有な作品『後朝の花雪』を完成させた栗栖直也監督にインタビューを行った。

 

映画『後朝の花雪』は、2016年に個人制作で作りあげた3DCGアニメ『ねむれ思い子、空のしとねに』で国内外から高く評価された栗栖直也さんが、9年ぶりに完成させた短編3DCG怪談アニメ。今昔物語の1編をモチーフに、美しき平安の悲恋を徹底した時代考証により描き出す。1000年前の京都。かつて捨てた女の家を訪ねた時正は、その館の中で朽ちずに残っている女の骸と、周囲を漂う不気味な光を目撃する。自分を恨んで死んでいった女の祟りを恐れる時正は、陰陽師である賀茂忠行のもとへ向かうが…
物語の舞台となる建物は、平安京・右京六条一坊五町の発掘資料の図面をベースに、現存する平安時代の神社仏閣や資料から構造を導き出し3DCGで再現。1980年代から多くのゲーム音楽を手がけてきたサウンドコンポーザーのKawagenが音楽を手がけ、平安時代に存在した和楽器およびシンセサイザーのみを使用してサウンドトラックを制作した。テレビアニメ「BORUTO ボルト NARUTO NEXT GENERATIONS」の木島隆一さんが時正役、ボーカロイド”結月ゆかり”のボイスを担当する石黒千尋さんが小浜役で声の出演。なお、『ねむれ思い子、空のしとねに』のデジタルリマスターバージョンと同時上映される。

 

栗栖監督は2004年に『文使(ふみづかい)』という、今作と同じく平安時代を舞台にした短編アニメーションを制作しているが、平安時代の魅力について教えてくれた。「女性の文学が出てきだした時代でもありますし、当時の生活の様子(の記録)や当時どんなことを考えていたのかが残り出す時代が平安時代なんです。今回は『今昔物語』をテーマにしているんですが、庶民の話に加えて不思議な話とかファンタジーな話が収められているのですが、そういった話が同居している感じが魅力的」だそうだ。平安時代といえば貴族の文化が一般的に印象として浸透していることを踏まえ「当時生きていた人の“平安といえばそういうもの”じゃない部分もやりたい」「他の人がやっていない平安時代のビジュアル化はやっていて楽しい」と今作の珍しい時代設定の動機についても教えてくれた。『後朝の花雪』では平安時代の再現の為に現存する平安時代の資料をもとに、当時の建築や風景を再現した作品となっている。

 

 

『文使』は現在監督のYouTubeチャンネルで配信されている。「いろんな人に見ていただいて、今でも“古文の道に進むきっかけとなった”とか、“海外の人が日本の文化に興味を持つきっかけになりました”とか、“受験生なんですけど今まで興味のなかった古文が楽しめるようになりました”とか言ってもらうこともあり、今回また平安時代物をやってみようかなというのもありました。」

 

ちなみに『文使』では登場人物が古語を話していたが、今回の上映では現代語の音声が用いられている。「今回も古語版は収録はしているんですけど、マニアックすぎるというか(笑)上映は現代語版になっています。リップシンクというか口の動きは古語になっていて、現代語吹替版という扱いになっています」。古語の発音に関しては現在も様々な研究がありはっきりしていない為、関西弁や京都弁の発音風が採用されているそうで、現在のところ古語版の公開の予定に関しては未確定だそうだ。反響次第でお披露目の機会が設けられるかもしれないので、ぜひ気になる人は応援の声を上げて欲しい。

 

「後朝の花雪」では印象的なキャラクターとして陰陽師が登場している。「『今昔物語』は連続した話なんですが、息子さんのお化けの話とほぼ同じようなエピソードが安倍晴明の話でもあるんです。ただ安倍晴明は一応さらにあの人たち(作中に登場する陰陽師)の弟子なので、もうひと世代前の陰陽師なんです」と登場人物たちにもまだまだ設定の広がりがあることを教えてくれた。

 

ここから平安時代ものの作品を展開していく構想はあるのかについては「正直、全部持ち出しなんですよ。時間をかければ自分でできるので作画はいいんですけど、そこから音響とか本気でやろうとするとお金はかかるので、理想を言えば評判になってくれれば、もう一本ぐらい短いやつを作れればいいな、とは思っています。」

 

今回の『後朝の花雪』の上映では短編の本作に加えて、監督の前作となる長編『ねむれ思い子 空のしとねに』(2016)のデジタルリマスターバージョンも併映される。本作は主人公の織音がある組織によって実験用宇宙ステーションまで連れて行かれて、そこで自身がまだ幼い頃に亡くなったはずの母親と遭遇するというSFサスペンスヒューマンドラマになっている。「(その前に作った短編)『Turquoise Blue honeymoon』(2005)があまり登場人物が動かないという反響があり、それでちょっと本気のやつをと作ったのですが、少し大きくしすぎました。」と当時を振り返る。

 

 

『ねむれ思い子 空のしとねに』では戦闘の描写なども盛り込まれているが、今作のようなアクションものも作っていきたいのかと伺ったところ「そうなんですよ、本当はできるなら動かしたいんですよ」と『後朝の花雪』ともまた違った路線の制作意欲についても語ってくれた。「『文使』ではShede3Dというソフトを使っていました。で、『Turquoise Blue honeymoon』と『ねむれ思い子 空のしとねに』はLightWaveを使っていて、今回の『後朝の花雪』ではBlenderに乗り換えているんです」と新たな制作環境に臨むにあたって、作品のテイストも合わせていることを話してくれた。「ですから次作る時はもうちょっと動くやつを作りたいかな、とも思っています」。

 

映画『後朝の花雪』は、は全国の劇場で公開中。関西では、大阪・梅田のテアトル梅田と京都・烏丸御池のアップリンク京都で公開中。11月29日(土)から愛知・名古屋のシネマスコーレでも上映予定。

Interview & edit by ネジムラ89

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

Popular Posts