第1次世界大戦後のコペンハーゲンで起きた連続殺人事件をもとにした北欧ゴシックミステリー『ガール・ウィズ・ニードル』がいよいよ劇場公開!

©NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024
デンマークで起きた連続殺人事件を主軸に、身分違いの恋をした性の姿をモノクロで描く『ガール・ウィズ・ニードル』が5月16日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『ガール・ウィズ・ニードル』は、第1次世界大戦直後のデンマークで実際にあった犯罪を題材に、混沌とした社会のなかで貧困から抜け出そうと生きる女性の姿を鮮烈なモノクロームの映像で描いた。第1次世界大戦後のデンマーク、コペンハーゲン。お針子として働きながら、貧困から抜け出そうと必死にもがく女性カロリーネは、恋人に裏切られて捨てられたことで、お腹に赤ちゃんを抱えたまま取り残されてしまう。そんな中、彼女はダウマという女性と出会う。ダウマは表向きはキャンディショップを経営しているが、その裏で秘密の養子縁組機関を運営しており、貧しい母親たちが望まない子どもを里親に託す手助けをしていた。ダウマのもとで乳母として働くことになったカロリーネは、ダウマに親しみを感じ、2人の間には絆も生まれていくが、カロリーネはやがて恐ろしい真実を知ってしまう。
本作は、スウェーデン出身でポーランドで映画制作を学び、これまでに発表した長編『波紋』『スウェット』もそれぞれ高い評価を得たマグヌス・フォン・ホーンの長編監督第3作。カロリーネ役は『MISS OSAKA ミス・オオサカ』『ゴッドランド GODLAND』のビク・カルメン・ソンネ、ダウマ役は『ザ・コミューン』で第66回ベルリン国際映画祭の銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞しているトリーヌ・ディルホム。2024年の第77回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品されたほか、第97回アカデミー賞では国際長編映画賞にノミネートされた。
©NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024
映画『ガール・ウィズ・ニードル』は、5月16日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のテアトル梅田や難波のなんばパークスシネマ、京都・三条のMOVIX京都、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸等で公開。

デンマークで起こった恐ろしい連続殺人事件を描く『ガール・ウィズ・ニードル』はオープニングから観る者を不安に陥れる。暗闇に浮かぶ不気味な人相は複数の人々の顔の動きが絶えず交わり、歪んだまま一つに定まることはない。笑っているのか、それとも叫んでいるのか…。
第一次世界大戦終結直後のデンマークは誰もが疲れ、くたびれている。戦争の傷跡を直視させられ、人々の暮らしには余裕がない。ほとんどの男たちは戦争に行ったきり帰ってこないか、帰ってきたとしても精神的にも肉体的にもボロボロ。女性たちは家賃も払えるかギリギリの経済状況でなんとか仕事に向かう。特に主人公であるカロリーネの置かれた状況は過酷だ。勤め先の社長と恋仲になって結婚したかと思ったら破談になってしまい、そのまま失業。戦死したと思われた夫は醜い姿になりはてて帰ってきた。さらに、妊娠も発覚し、生活が立ち行かなくなっていく。しかし、社会は何も助けてくれない。冒頭の不気味な人相は当時の社会背景の映す鏡として暗い影を落としているように見える。
そして、物語は少しずつ連続殺人事件そのものを描いていくことになる。人間の闇と片付けてしまいたくなるような悍ましい事件であることは間違いない。しかし、前述した社会背景を重ねると、どうにかできたこともあったのではないかという気持ちになる。また、戦争は大きなきっかけだったが、それ以前から女性を取り巻く環境はかなり虐げられていたはず。積み重ねられた問題が混迷によってより複雑で困難な状況になったことは想像に難くないだろう。重たい現実を直視することになる作品だ。
一方で、ゴシック・ミステリーとしての美しさをまとった作品でもある。強烈なインパクトを残す不気味な人相はもちろんのこと、ソリッドさが際立つモノクロ映像やフレゼレケ・ホフマイアが奏でる心理的恐怖を演出する音楽など見事と言わざるを得ない。第97回アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされたのも納得の出来栄えだ。今回、マグヌス・フォン・ホーン監督の作品を初めて鑑賞したが、これまで手掛けた作品も観てみたくなった。
fromマリオン

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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