大きな流れの中で誰かが誰かにのさって皆が生きている…『のさりの島』山本起也監督に聞く!
“オレオレ詐欺”の旅を続ける若い男と老女の関係を描くヒューマンドラマ『のさりの島』が関西の劇場で公開中。今回、山本起也監督にインタビューを行った。
映画『のさりの島』は、熊本県天草を舞台にオレオレ詐欺の若者と老女の奇妙な生活を描いたドラマ。熊本県天草の寂れた商店街にオレオレ詐欺の旅を続ける若い男が流れ着いた。老女の艶子は、その男を孫の将太として招き入れ、艶子のあたたかい対応に若い男はいつの間にか艶子と奇妙な共同生活を送り、将太としての嘘の時間に居場所を見つけていく。地元FM局のパーソナリティを務める清らは、昔の天草の8ミリ映像や写真を集め、商店街の映画館で上映会を企画し、将太も上映会の企画チームのメンバーにされてしまう。かつての賑わいのあった頃の天草・銀天街の痕跡を探す中、艶子の持っていた古い家族アルバムに、将太は一枚の写真を見つける。若者役を藤原季節さん、老女役を本作が遺作となった原知佐子さんがそれぞれ演じる。監督は『カミハテ商店』の山本起也さん、『おくりびと』脚本で知られる小山薫堂さんがプロデューサーを務めた。
京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)映画学科は林海象監督の呼びかけで企画され、高橋伴明監督や佐藤真監督らが呼ばれた。映画学科を始めるからには映画を作ろうと「北白川派」と名付け意気投合してスタート。メンバーの中では最年少だった山本監督が全体の取り仕切りを担った。本作は北白川派が企画した第7弾。2014年頃から考えていたが、なかなか動かず。2017年に副学長の小山薫堂さんが推進して熊本県に伺うことに。熊本県庁のくまモンチームを訪れ、本作の概要を説明すると、オレオレ詐欺の男やシャッター街の商店街という題材から苦笑いされてしまう。だが、小山薫堂さんの田舎である天草のシャッター商店街を提案され、現地を訪れ、現地とのつながりが始まった。
2014年に執筆した脚本では、嘘をモチーフにお相撲を題材にした全く別のストーリーだったが、大元の筋立てを変えず、登場する要素を天草にあるものに置き換え取り込んで脚本をリライトしていく。「元々は佐村河内さんの事件が由来。そもそも本当と嘘の2つに分割できるような世界に私達は生きていない」と俯瞰しており「全ては感じたことでしかない。他人の評判による情報によって世界が嘘とホントに分類できる、と錯覚しているというのは不思議でしかない。騙されても腹が立たない映画を撮ってやろう」と取り組んでいる。なお、天草では、シナリオハンティングに伺った際に、過去の貴重な映像まで見せてもらっており「当時8mmフィルムが好きな人が大きな事件について終始撮り続け編集して1本の作品にして市の映像アーカイブに寄贈されていた。地元の方でも映像が残っていることを知らない人が多く、皆が驚いた」と興味を抱いた。そこで、本作には、本当にあった出来事を次々に取り入れ、脚本を書き換えている。
キャスティングにあたり、厳冬に天草での1週間ロケに参加してくれる80代の俳優さんはなかなか見つからなかったが、原知佐子さんは「やります」と仰って頂いた。原さんの覚悟に感謝し「久々の映画出演に張り切っている」と感じ取っていく。また、ラインプロデューサーの大日方教史さんは『止められるか、俺たちを』のプロデューサーで「『藤原季節はおもしろいよ』と紹介された。実際に会ってみたら意気投合した」と明かし「本作を通じて何かしでかしていこう、という人とやりたかった」と振り返る。出演当時は京都造形芸術大学の在学生だったキャスト達については「天草の若者を演じるなら、ロケの準備からスタッフとして参加していくと役作りにつながる。演技だけなら要らない、と伝えたら、誰も手を挙げなかった」と嘆きながらも「この4人にちらりと話していたら『私やります』と賛同してくれた。学生一人一人にテーマや課題を与え『その人物になってごらん』と云ったほうが役になりやすい」と各々に命題を持たせていった。
本作の制作にあたり「あえてトータルで最後まで作ることを一度経験しておきたかった」と打ち明ける山本監督。ミニシアターを中心とした興行の仕組みについて「映画の制作まで含めトータルで考えないと、維持できない。初めてプロデューサーや配給の気持ちがわかった。最後までトラブルなく創りきることがどれだけ大変か」と改めて思い知った。今作について「ご覧になった観客自身がイメージを形作って出来上がる。スクリーンに映したから形になったとは思わない。観客の心の中にあるスクリーンに投影されて一人一人が違う印象を持つ」と受けとめており「最近になって、やっと形になりつつある」と実感している。『のさりの島』というタイトルの持つ意味についても「脚本の中に、のさりという言葉が出てこない。小山薫堂さんが付けた意味を最近になってようやくわかった」と告白。「僕が何の映画を撮ったか、最近になってお客さんに話していて分かった。のさっている(授かっている)人達の話を撮った。のさり、というのは自分基準じゃない」と気づき「この映画は既存の概念で捉えるものではない。大きな流れの中で誰かが誰かにのさっている映画。のさっている中で皆が生きている流れを撮っていた」と身に沁みている。
映画『のさりの島』は、7月16日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、7月23日(金)より神戸・三宮のシネ・リーブル神戸、7月30日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都にて公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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