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東日本大震災から僕らが何を学ばなければいけないのか…『漂流ポスト』清水健斗監督に聞く!

2021年2月26日

震災で親友を亡くした女性が、手紙を通して思いを綴っていく様を描く『漂流ポスト』が関西での劇場で2月27日(土)より公開。今回、清水健斗監督にインタビューを行った。

 

映画『漂流ポスト』は、東日本大震災で亡くなった人への思いを受け止めるため岩手県陸前高田市に設置された実在の郵便ポスト「漂流ポスト」をモデルに、震災で大切な人を亡くした人の“心の復興”を描いた人間ドラマ。被災地で長期ボランティアに参加した清水健斗監督がメガホンをとり、実際に漂流ポストの管理人を務める赤川勇治氏が撮影に全面協力。ニース国際映画祭で最優秀外国語短編映画グランプリを受賞するなど、世界各地の映画祭で高く評価された。東日本大震災で親友の恭子を亡くした園美は、心のどこかで彼女の死を受け入れられずにいた。ある日、学生時代に恭子と一緒に埋めたタイムカプセルが見つかる。その中には将来のお互いに宛てた手紙が入っており、園美の心に美しい思い出と罪悪感がよみがえる。そんな折、園美は震災で亡くなった人に手紙を送ることのできる「漂流ポスト」の存在を知る。

 

東日本大震災発生以降、岩手で長期ボランティアを行っていた清水監督。被災地の方々から「震災の映像を見たくない」という声を聞き、被災された方々の背中を押してあげられるような映画にするために「被災地を全面に出していくよりも、映画の中の一つのエピソードとして震災を扱い、どういった人がどのように心情が動いていったのか、震災から僕らが何を学ばなければいけないのか」を前提にする。これまで制作されてきた震災に関する映画は、被災地を舞台にして被災された方を主人公にすることが多かった。震災が物語を進めるためのピースになってしまうことを避けるため「全く違う地方に住んでおり、間接的に大切な人を亡くしたが、直接的な被害を受けず、間接的な被災者を主人公として位置づけた」と説く。また、風化問題を訴えていくうえで、東北から離れていくほど他人事になってしまうことを鑑み「被災地以外の方達にメッセージを届けやすくするため、自分事と思ってもらえることを一番に考え、間接的な被災者として主人公を置き物語を作っていきました」と解説。現地で何度も取材をしていくなかで、本作と同じような出来事があったことを知り、ストーリーのベースにして映画として伝えられるように試行錯誤している。脚本執筆の時点で30分の短編になると想定しており「短ければ短いほど良いな、と思っている。勿論長編になる意味もありますが、本作のような題材ならば短くしなければならない」と十分にストーリーが考えられた。

 

漂流ポストの管理人役を演じた永倉大輔さん以外のキャストは全員がオーディションで選ばれている。「日常が一変してしまうことを描き出すため、大人になった主人公は日常感があるキャラクターを作りたかった。良い意味で素朴な普通の人であり、どこにでもいそうな2人を選びたかった」と明かし「震災前の綺麗な思い出を色づかせるために、学生たちのオーディションはキラキラした感じにして、トーンを分けたかった」と拘った。最初に主人公と彼氏役が決まっており、中学生の2人については、最終的に5人の候補が残り「全ての組み合わせを試して、大切な人に向けた手紙を書くシーンで、実際に書かせて、どういう表情をしているか」と総合的に考えて選ばれている。

 

クランクイン前には具体的な画のイメージを決めており、テイクを重ねず撮影は順調に進められた。とはいえ、天気が悪く、雨によく降られており、台風にまで遭遇したが「別日に分け、穏やかな海と荒れた海を撮ることが出来た。雨男で良かったな」と前向きに受けとめ「撮影で初めて雨が降るのを待つこともありました。咄嗟に判断して変えたのが功を奏した」と振り返る。「若い2人も含め自由度高く演じてもらったので、思い描いていた以上のものがある」と満足しており「プラスアルファを現場で相談して作っていけたので、思い描いていたより格段に良くなった。天気も含め様々な偶然も積み重なり作品が生まれていった」と撮影当時を清々しく話す。

 

清水監督による長編作品である『瞬間少女』は、東日本大震災発生以降にCM制作会社を辞めて初めて撮った作品。「震災を描くより、生きていることの儚さを端的に作った」と振り返り「『根本は3.11から派生しており、2つ作品は同じテーマ性を持っている」と述べる。「日常の親和性や一瞬一瞬の積み重ねで人生は出来ている。その儚さを映画で撮りたい」と願い「CMという30秒の短い尺ではなく、長い尺で人生を描くとはどういうことなのか」と考え『瞬間少女』を撮っており「長尺で撮ったからこそ、短編の本作に集約出来た」と分析。「CMで経験した良い部分を取り入れる感覚で取り組めたことは映画に活きた部分はある。映画をやったことでCMに取り込めることがある」と受けとめており「お互いの世界を観たことで映像の幅が拡がってきた。新しいことを学んで、今までの経験を取り入れていく」とハイブリッドな手腕が伺える。

 

既に外国の映画祭で何度も上映されており「大切な人を失っても立ち上がる過程での変化や、映像で訴えかけるメッセージ性も含めてレベルの高い作品だ」好反応なコメントを頂いた。なお、外国では東日本大震災について十分に知られておらず「当初の作品では地震に関する映像がなく、地震を題材にしたものとは気づかれず」と打ち明け「地震についてもう少し触れたら、さらに良くなるんじゃないか。どこの国でも届くメッセージがある」という声もあり、現在の作品になっている。年月を経た現在では震災を知らない子達もおり、現地の人と話していた時に「そろそろ入れても良いんじゃないの」という反応もあり「結果的に、作品にはプラスにはたらいた」と納得した。今後は、東日本大震災から10年目を迎えた現地のドキュメンタリーを制作しようとしており、新たなスタイルの作品に大いに期待したい。

 

映画『漂流ポスト』は、2月27日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。また、京都・烏丸御池のアップリンク京都でも3月6日(土)・11日(木)および秋に公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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