デモの経緯や歴史ではなく、若者達の感情を描くことが大切!『香港画』堀井威久麿監督に聞く!
香港民主化デモをテーマにした短編ドキュメンタリー『香港画』が関西の劇場でも1月9日(土)より公開。今回、堀井威久麿監督にインタビューを行った。
映画『香港画』は、2019年の香港民主化デモを記録した短編ドキュメンタリー。2019年2月、香港政府が逃亡犯条例および刑事相互法的援助条例の改正案提出を発表したことをきっかけに、香港全土で大規模な反対運動が巻き起こる。運動は徐々にエスカレートし、6月には103万人の市民による逃亡条例反対のデモ行進が行われる。同年10月、仕事で香港に滞在していた堀井威久麿監督は、デモに参加している人々の若さに驚き、彼らが何を考え、何を発信しているのかを知るために記録を始める。若者たちの声を聴きながら、デモ隊と警察が衝突するなかでも撮影を続けた堀井監督は、デモ隊とともに催涙ガスやペッパースプレーを浴びながらもカメラを回し続けた。そうして完成した28分の迫真の映像から、香港の若者たちがなぜ戦うのか、またメディアを通じてその様子を目にする人々が、彼らの声にどう向き合い、応えるのかを問う。
2019年秋、日系企業のCM撮影を目的に香港を訪れた堀井監督。偶然出会ったデモ隊の若者達から覚悟を感じた。映画制作に挑むにあたり、6年前にフィクション映画を作った時に音響スタッフとして携わった前田さんをプロデューサーとしてオファー。当時の前田さんは尼崎で旋盤加工職人をしていた。若い頃に映画学校に通い、映画への思いを捨て切れておらず「もし彼の人生にとって本作に参加することが良いきっかけになればいいな」と思って誘い、すぐに「やります」と返事をもらう。前田プロデューサーと堀井監督は香港現地に入り撮影を敢行していく。
デモの最前線には、特殊部隊による機動隊が配置されている。堀井監督は現地の警察官から「ある程度、圧力はかかっているでしょうけれど、最終的に暴力を行使するかどうかは本人の意思に委ねられている」と聞いた。外国メディアが現地入りしていることで警察への抑止効果があり「警察官としては、なるべくカメラを排除したい意識がある。我々がいる頃には、カメラを見ると積極的に催涙スプレーをかけに来る怖い人もいました」と打ち明けながらも「勿論、丁寧な警官もいます」とフォローする。監督自身も撮影中に警察官からの被害を受けており「至近距離から催涙スプレーをかけられたり、路上で2回程度拘束されたりしたことがありました」と告白。「デモ隊についていって撮影していると、狭い路地に追い込まれ、両側から何十人もの警察官が来て彼等と一緒に私も壁に並ばされて拘束されました」と当時を振り返りながら「外国人である私は、日本のパスポートを提示することで先に現地で開放されました」と安堵する。なお、香港の若者達の場合について「荷物検査を受けて、ガスマスクや危険なものを所持していたら即逮捕ですね」と冷静に話す。また、同時期にいた日本人の大学生がデモ見に行った現場で警察官に逮捕され日本のメディアで報道され批判を受けていたことも添える。現地の若者達に取材するにあたり、顔を出して抗議活動している人達は問題なかったが、嫌がる方もいた。カメラを向けた日本人の中年男性が暴行を受けていたという報道もある。
撮影後、28分間のドキュメンタリーとして編集された本作。堀井監督にとって28分の短編で映画を作ることは普遍的であり「今まで短編映画を作ってきたので、延長線上だと思って作っています」と述べる。制作時には劇場公開まで想定しておらず「最初は、10分程度の短編を作ってYou Tubeで趣味的に公開しようかなという気持ちで作っていた。様々な方が『香港のことを知りたい』という思いがあったから劇場公開に至りました」と感慨深い。撮影素材は40~50時間もあり、長編ドキュメンタリーも不可能ではなかったが「今回の題材に関しては、私はデモの経緯や歴史を描くより、香港にいる若者達の感情を描くことが一番大切だ」と確信。様々な情報を削ぎ落として彼等の感情にフォーカスしており「映画を作る上では、30分弱という尺は自分にってはベストな選択だったんじゃないか」と自信がある。なお、1ヶ月半の撮影期間を24時間(1日)の出来事として再構成しており「アメリカのインディーズ映画『Hotel 22』から影響を受けている。サンフランシスコで路上生活をしているホームレスが冬になると夜に暖を取る場所がなく22番線というバスの中で朝まで過ごす一日を追ったドキュメンタリーで、24時間構成で時間が表示される」と解説。撮影の終盤には、印象的な出来事に遭遇し「自分はこれを描きたかったんだな」と気づき、作品の落としどころが見え完成に至った。
完成した本作は、門真国際映画祭2020で初披露されドキュメンタリー部門・最優秀賞を受賞。観客からの驚きが大きく「メディアで何度も目にしている映像だけど、視点や主観がある。若者達の素性や気持ちや感情が伝わっていなかった。抜け落ちている部分が映画では描けており、衝撃を受けている」と好反応を得ていった。なお、今後、現在のコロナ禍が落ち着き外国への渡航が問題ない状況になったとしても「香港に関しては、今のままだと私は二度と入国できないかもしれない。かなりの危険性がある」と認識している。一方で「香港デモの活動が世界に拡がっているので、その活動を行っている方々には興味があります」と視野を拡げており「市民運動や社会運動を外国で撮ったので、少なくとも2作はアジア全域のどこかで行われている運動を追いかけ、3部作にしたい」と大変な状況下においても未来に目を輝かせていた。
映画『香港画』は、1月9日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、1月23日(土)より神戸・元町の元町映画館、2月26日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
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- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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