破壊と創造を見つめている人達を映し出す…『セメントの記憶』ジアード・クルスーム監督とのSkypeトークイベント開催!
中東、レバノンの首都ベイルートで暮らす、シリア難民の労働者をクローズアップしたドキュメンタリー『セメントの記憶』が、4月13日(土)より関西の劇場で公開。初日には、ジアード・クルスーム監督のSkypeを用いたトークイベントが開催された。
映画『セメントの記憶』は、長い内戦を乗り越え、バブル経済真っただ中にあるベイルートの超高層ビルの建設現場を捉えたドキュメンタリー。地中海を眺望する超高層ビルの建設現場で働くシリア人移民・難民労働者たち。ある男が、出稼ぎ労働者だった父がベイルートから持ち帰った1枚の絵にまつわる記憶を回想し、父への思いを巡らせる。ベイルートへ亡命した元シリア兵のジアード・クルスーム監督が、移民労働者の姿と建設ラッシュに沸くベイルートの美しい街並み、そして戦争で破壊された労働者の祖国の映像を交互に映し出し、戦争と建設のイメージ、破壊と創造の概念、喪失と悲しみの記憶を詩情豊かに描くことで、人間の愚かさや終わらない戦争の悲しみを訴える…
上映後、ジアード・クルスーム監督とSkypeを用いたトークイベントを実施。画面を通してシリアの事情を伺った。
本作は、登場人物へのインタビューがないドキュメンタリーとなっている。シリアではアサド政権が恐れられており、どのような状況で国を追われてきたのか話せない。また、劣悪な環境で働いているが、不平や不満を言っても改善されず、労働環境について話すと、ビルのオーナーに伝えられ解雇されてしまう。そういった状況で監督と撮影クルーは完全に音が消された世界に直面した。そこでジアード監督は「インタビューではなく、サイレントムービーを作ろう」と決断。「サイレントムービーは場合によっては話すことより物事を伝える力を持っている」と確信した。そこで「大きなシステムの内側から描こう」と方針を決定。労働者はシステムの中では完全にビルのオーナーから奴隷扱いをされており、人権もなく話す権利も持っていない。労働者はビルを作るというシステムの中で一つのマシーンとして稼働している。まさに、人間とマシーンは一つのものとして描いていった。撮影したビルには300~400人の労働者が勤しんでおり「彼らは全員シリア人。若い方が多い。シリアから逃げているが、空爆を受けて家を破壊された者もいれば、街中に居るところを政府軍にスカウトされ軍部に入れられて戦場に送り込まれることを拒んだ人もいる」と解説する。なお、労働者には保障等は一切なく、保険にも入っていない。実際、レバノンで原いているシリア人労働者は年間200人がレバノンで事故等で亡くなっている。もし骨折し病院の方へと向かうと、その時点で失業してしまう。
ジアード監督は、シリアから亡命して7年が経つので、シリアの全てを知っているわけではない。だが、シリアに残っている人ともまだつながりがあり、状況は聞いている。まだシリアに残っている人達は2つに分かれている。一つはアサド政権下で暮らしているが、安定した生活を送っている。その一方では、政権に反対する人達の下で、空爆で家が壊されているような場所に住んでおり、空爆もまだ行われている。現状、一千万人以上のシリア人が国外に避難民として存在しており、シリア内にいる人たちはどのような人生を今後作っていくべきか模索中だ。ジアード監督自身も「まだアサド政権が存在していることはおかしなこと」だと考えている。様々な理由があるが、その一つが、アサド政権をサポートしている国際社会が存在してあること。さらに、ロシア軍、中国、イラン軍がサポートしており、ロシア軍は、シリアの80%以上をロシア軍が破壊している。「国際社会で力を持っている国がアサド政権をサポートしている。彼らが政権の座に留めていることをしている」と嘆くしかない。
本作を構成するにあたり、ジアード監督は、戦争と建設の映像を対比的に描いている。「戦争する人も再建する人も結局は同じ人がやっている。全ては、人間が戦争を起こし、再建でお金を儲けている人間がやっている」とを描きたかった。資本主義の構造も映しており「一度大きな戦争を起こしても、そこから学ばずまた戦争を繰り返している」と社会のサイクルも描いている。また、ベイルートからの映像を入れるためにも、綺麗に美しく撮るだけの映像にはしたくなかった。ジアード監督は、大きなシステムの中で破壊と創造を見つめている人達を映し出し、今後も世界に訴え続けていく。
映画『セメントの記憶』は、大阪・十三の第七藝術劇場で公開中。また、4月20日(土)より、京都・烏丸の京都シネマでも公開予定。
- キネ坊主
- 映画ライター
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