私の作風とは正反対。だが、この物語には普遍性がある…『ヴィットリア 抱きしめて』巨匠ナンニ・モレッティの動画コメント到着!
©2024 Zoe Films, Sacher Film, Scarabeo Entertainment, Ladoc
ナポリで家族と暮らす女性が、繰り返す夢をきっかけに養子縁組を望み、穏やかだった日常が少しずつ揺らいでいく『ヴィットリア 抱きしめて』が4月10日(金)より全国の劇場で公開。今回、本作のプロデューサーを務めたイタリア映画界の巨匠であるナンニ・モレッティの動画コメントが到着した。
映画『ヴィットリア 抱きしめて』は、養子縁組を通して家族同士の複雑な関係性や倫理観を描いたイタリア発のヒューマンドラマ。ナポリでヘアサロンを営みながら、夫や3人の息子たちと暮らすジャスミン。家族仲は円満で仕事も充実しているが、自分の人生に足りない何かを感じていた。父を亡くした後、ジャスミンは見知らぬ少女の夢をたびたび見るようになる。夢の中で自分の腕に飛び込んでくる少女に会いたいと強く望む彼女は養子縁組を行うことを決意するが、家族から理解を得られず家庭内がぎくしゃくしてしまう。しかも、通常の養子縁組では性別を選ぶことは許されないことだった。『カリフォルニエ』のアレッサンドロ・カッシゴリとケイシー・カウフマンが監督・脚本を手がけ、同作にも出演したマリレーナ・アマートが主演を務めた。製作にはイタリアの名匠ナンニ・モレッティが名を連ねた。2024年の第81回ベネチア国際映画祭アルカ・シネマ・ジョヴァーニ部門にて最優秀イタリア映画賞を受賞。
巨匠が惚れ込んだ「非職業俳優」による真実味と、物語の「普遍性」
カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作『息子の部屋』(2001)等で知られ、世界三大映画祭の常連、イタリア映画界を代表する巨匠ナンニ・モレッティ。監督・脚本・主演を自らこなし、社会風刺や政治的なテーマを鋭く描く知性派として知られるモレッティが、本作をプロデュースした理由を「常に自分の映画からかけ離れた作品を探してきました。本作は私のスタイルと大きく異なりますが、小さな物語でありながら、世界中の観客の心に訴えかける普遍性がある」と熱く語っている。

©2024 Zoe Films, Sacher Film, Scarabeo Entertainment, Ladoc
監督を務めたドキュメンタリー作家のアレッサンドロ・カッシゴリと、ジャーナリストのケイシー・カウフマンのコンビは、前作の『カリフォルニエ』(2021)で、ナンニ・モレッティ主催の新進監督コンペティション「Bimbi belli」で最優秀作品賞を受賞した。いわばモレッティの秘蔵っ子とも言える異種監督の二人は、ハンディカメラを多用し、少人数のクルーで迅速に撮影する手法をとる。自分のこだわりとは異なる手法を使いながらも「美しく、明快で、感動的だ」と断言。

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また、ナポリに暮らす一家が新しい家族を国際養子縁組で迎え入れた実話から誕生した本作で、主要キャストを本人たちが演じているという驚きの試みについても言及。「自分自身をカメラの前で演じることは非常に難しいが、主演のマリレーナとリーノは素晴らしく、人間性が豊かで真実味がある」と、監督の演出力とキャストの幸運な才能を評価。

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モレッティ自身、自分の作品でプロではない俳優を起用することがあり、大学教授の父親を毎作品に無理やり出演させていた、と動画内でも語っている。とはいえその出演基準は極めて厳しいもの。演技経験のない本人がカメラの前で演じることがいかに困難かを知り尽くしている彼が、「的確な表現ができている」と太鼓判を押した。

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イタリア映画の底力:現実を映し出す「ネオレアリズモ」の系譜
本作の魅力について、ラジオDJ・翻訳家の野村雅夫さんは、イタリア映画の伝統である「ネオレアリズモ(非職業俳優を巧みに演出する手法)」が今も息づいていることを指摘。野村氏は「特に感情表現も仕草も豊かな南部の人々が達者な演技をしてみせることはこの作品が証明している」とし、「スターはひとりも出てこないけれど、生き方について学び考えるきっかけを与えられ、イタリア映画の底力を見た」と評している。

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また、イタリアと日本の相似性(南北に長い国土や少子高齢化、伝統的家族観、海に囲まれているところなど)を踏まえ、遠い異国の養子縁組をめぐる葛藤が、日本との比較も含めてとても興味深いところとし、養子が家族や社会にどう馴染めるかという、「受け入れてから」の映画が先行作品に多い中で、今作は逆に「受け入れるまで」、むしろ「受け入れられるかどうか」という部分に着目し、ある種のサスペンスとして成立させたところが、非常にユニークだと解説している。
映画『ヴィットリア 抱きしめて』は、4月10日(金)より全国の劇場で公開。関西では、4月10日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田や京都・烏丸御池のアップリンク京都、4月17日(金)より兵庫・神戸のシネ・リーブル神戸で公開。

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養子縁組を希望する、或いは、養子縁組を受け入れざるを得ない、といった状況になることは、突然やって来るものだ。それは、家族によっては理解し難いことでもあるだろう。国は違えど、本作を鑑賞することで、多様な視点を以て特別養子縁組制度に関する理解を深めることが出来るのではないだろうか。そして、今作を鑑賞する上で驚かされたことは、当事者キャスティングだ。主人公と家族を、プロの俳優ではなく、モデルとなったマリレーナ・アマートと家族本人が演じているとは最初は思わないだろう。ドキュメンタリーではなく、あくまで劇映画で自らのことを本当に演じることができるのか…と考えてみると、自分自身以外の人物を演じることは出来ないし、自分自身以外の俳優に演じてもらうことへの違和感もあるだろう。この当事者キャスティングは起こるべくして起きたのではないだろうか。だが、自分達が経験したことを演じることによって、自ずと過去に向き合わねばならない。とはいえ、今作への出演により、現在と未来を前向きに生きることができる、といった作用も生じるのではないだろうか。本作は、実際の出来事を”自由に翻案”している、とのこと。冷静に考えてみると、そんな風にしてクリエイティブな取り組みに挑める程に、この家族は幸せなんだろうな、と想像してしまう。だからこそ、過去に抱いた葛藤すらも自ら演じることが出来るのではないだろうか。考えれば考える程に示唆に富んだ作品であることが分かり、特別養子縁組制度の普及と理解が促されていくことを心から願うばかりだ。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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