神威監督作品へコンスタントに出演させていただいていることも成長の1つ…『ヘブンズベル』平塚千瑛さんと神威杏次監督に聞く!
20年前の一家惨殺事件を生き延びた女性が、差出人不明の写真を手がかりに、治外法権の街“エリア4”へ足を踏み入れる様子をコミカルな群像劇を交えて描き出す『ヘブンズベル』が公開中。今回、平塚千瑛さんと神威杏次監督にインタビューを行った。
映画『ヘブンズベル』は、『ムーンライト・ダイナー』『7WAYS』等でハードボイルドな世界観を貫く神威杏次監督によるサスペンスアクション。20年前の一家惨殺事件を発端に、失われた真実を求める人々の運命が、”エリア4”と呼ばれる無法地帯で交わる様を描く。20年前の一家惨殺事件で生き残った10歳の少女である菜摘。事件では菜摘のほか、その場にいなかったことにされた“3人目の男”だけが生存し、2人組とされた犯人たちは謎の死を遂げた。20年後、成長した菜摘のもとに送り主の分からない1枚の写真が届く。写真の裏に記されたヒントを手がかりに、菜摘は治外法権の街”エリア4”へ向かう。一方、闇組織の女であるリンカは、雇った囚人たちを使い裏金を集める任務に就いていたが、組織に裏切られ命を狙われる。脱獄囚の矢吹と藤川に助けられたリンカは、奪った金を洗浄するため取引場所であるエリア4に足を踏み入れる。主演は、『スモーキー・アンド・ビター』以降、神威監督作品の常連となっている平塚千瑛さん。同じく神威作品常連の中川ミコさん、元”猿岩石”の森脇和成さんらが共演。さらに、神威監督が特撮ドラマに多数出演していた縁から、「恐竜戦隊ジュウレンジャー」の和泉史郎さん、「超新星フラッシュマン」の石渡康浩さん、「王様戦隊キングオージャー」の神里まつりさん、「仮面ライダークウガ」のたなかえりさん、スーツアクターの横山一敏さん、五味涼子さんら特撮作品で活躍してきた面々が出演している。
TVドラマや舞台等、映画だけでなく幅広く出演してきた平塚さん。だが、コロナ禍を契機に、自身の実力を改めて認識。「それまで努力してこなかったのは、自分のせい。まずは体を作ろう」と思い、フィットネスインストラクターの仕事も行い、体を動かす習慣作りにも励んだ。そんな状況下に、神威監督から声をかけられた。平塚さんが所属する事務所から自身の作品に出演した女優がいたことから、神威監督は改めて所属タレント一覧を確認していく中で「ポスタービジュアルが格好良い。是非、平塚さんに出演してもらえませんか」とオファー。平塚さんは驚いたが「監督が好きな映画を知っていくと、私にたどり着くんだな、と分かりました。今まで出会いたかった女優なんだな」と納得した。
最初の作品『スモーキー・アンド・ビター』は、西部劇的なロケ地を舞台にした無国籍ハードボイルド映画。工藤俊作さんが主演では、平塚さんは主演のサポートをするような妾の役であったが「素晴らしい俳優さんと一緒に出演させてもらいました。それまでは、強い女性や、男性の中に1人だけ存在している女性の役が多かったんですけど、それとも違ったおもしろい役作りが出来ました」と大満足。以降、神威監督の作品には毎回出演することになった。
だが、神威監督が執筆する脚本は、ト書き含め登場人物のバックグラウンド等が書かれておらず、平塚さんは役作りで苦労をすることに。自身の理解が合っているか、と詳細を詰めていった。神威監督自身が俳優でもあることから「台本を読み、分からないけどやる、と言ってくれた以上、脚本に対して最低限の思考ができているはず」と期待し、キャストが準備し持参してきた演技プランを信頼している。「情報は少ないかもしれない。だけど、何らかの案を出してくれる。そんな安心感を一度は活かしたい」と考えており「リハーサルで見せてもらった際、”そうきたか”となったら”そっちでいこう”とシフトする」と説く。「役者は、あやつり人形ではない。役者が持参したプランをベースにしたい。映画では、全てを伝える必要はない。画を撮ることができれば成功」と解釈しており、自身がじっくりと突き詰めて撮影していくタイプではないことを明かす。平塚さんとしては、これまで演じてきた経験により、受け入れ難い役を割り当てられることはなく、求められている演技を理解できた。故に、神威監督は平塚さんを信頼している。
そして、今作『ヘブンズベル』では、平塚さん自身もアクションをすることから「今までやっていた感覚だけでは絶対にダメだろうな」と認識。「監督の思惑が、しっかりとあるはず。 コレだけは絶対にブレてはいけないな」と思い、神威監督としっかりと話し合った。平塚さんが主演ではあるが、劇中ではずっと登場しているわけではないことから「私としては、主演だとは全く思っていない。ストーリーの軸となるのが私の役であり、それぞれのキャラクターにストーリーがあり、際立っている」と理解しており、神威監督も「あくまで、群衆劇の中で主演。出演シーンは皆と変わらない。根本となるプロットにおける人物像が存在しないと、映画がぐちゃぐちゃになってしまう。プロットでは、平塚さんが演じたキャラのストーリーがあり、途中で違うベクトルに向かうが、最後を締める存在として必要だった」と解説。故に、平塚さん自身も主演としての責任を感じ、真摯に役と向き合っていった。なお、アクションに関しては、共演した熟練の俳優陣に助けられたことが大きく「受けの演技が上手いので、強く見えさせてもらえる」と告白。神威監督としては、若い頃から特撮作品の撮影現場で一緒に仕事をしているプロフェッショナル達を信頼していると共に、アクション指導の林潔さんが声かけしていることから「キャスト達は体力があり、様々な経験があることを知っているので、林さんが指導するなら大丈夫」と安心して殺陣を任していた。だが、平塚さんは林さんから「優しすぎてダメだ」と言われてしまい「戦う気でやれば、もっとおもしろくなったかな」と振り返る。そんな様子を鑑みながら、神威監督は「役者としては、分かります。遠慮してしまうんですよね。ただ、 お互いに分かるから、大丈夫なんですよね。今思えば、撮影当時のベストではあるんです。だけど、さらに踏み込めば、一段階上がった、ということは確かにあるかもしれない」と冷静に受けとめていた。
『私は絶対許さない』への出演が、本格的な演技をするきっかけだった平塚さん。当時について「ホントに下手だった。基本的なことが出来ていなかった」と振り返り、現在は、ボイストレーニングにも通い、改めて、発生の基本を学んでおり「神威監督作品へコンスタントに出演させていただいていることも成長の1つ」と話す。これを受け、神威監督は「自分達には分からない。 成長は、後になって分かる」と述べ「監督は、映画全体について毎回考える。せっかく作るなら、何らかのグレードアップをしなきゃいけない。どこをどのようにグレードアップしようか、と役者のことも含めて考える。僕が信じている俳優さん達の力を毎回全て使っているわけじゃないので、その中から今回はここを使ってもらおう、と考えているだけ。だから、今作によって成長してもらおう、といったおこがましい考えはない」と真摯に語る。
完成した本作について、神威監督は「映画は、テーマを見せるもの。ストーリーを見せるのではなく、テーマを訴えれば勝ちだと思っています」と踏まえた上で「今回、物価高や理不尽な制度によっておかしくなっていることに対する社会的批判として、時代を映し出すメタファーをキャラクターで表している。その上で、最終的には何も分からず無力だけれども、真っ当に生きるしかない」と言及。「ただ、僕らは生きるしかない」というテーマがあり「社会の中で生きる様々な人達にとって、何が善か悪か、正しいかどうか、は自分でも分からない。だけど、自分なら今はこれだ!と思う行動をして生きるしかない。その結果として、世の中が作られていく。こんな社会だから、こんな風にしか生きられないのが人間だと思います。そういった人間の弱さや悲しさがある中で頑張っていこう、と観客に伝わればいいな」と願っていた。なお、平塚さんは、今後の神威監督作品では「おもしろおばちゃん役も演じたい」と言いながらも「いつか峰不二子役のオファーが来たら応じられるように、日頃から頑張らないとダメだな」と話す。神威監督も「『ドーベルマン』でのモニカ・ベルッチのように思いっきりやってもらおう」と楽しみにしている。
映画『ヘブンズベル』は、劇場で公開中。3月28日(土)より愛知・名古屋のシネマスコーレで公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
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