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人の運命を司るギリシャの三女神モイライをモチーフにした、3人の映画作家によるオムニバス『Moirai』がいよいよ劇場公開!

2025年1月21日

©LesPros entertainment, G-STAR.PRO

 

結婚を控えた男性に知らされた事実、介護の日々を送る男性、夫の変化に戸惑う妻など、生と死について三者三様の視点で描く『Moirai』が1月24日(金)より東京・新宿の新宿武蔵野館で公開される。

 

映画『Moirai』は、日本映画界の“新しい波”を標ぼうして2014年に始動した映画上映企画「SHINPA」のために撮り下ろされた短編3作品をまとめたオムニバス。
「SHINPA」中心メンバーである映画監督の二宮健さんが手がけた「嗚呼、かくも牧場は緑なりけり」(2022年/29分)、演劇ユニット「ピンク・リバティ」代表で「彼女未来」など映画も手がける山西竜矢監督の「母と牛と」(2023年/24分)、「ペナルティループ」の荒木伸二監督による「その誘惑」(2024年/31分)の3作品で構成される。
婚約者のハナに誘われ、彼女の育った牧場を訪れることになった純之介は、ハナから「前の彼氏を紹介する」と言われて戸惑うが、そんな彼の前に現れたのは一頭の老馬だった(「嗚呼、かくも牧場は緑なりけり」)。ある地方都市に暮らす洋司は、ほぼ寝たきりの母親・双葉の介護が生活の中心になっていたが、ある日、双葉が部屋の中で倒れているのを発見する(「母と牛と」)。翻訳者の香織は、夫の孝雄の行動や嗜好が変化していることに気づき、違和感を抱いて観察を続けるが、まるで別人になったかのような夫に今までにない魅力を感じてしまう(「その誘惑」)。

 

映画『Moirai』は、1月24日(金)より東京・新宿の新宿武蔵野館で公開。

どこへ連れて行かれるのか、それぞれどんな感情を抱けばいいのかわからない――それこそが、映画というアートフォームの魅力なのだと再認識した。

 

日本の映画界において作家性と存在感を確立しつつある3人の監督による3つのオリジナル短編映画からなる本プログラムは、統一されたお題というものがあるわけでなく、あくまで自由に、更に撮られた時期も様々。ゆえに制作側からの明確な解答はない。しかしそこで終わっていては何も広がりがないのもまた事実。僭越ながら、果敢に無謀になんらかの言葉を紡いでみたく、キーボードを叩いてる今しがたである。
率直な見解であるが、これは「3」に纏わる眼差し、もっと具体的にするとこれまでバランスを保持していた2人の関係に、他者(第3の存在)が介入することによる【決定的な変化】を捉えんとする3人の映画作家の試みであるように思えた。

 

作品ごとに言及していこう。トップバッターは二宮健監督の『嗚呼、かくも牧場は緑なりけり』。シネマスコープサイズの画面に映える赤い車を挟んだ男女のカップル。「前の彼氏を紹介する」と言われ、2人は彼女の育った牧場へ向かう――何よりもこのシークエンスの素晴らしさを見逃すまじ。背景と動体(2人の乗る車)、そこに存在する水平線の関係。ショットの正解なんていくらでもあるが、それでも「これしかない」という力強さを受け取った。「嗚呼、最高の映画体験なり」などと悦に浸っていると、2人の前に【とんでもない存在(何なのかは本当に言えない)】が現れ、物語は一気にドライブする。彼と彼女と【何か】の緊迫感溢れる会話は切り返し(カットバック)と共に積み重なる。ペンションの窓枠を駆使した精緻なフレームワークなど、極めて映画を撮るということに革新的な演出であるがゆえに「これは一体何を観ているのだろう」という、不思議な衝撃をただただ受け止めるほかなかった。

 

次に始まるのは山西竜矢監督の『母と牛と』。画面のアスペクト比が一気に変わり、慎ましいアパートのシーンから始まるので、こちらのモードもガラリと切り替えを余儀なくされる。ほぼ寝たきりの母と息子の暮らしが抑制的に映し出され、被写界深度の浅さ(部屋にピントを振らずあくまで登場人物にフォーカス)も相まってギリギリの均衡が直截的な台詞がなくとも伝わってくる。ここでの窓はカーテンが閉め切られていた。外界との断絶、どこにも行けない息苦しさ――言葉にすれば陳腐になるが、静謐であるがゆえのズッシリとした空気がそこにはあった。そんな二人の生活をカメラはある種観察的に生活の質量を積み重ねるが、ある場面で【第3者】が現れる。二人だけの世界に突如として来訪したその人は、【何か】をもたらすには十分すぎた(その後のロングショットにおける息子の動きに、【変化】の全てが込められている)――映画は瞬間を捉える芸術ともいわれるが、まさにこの局面を描くためにこれまでがあったのだと言いいたくなるようなモーメントに、声にならない声が出てしまった。

 

最後に始まるのは荒木伸二監督の『その誘惑』。翻訳者の妻は夫の様子が最近変わってしまったと訝しがる――というイントロダクションから仕掛けてきているのがわかる。先の2作と違い、開始時点で2人の関係は既に変化してしまっている。荒木監督は3人の中で最後に作ったとのことだが、明確にアプローチを変えてきたところに「なるほど」と膝を打った(画面のアスペクト比も変えてきている)。一体何が夫を変えてしまったのか?夫婦の住むデザイナーズマンションのモダンな雰囲気と夜の暗闇、バスルームの鏡を使ったシーンなど、ノワール的なニュアンスを随所に散りばめ、物語は思いもよらぬ真相を辿る――日常と非日常は思いの外あっさりと交差する。リアリティラインは大きく揺らぐ。変化の正体(それがどこまで本当のことなのかは此処に於いてはさほ重要ではなかろう)を知った妻の背後に、窓から優しい光が降り注ぐ。【気付いてしまう】ということは【これまでと同じではいられない】ということなのである。

 

ここまで筆者なりに各短編の紹介と通底する【コード】のようなものを探ってみたが、そんなことより3作品とも極めて【映画的な映画】であることが、何よりも素晴らしかった。形式とナラティブの三者三様の企みを、ぜひとも関西でも公開され、1人でも多くの方に目撃してもらえる機会を。

fromhachi

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映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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