エンニオ・モリコーネといえば後世に語り継がれる数々の映画音楽を作曲した偉大な作曲家だ。映画ファンならずとも、どこかで彼が作曲した曲や編曲した曲を聞いたことがあるのではないだろうか。しかし、彼の生涯や苦悩について知る人はあまりいないかもしれない。今作はモリコーネの生涯や偉大さを彼が作り上げた名曲たちとともに振り返っていくドキュメンタリーだ。しかも、今作を監督するのは『ニュー・シネマ・パラダイス』や『海辺のピアニスト』などでタッグを組んだジュゼッペ・トルナトーレ監督である。並々ならぬ想いが詰まったドキュメンタリーであることが想像できる。

モリコーネの凄さとは何か？と言われたら、耳に残るメロディを生み出す力と現代音楽的なアプローチだろう。今作に登場する様々な監督や作曲家、ミュージシャンが彼の音楽を語るとき、必ずメロディを口ずさむ。恩師であるゴッフレード・ペトラッシの影響と複数の旋律を調和させて重ね合わせる対位法を使いこなすモリコーネのメロディセンスは、映画音楽だけでなくポップスにも多大な影響をもたらした。メロディまで印象に残る映画音楽を作る作曲家がめっきり減った昨今、聞いただけでシーンが蘇り、メロディにうっとりしてしまう曲を作ることができるのは、実はとても凄いことなのだ。また、モリコーネはノイズの使用や最新の楽器を音色に加えるといった手法も果敢に取り入れる。いわゆる現代音楽を取り入れる手法は、現在の映画音楽において当たり前ではあるが、彼が先駆けて取り組んできたという事実を忘れてはならない。脈々と受け継がれてきた音楽の歴史と新しいエッセンスの融合は今作で流れる名曲の数々からも感じることができるだろう。

しかし、モリコーネ自身は大きな苦悩や劣等感を抱いていた。トランペット奏者の父によって音楽の道を進むことになったが、芸術と商業との間で揺れる日々を過ごすことになる。また、映画音楽で成功したものの、アカデミックな音楽家として活躍していた恩師ペトラッシとの間には確執が生まれてしまう。様々な苦悩を抱え、映画音楽からの引退も考えていたというモリコーネはどうやって困難を乗り越えていったのか。本人の口から語られる貴重な証言は必見だ。他にも、名コンビとして『荒野の用心棒』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』などを手掛けたセルジオ・レオーネ監督との逸話やモリコーネが指揮するコンサート映像など、貴重な話や映像が盛りだくさん。映画音楽が好きな人も、そうでない人にも必見なドキュメンタリーだ。是非とも劇場でモリコーネが偉大とよばれる所以を確かめてほしい。

fromマリオン